遠くで呼ぶ声
遠くでぼくを呼ぶあいつの声が聞こえる。
──ぼくと一緒に来るんだ──
あいつの声が、ぼくの頭の中で渦巻いている。
いやだ......!
お前となんか一緒に行くもんか。行くもんか......行くって......どこへ?
──どこへ......って?ネバーランドさ......
きみをネバーランドへ連れて行く。ぼくはその為にここへ来たんだから────
ネバーランドだって?そんなとこ......ある訳ないよ......そんなとこがある訳ない......あるわけ......ない......よ。
ぼくはまた、学校の保健室のベッドの上で目を覚ました。ティムが心配そうに、ぼくの顔を覗きこんでいる。
「ジェイ......何があったんだ?」
「......あいつ......ぼくの兄さんの事知ってた」
「えっ......」ティムは小さく声を上げて黙りこんだ。
「誰もが大人になれる訳じゃないって......あいつは言ったんだ。あいつはなんで兄さんの事を知ってるんだ......」
何故なんだ......ぼくは震える拳を握りしめた。
「ジェイ、もう気にするなよ」
きっと誰かに聞いて知ってただけさとティムは言ったけど......ぼくの気持は一向に治まらなかった。
「あいつが学校に転入して来てから、気に触る事ばっかで、気が立ってんだよ......あいつ、お前にからんでばっかだからな」
ティムの言う通りだとぼくは思った。そうじゃなかったら......こんな風に神経が高ぶったりはしないだろう。けれど......あの声......
どうしてぼくには、あいつの声が聞こえてくるんだ。
「あ、あいつ......もしかしてお前の関心を引きたくて、そんな事言ったんじゃないのか?」
ぼくは思わずティムの顔を睨んだ。
「悪かったよジェイ。こんな時にごめん......」
ぼくが独りになりたいからと言うと、ティムは黙って部屋を出て行った。
「ティム......ごめん......」
ぼくはティムの後ろ姿に小さな声で呟いた。ティムは......ちっとも悪くないのに。
ぼくの事を心配してずっと側に付いていててくれたのに......
でも......
今のぼくはきっと、ティムの事を傷つけてしまう......
ティム......自分でも良く分からないんだ。なんでこんなに不安なのか。なんでこんなにイラついてるのか。なんで、大嫌いなはずのあいつの事ばかり考えてしまうのか......
ごめんよ......ティム。ぼくの親友はきみだけなのに......ぼくの気持を分かってくれるのは、ティム、きみだけなんだ......
分かっているはずなのに......時々あいつが、ぼくの心の中に入りこんでくる。追い払おうとしてもどこまでも追って来て、......ぼくは、どうしたらいいんだろう。
ぼくはどうしたらいいんだろう?
ぼくはどうしたらいいんだ?
ティム、ぼくはどうしたらいい?
ティム、きみならどうする?
ぼくはあいつの事を考えると......不安と恐怖とで押しつぶされそうになる......
それでも、あいつの事を考えずにはいられない。
ぼくは一体どうしてしまったんだ?
ぼくは──
ティムが学校の門から出て行くのを確かめてから、ぼくは一人で家に帰って行った。