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鏡の中の死

 ホテルの一室で寝ようとすると

 寝床を映す鏡が目につき

 たまらずにシャツをかけた

 寝姿が鏡に映るのは不吉だと

 迷信深い自分をわらいながら

 鏡を必死になって覆い隠した


 そういえば昔

 家人かじんが寝静まった深夜

 包丁を手に持って

 鏡の前に立ったことがある

 手首に冷たい刃を当てて

 血が噴き出すのを想像しながら

 おまえが先にやってくれと

 自分の鏡像をけしかけた

 納得いかないような顔で

 しぶしぶ彼は

 自らの手首を切り裂いた

 だらだら赤い血が流れ出て

 鏡の下半分が真っ赤に染まっても

 相変わらず自分はその先に進めなかった

 話が違うと彼に罵られても

 凶器を持つ手は震えるだけだった

 彼の罵声が細くなる

 彼の唇が蒼褪あおざめる

 彼の血の気が引いていく

 彼の生命いのちが消えていく


 見苦しいほど卑怯だった自分は

 鏡から逃げ出して

 夜風に当たりながらコンビニへと歩き

 サンドイッチとおにぎりを買って

 公園のベンチで食べて寝た

 明け方に帰宅してから

 その後のひと月

 鏡を見ないように生活した


 そんなことがあったことさえ

 いまのいままで忘れていた

 鏡を覆い隠すのは

 迷信が気になるからではなく

 古い友人を見殺しにした

 恥ずべき罪を隠したかったからだ

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