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火の秋
火の秋
好きな詩人の
好きな詩にあるその言葉
なぜかしらこころを震わせるその言葉
火の秋
秋は燃えるのか
秋という寂しいあの季節は
冥い埋み火をどこかに隠し持っているのか
火の秋
ぼくは秋の相貌にまみえたことがあるか
十二のみぎりに映ったあの死のように静止した季節は
凍りついた風景のままに燃えていたのか
火の秋
秋が残酷な無関心でぼくを葬ったときも
ぼくの魂から温もりが一掃されようとしていたあの秋にも
秋は凛然たる焔でぼくを荼毘に付していたのか
火の秋
ぼくの最愛の詩人のその言葉は
いまは泉下に眠る彼の生涯がつむいだその言葉は
死でさえも消しとめられない劫火で秋を燃やしつづけている