訪問者
数日後────
ひとりの少年が玄関の前に立って、ジェイの家のベルを押した。
ジェイは玄関のドアを開けて少年を見た。目の前の少年を凝視したまま、ジェイは立ちつくした。
そこにはあいつの姿をした少年が立っていた。
「こんにちは。今日は招いていただいて、ありがとうございます」
少年の突き刺すような緑色の瞳は、ダークブラウンの瞳へと変わっていた。少年のまとわりつく様な金色の髪は、漆黒の髪に変わっていた。けれど......少年の顔は............
少年の顔は、間違いなく、あいつだった。
「初めまして!ぼくはジョニーの友人で、リアンと言います」
少年は礼儀正しい言葉で、そう言った。
......父さん......父さん......どうしたの?
ジョニーが......私の腕を掴んで揺すっている............
「ジョニーぼくを招待してくれてありがとう。でも、お父さんの具合が悪そうだから......また今度来る事にするよ」
少年はジョニーではなく、ジェイの目を見つめてそう言った。
「だめだよリアン!帰らないで。ねぇ父さんいいでしょう?」
少年の目がぼくを捕えて離れない。
ジョニーのすがりつく様な視線と声がぼくを捕え、少年の口元に微かな笑みが浮かんだ。
「ああ......いいともジョニー」
「ありがとうとうさん!」
ジョニーの嬉しそうな顔を見て、あいつが微笑んだ。
「リアン......ぼくはこれで失礼するが、ゆっくりしていってくれ......」
少年はぼくに向かって微笑んだ。
「リアン!リアン!早くぼくの部屋へ行こう」
......ジョニーの弾んだ声が......耳元で聞こえる。少年の顔が少しだけぼくの方に傾いて────
少年はすれ違う一瞬の間に......ぼくに囁きかけた。
ジェイ......きみの事を......ずっと待っていたよ。ずっと待っていたよ、と。
────ジェイ────
さぁ、
ぼくと、
一緒に、
行こう............
あいつの声が......ぼくの耳元で囁きかける────
......その声は......
ジョニーの耳には届かない。あいつは振り向いて、再びぼくに囁きかける。
さぁ......ジェイ
行こう......
ぼくと一緒に......ネバーランドへ......
ぼくはピーターパンと同じ......ぼくは大人にはなれない。
ずっとこのままの姿で......ずっと、
永遠に......子供のままなんだ。
このまま......ずっと......永遠に............
永遠に......永遠に
リアンの囁く声は、リアンが離れて行ってもなお、ジェイの脳の奥深くまで入りこんで来た。
ジェイの体はリアンの声に縛られて動けずにいた。吐き気を覚えたジェイは、震える右手でバスルームのドアに手をかけた。
鏡に映った自分の顔を見つめ、ジェイは呟いた。
「なんて......酷い顔だ......」
少年は......やはりあいつだったんだ。
リアンはあいつだった......
ぼくはあいつを、この家に招き入れてしまった。......なんて愚かな......事を......
ジョニーにもしもの事があったら......ぼくは......ぼくはどうすればいいんだ......
ティム、お願いだ何か言ってくれ......ぼくは......どうしたら、あいつからジョニーを守る事が出来る。どうしたら......
............ティム............