猟奇歌三十首
殺された
騒ぐ子どもがそうわめく
向かいの席のぼくを見ながら
狂ったり
狂わなかったりする友に
死骸を集めた小瓶をもらう
首だけは
隠しておけよと死にかけの
祖父の今際のよきアドバイス
日記には
文字は書かずに血をつけて
日々の斑の赤を楽しむ
子どものころ
蛇を殺して埋めたでしょ
耳に唇つけ女が嗤う
仏さん
骸屍糞袋
死んだやつらの色んな名前
陰ながら
あなたを応援しています
殺人鬼から手紙が届く
窓の外
骸骨いるよと幼少時
自分は言って指までさした
もういいや
遺書の最初にそう書いて
あとはサボって投身自殺
恋をした
死体の頬は蒼白く
ときめきながら蛆に喰われる
森のなか
首吊り死体に出くわして
顔を見たなら我が子の寝顔
夢にみる
ほどに焦がれた彼女でも
死出の旅路は付き添い不要
指洗い
爪をほじくりまた洗う
人の目玉を潰したその夜
髪ほどき
うなじ隠れたその背みて
結ばせた後に絞めようと思う
死にながら
最期に語るその言葉
数えてみたら五七五
ピアノ聴き
指の舞踏を見ていたら
燃える坊主の舞い思い出す
殺戮は
許されることではありません
言ったその日に異人に唾はく
ぐしゃりとか
ざくっぼきっぎぎぎっねちゃりとか
それらはすべて好みの擬音
優男
子どもの手を引くその顔を
二度目に見たのは手配のポスター
恋をして
死んであの世で恋をして
生まれ変わって恋して自殺
点々と
雪に埋もれた浮浪者を
誰も気にせぬ冬は来にけり
孤独死は
自分の未来と悟りきる
若者たちの死ぬる練習
故人には
会えぬ科学の世界観
死者を夢みて降霊に凝る
朝まだき
鴉がつつくその死体
昨日はあんなに笑ってたのに
ゴミ屋敷
人が入って片づける
真っ先にどける主人の死体
バラバラに
してよお願い死んだ後
彼女は言って毒飲み眠る
彼岸花
屍の横に咲き誇る
死人花とも毒花ともいう
猫なでて
なでたその手で手首切り
指が暴れてアハハと笑う
夜の闇
おそれる彼女を見送って
彼女のこころを闇にて穢す
死にたいよ
彼女と意見が一致して
一緒に旅する出立は秋
(夢野久作を偲んで)