真夜中の誘い
父さんは眠った
母さんも眠った
ずっとそばにいる
黒い死霊だけは眠らない
枕許で死霊はささやく
きみとぼくとで
みんなをあっと言わせよう
手を握るんだ
そうすればあとは
ぼくに任せて眠ればいい
死霊の吐息は土臭い
悪いけど
布団の外に手を出したくない
いまは夜中でとても寒いから
枕許で死霊はささやく
ぼくの手を握れば
こころがとても温かくなるよ
きみの嫌いなアシダカグモにも
負けないくらいに強くなれる
手を出してあとは眠ればいい
死霊の声はカビ臭い
悪いけど
知らない人には触りたくない
他人はクモより苦手だから
枕許で死霊はささやく
きみとぼくとは
生まれる前からの仲なんだよ
お腹の中で先に死んだ
きみの大事な影なんだ
もう一度だけ共に眠ればいい
死霊の言葉は哀れっぽい
悪いけど
早く黙って眠りたい
きみの望みはよくわかったから
ぼくは死霊の手を握り
眼を閉じ眠って夢をみた
朝になると
ぼくはぼくの外にいた
ぼくなしで営まれる朝の食卓
ぼくの椅子には知らない誰かが座っている
おはようと父は言い
よく寝たねと母は言う
お父さん
お母さん
それはぼくではないのです
ぼくを纏った死霊なのです