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ヴォネガットとティプトリー
ヴォネガットとティプトリー
二人ともSFと呼ばれる作品を残した
前者はSFに愛憎半ばする想いを抱いた
後者はSFに熱狂的な愛を捧げた
二人とも死に近い作風だった
二人とも自殺未遂を起こした
前者は階段で転び頭を打って死んだ
後者は自分の頭を撃ち抜いて死んだ
二人とも第二次大戦のおり軍人になった
二人とも皮肉なユーモアを愛した
前者は二○○七年の春に死んだ
後者は一九八七年の春に死んだ
二人に関係は
特にない
どちらも個人的に愛読しているだけだ
ただなにか
作品から伝わる痛みの在り方が
どことなく似ている気がする
ティプトリーは他の作家への手紙で
ヴォネガットへの批判を書いていた
ヴォネガットはティプトリーについて
なにか言ったのかどうかは知らない
本を読むことは
死者とつきあうこと
二人は自分にとって
とりわけて慕わしい死者たち
残された言葉に痛みは宿るけど
死せる魂は安らいでいてほしい