ティム
サラが、プレートいっぱいに盛った自慢のクッキーをテーブルの上に置いた。
お菓子に目のないティムの顔が輝いた。
「あのさ......前から気になってたんだけど......ジェイはなんでおばさんと一緒に住んでんだ?」
ティムはクッキーに手を伸ばしながら訊いてきた。
サラは口にしていたクッキーを、紅茶で流し込むと、ティムの方へ顔を向けた。
「いいわ......ティム。あなたには話してあげる」
ぼくは、ティムに家族の事を何も話していなかった。ティムはクッキーを食べるのをやめてサラ叔母さんの声に耳を傾けた。
「────────じゃあ、ジェイの母さんは......ジェイが小さい頃から病院に入院したままなんだ......」
ティムの言葉で、部屋は重苦しい空気に包まれた。
「あっ、ごめん。あれこれ詮索するつもりはなかったんだ......ただ、どうしてジェイは両親と一緒に暮さないんだろうって......前から気になってたから......」
ティムは申し訳なさそうに呟いた。
「いいのよティム......ちゃんと話しておくべきだったわね。親友のあなただけには......」
ティムは〝まいったなぁ〟といった顔でぼくを見て来た。
「ごめんよティム。今まで黙ってて......」
「ジェイ......あやまらなきゃいけないのは俺の方だ......ごめんな」
サラは二人のやりとりを微笑ましいといった顔で見つめていた。
「ティム、ぼくの父さんと母さんはもうずっと前から(ぼくが六歳の頃から)別々に暮らしてたんだ。あの頃......父さんと母さんは色々あって......とてもぼくの面倒を見れる状態じゃなかったんだ......だから、ぼくはサラ叔母さんと暮らす事になったんだ」
ぼくはそう言ってからティムを見つめた。
ティムはぼくの目を見て頷いた。
「サラ叔母さんが独身だったのもあって、父さんは暫くの間、預かってもらう事にしたらしいんだ。それが、ぼくがサラ叔母さんに良く懐いていたのもあって、暫くの予定がどんどん延びていって、その内ぼくは学校へ通い始めた。そしてぼくは......ティム、きみと出会った」
ティムはありったけ目を見開いて、ぼくを見た。ティムの顔は驚きと期待に満ちていた。
ティムの母親は、小さな妹と彼を連れて故郷であるこの街に帰って来ていた。ティムは学校の校庭でサッカーボールを蹴っていた。ぼく達はそこで初めて出会った。
ティムの両親は離婚したばっかりで、だから〝あの子は淋しいの〟とサラ叔母さんは言った。
ティムは毎日校庭の隅っこでボールを相手に遊んでいた。ぼくはそんなティムの姿と、サッカーボールを目で追っていた。ぼくはティムとボールを目で追いながら「ぼくも一緒に遊んでいい?」と心の中で語りかけた。
ぼくはティムの動きにすっかり心を奪われていた。
そんな時、ティムの蹴り上げたボールが、ぼくに向かって跳んできた。ぼくは目の前に現れたサッカーボールをティムに向かって、力いっぱい蹴っていた。
ティムは驚いた顔をして、校庭に立つぼくの方を見た。ぼくは怒られるんじゃないかとドキドキしながら、その場にじっと立っていた。ティムがボールを片手に抱えながら、ぼくの側にやって来た。
そして──
「お前名前は?」
「ジェイミー......きみは?」
「ティムだ」
「お前サッカーのセンスが良いから、俺が教えてやるよ」
ティムはニヤッとした笑顔を向けて、ぼくにボールを蹴ってよこした。ティムは......初めて出来たぼくの友達になった。ぼくの生活は、ティムとの出会いで大きく変わっていった。
無口で大人しかったぼくは、ティムとなら何でも話せた。ぼくとティムは毎日ボールを蹴って遊んだ。
そしてスポーツをする喜びを知った。後でその事をティムに話したら、ティムも同じ気持ちだと知った。ぼく達は双子の兄弟の様に心が通じ合っていた。
あいつが......
ぼく達の前に姿を現すまでは────