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彼の人を待つ
人は待つことで女性になる
フランスの哲学者はそう言っていた
その言葉に従うのなら
ぼくはいまではまるっきりの女性だ
待つことだけがぼくの人生だ
待ちつづけて待ちつづけて
こころが根腐れを起こしそうだ
誰にも気づかれないまま枯死してしまいそうだ
もしも 枯木より存在感のないくたびれた屍体が
秋空の下に佇んでいたとしたら
それはぼくだと考えてほしい
焦がれ死にした木偶の坊だと考えてほしい
待つことで人が女性になるのなら
待たれることで人は何になるのだろう
きっと男でも女でもない
若者でも年寄りでもない
人ですらない
神のような得体の知れないなにかとなって
待つ人の内側で膨らんでいくのだろう
待つ人は女性になり
待たれる人は世界になる
フランスの哲学者は
そうは言わなかったかもしれないけど