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時に逆らう者  作者: 森島小夜
9/20

ティム

サラが、プレートいっぱいに盛った自慢のクッキーをテーブルの上に置いた。

お菓子に目のないティムの顔が輝いた。



「あのさ......前から気になってたんだけど......ジェイはなんでおばさんと一緒に住んでんだ?」

ティムはクッキーに手を伸ばしながら訊いてきた。


サラは口にしていたクッキーを、紅茶で流し込むと、ティムの方へ顔を向けた。


「いいわ......ティム。あなたには話してあげる」


ぼくは、ティムに家族の事を何も話していなかった。ティムはクッキーを食べるのをやめてサラ叔母さんの声に耳を傾けた。




「────────じゃあ、ジェイの母さんは......ジェイが小さい頃から病院に入院したままなんだ......」


ティムの言葉で、部屋は重苦しい空気に包まれた。


「あっ、ごめん。あれこれ詮索するつもりはなかったんだ......ただ、どうしてジェイは両親と一緒に暮さないんだろうって......前から気になってたから......」

ティムは申し訳なさそうに呟いた。


「いいのよティム......ちゃんと話しておくべきだったわね。親友のあなただけには......」


ティムは〝まいったなぁ〟といった顔でぼくを見て来た。


「ごめんよティム。今まで黙ってて......」

「ジェイ......あやまらなきゃいけないのは俺の方だ......ごめんな」


サラは二人のやりとりを微笑ましいといった顔で見つめていた。


「ティム、ぼくの父さんと母さんはもうずっと前から(ぼくが六歳の頃から)別々に暮らしてたんだ。あの頃......父さんと母さんは色々あって......とてもぼくの面倒を見れる状態じゃなかったんだ......だから、ぼくはサラ叔母さんと暮らす事になったんだ」

ぼくはそう言ってからティムを見つめた。


ティムはぼくの目を見て頷いた。


「サラ叔母さんが独身だったのもあって、父さんは暫くの間、預かってもらう事にしたらしいんだ。それが、ぼくがサラ叔母さんに良く懐いていたのもあって、暫くの予定がどんどん延びていって、その内ぼくは学校へ通い始めた。そしてぼくは......ティム、きみと出会った」


ティムはありったけ目を見開いて、ぼくを見た。ティムの顔は驚きと期待に満ちていた。







ティムの母親は、小さな(アンナ)(ティム)を連れて故郷であるこの街に帰って来ていた。ティムは学校の校庭でサッカーボールを蹴っていた。ぼく達はそこで初めて出会った。


ティムの両親は離婚したばっかりで、だから〝あの子は淋しいの〟とサラ叔母さんは言った。


ティムは毎日校庭の隅っこでボールを相手に遊んでいた。ぼくはそんなティムの姿と、サッカーボールを目で追っていた。ぼくはティムとボールを目で追いながら「ぼくも一緒に遊んでいい?」と心の中で語りかけた。


ぼくはティムの動きにすっかり心を奪われていた。


そんな時、ティムの蹴り上げたボールが、ぼくに向かって跳んできた。ぼくは目の前に現れたサッカーボールをティムに向かって、力いっぱい蹴っていた。


ティムは驚いた顔をして、校庭に立つぼくの方を見た。ぼくは怒られるんじゃないかとドキドキしながら、その場にじっと立っていた。ティムがボールを片手に抱えながら、ぼくの側にやって来た。

そして──


「お前名前は?」

ジェイミー(ジェイ)......きみは?」

「ティムだ」

「お前サッカーのセンスが良いから、俺が教えてやるよ」


ティムはニヤッとした笑顔を向けて、ぼくにボールを蹴ってよこした。ティムは......初めて出来たぼくの友達になった。ぼくの生活は、ティムとの出会いで大きく変わっていった。


無口で大人しかったぼくは、ティムとなら何でも話せた。ぼくとティムは毎日ボールを蹴って遊んだ。

そしてスポーツをする喜びを知った。後でその事をティムに話したら、ティムも同じ気持ちだと知った。ぼく達は双子の兄弟の様に心が通じ合っていた。



あいつが......

ぼく達の前に姿を現すまでは────

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