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子どもにあたえられた三つの黙示

 子どものころの死の想い出

 それはたとえば

 わけもわからず見た曾祖母そうそぼの火葬

 だれが死んだかさえわからない

 死が死であることさえまだ知らない

 母をふくめた大人たちが

 黒いおべべで泣いている

 恐竜の化石かと見まがう

 雪よりも真白ましろいけざやかな骨

 大人たちの箸が次々に骨をまさぐる

 その動きがあまりぎこちないので

 砂場の遊び方を知らないのだと思った

 声を忘れたように静かな大人たち

 車で火葬場を去るときに窓から振り返ってみると

 遊び足りなさそうな骸骨がいこつが道ばたに座りこんでいた

 少なくとも記憶のなかでは

 そういう仕儀しぎとなっている


 子どものころの死の想い出

 それはたとえば

 無責任に監禁された鼠たちの水死

 ある日に幼なじみと秘密基地に行くと

 毛布や生ごみがそこかしこに散らばっており

 鼠がそのあいだを走りまわっていた

 菓子箱を使って鼠たちを捕まえ

 用途のわからないプラスチックの箱に移し

 ふたを閉めきって縁の下に放置した

 どうするつもりでもない日常の遊戯

 翌日みてみると

 箱に水がたまって鼠たちがしとどに濡れていた

 チョウを殺しトカゲを殺しバッタを殺し

 息をするように小さなものたちをなぶる子どもだったが

 水に浸された齧歯類げっしるいの死体は

 暗い予兆のような罪を感じさせた

 少なくとも記憶のなかでは

 そういう仕儀となっている


 子どものころの死の想い出

 それはたとえば

 隣のクラスの女の子の早世そうせい

 親しく話したこともないが

 姿と声くらいは覚えがある

 なぜだかとげとげしい怖そうな印象だったが

 幾度か接したときは穏やかだった

 だから悪感情はない

 でもその程度の距離感だから

 哀しんだといえば嘘になる

 涙の一滴も注いでいないし

 思い出すことも稀にしかない

 何度も読み返したマンガの死者よりも

 架空の存在に限りなく近い

 無理矢理にでもなにかを想うなら

 子どもも死ぬという一事だけを学んだ

 少なくとも記憶のなかでは

 そういう仕儀となっている


 子どものころの死の想い出

 それらすべてが

 優しく思いやるように伝えていた

 子どもの知らない言の葉で

 遠くでずっとささやいていた

 君もいずれは

 こうなるのだと

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