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彼岸へのバス
バスに揺られて
彼岸へ渡る
窓外を流れる
冬枯れの景色
黒衣の鵜飼と乗り合わせた
風雪に耐えて年輪を刻んだ老いた顔
座席に座り
顔のない運転手に問いかける
おれは何回死んだんだ
十五回目です
返答を聞き
黒衣の匠はうなずいて
深々ともたれて瞑目する
あとは沈黙
バスはガタゴト揺れている
しどけない貞女と乗り合わせた
ぐるりに合わせて形姿を変えてきたような輪郭
吊り革を握り
顔のない運転手に問いかける
死んだ子どもを見ませんでしたか
二本前の便です
返答を聞き
しどけない烈婦はため息をついて
崩折れそうな姿勢で瞑目する
あとは沈黙
バスはガタゴト揺れている
麗しき異神と乗り合わせた
捧げられた供物を蹴散らしてきた御御足
先頭に陣取り
顔のない運転手に問いかける
崩御した神はどこへ行くのか
三界の向こう側です
返答を聞き
麗しき大神は凍りついて
そよ風に溶けながら瞑目する
あとは沈黙
バスはガタゴト揺れている
彼岸へのバスに
生きた乗客はぼく一人
たどりついた先には
どんな死が待つのだろう