表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/917

欠けた記憶

 いつ果てるともしれない

 子どものとめどないおしゃべり

 相槌をうつと

 反応が嬉しいのか

 なおも話の種は尽きない

 思いつくままに

 曲がりくねるままに

 時間も気にせず

 目的地も定めず

 ただひたすらに

 つたない言葉で語りつづけている

 ひたすらに


 いちばん古い記憶はどんな記憶かと

 たずねてみた

 母親と別れて

 泣いていた時だそうである

 それはとてもよくわかる答えだ

 ぼくはたしか幼少時

 もっとも古い記憶が三つあった

 二つの情景はいまでも思い出せる

 あとの一つは

 忘れてしまった

 いつかまた思い出せるだろうか

 死ぬまでに


 子どもはずっと無防備なまま

 なおもしゃべりつづけている

 不思議なくらいに懐いてくれているこの子どもが

 どんなふうにぼくを記憶するのか

 どんなふうにぼくを忘れるのか

 よくわからない

 ぼくはこの子どもをどんなふうに記憶するのか

 どんなふうに忘れるのか

 死ぬまでに


 欠けた記憶

 初源の記憶

 そんな大切なものさえ忘れてしまえるなら

 この世に忘れられない記憶なんて

 ぼくにはきっとないだろう

 あの人のことも

 死ぬまでに


 しゃべるだけしゃべった後に

 子どもは寝息を立て始めた

 どんな夢をみているのだろう

 夢のなかでも

 しゃべりつづけているのかもしれない

 ぼくは無言で起きたまま

 これまでに何度も反芻はんすうした

 記憶に刻まれた優しい声を

 忘れないうちにまた思い出していた

 死ぬまでに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ