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病水
人をみると
死の荷重で
押しつぶされそうになる
ああ
この人も死ぬのかと
眼を伏せて通りすぎたくなる
これはありふれたひとつの病
まがうかたなくひとつの病
そのくせ治すつもりになれない
自己責任が流行る時節
病んだ野外の潜在患者は
ひたすらに病を深めるしかない
自己の暗闇に潜らなければならない
病んだ水に
それでも沈む
飲み干すために
渇きながら
内臓に病水を染みこませて
骨を溶かして
皮膚を剥がす
こそげられた人間に
なにが残るのか
この病んだ水に
どんな潤いがあるのか
水は
血よりも優しい
病者にとってはなおのことだ