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詩の対価

 あくまでぼくの場合だが

 苦手な作家の小説と

 苦手な詩人の詩集なら

 後者のほうが 絶望的に読みにくい

 小説なら

 敬遠しながらでも楽しめる

 あらすじくらいは覚えられる

 意外な発見すら見出だせる

 うわのそらでも踏破とうはできる

 詩に関しては

 そうはいかない

 全霊ぜんれいで寄りそえないならば

 黒塗りのページを眺めるのと同じだ

 意味を伝えない散文の出来そこない

 快も不快もない音楽

 ゲシュタルト崩壊を誘発する字面じづら

 工場よりも詩集のほうが

 くすんだ単純労働を強いるときがある

 小説に比べると

 詩は本質的にインファイターなのだ

 ふところにもぐりこめなければ

 すべてが終わる

 睦言むつごとをメガホンでがなりたてても

 官能のしびれは起こし得ない

 なんぢは冷かにもあらず熱きにもあらず

我はむしろ汝が冷かならんか 熱からんかを願ふ

 その黙示録もくしろくの言葉は

 詩について語った言葉ではないか

 かく熱きにもあらず 冷かにもあらず

ただ微温ぬるきが故に 我なんぢを我が口より吐出はきいださん

 その黙示録の言葉は

 詩集の感想に通じるものがないか

 神は自分に捧げられた詩を読みながら

 腹を下したようなしかめつらをしているのかもしれない

 神の流す脂汗あぶらあせ

 かわやを探す彷徨ほうこう

 無意識につぶやく罵詈雑言ばりぞうごん

 神に無意識はあるのか

 神の罵詈讒謗ばりざんぼう

 詩のような韻文で為されるのか

 人は不幸に見舞われると神を罵るが

 神はなにを罵ればいいのか

 神のみぞ知ると言えればいいが

 神になにほどのことがわかるのか

 詩集の話から

 ずいぶん離れたところに来てしまった

 ここに書きつけられたもの思いを

 詩と呼び慣らわすことに意味はあるのか

 詩の行分けに意味はあるのか

 もったいぶった遅延ではなく

 ページをかさませる苦肉の策ではなく

 惰性的な身だしなみの一環でもない

 なけなしの必然性はあるのか

 無償の遊戯性はあるのか

 せめて単純労働でも

 すずめの涙ほどの対価くらいは

 読者の精神に支払えているのか

 食あたりを起こした神が

 寝こまない程度には腐敗を防げたのか

 黒塗りのページに宿る

 無言の純粋詩を凌駕りょうがしおおせたのか


 猫がお腹をすかせているので

 ぼくは詩作をほうりだし

 言葉にあらざる糧を与えた

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