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哀しみは血友病
いつになったら
この胸の痛みから解放されるのだろう
後ろ向きにも程がある
前向きになれたことがない
被造物に与えられた喜怒哀楽のうち
哀しみだけが際限なく肥大する
そんなうつむいた人種にぼくも属している
最初の傷
最初の嘆きは
いまもこころの片隅で血を流している
ぼくの哀しみは血友病を罹患している
時間はすべてを癒やしてくれると
魂をほじくる医者がありがたいご託宣を述べても
十年以上前の傷が
いまもぼくの暗さを規定しているように
あのときの気まずい仲違い
あのときの寂しい死
あのときのぼんやりした別れ
すべての傷口がいまも痛む
じくじくと赤く滲んでいる
ぼくは頑なな病人だ
癒えることを肯んじない永遠の患者だ
薄明と薄暮に傷をいじくって
絶対に忘れてなるものかと
涙の代わりに血を流し続ける