夜の闇の中で
サラが窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ティム、家まで送って行くわ」
一人で帰れるから、と言うティムの腕をサラが掴んだ。
「いいえ、家まで送って行くわ」と、サラは言い張った。
「でも俺......自転車をここに置いとけないし」
ティムが困った顔でぼくに目配せしてきた。しかし、サラのいつもの強引さで、
ティムは車の中に押し込まれた。
庭に夜の闇が迫ってきていた。
「ジェイミー。一人で大丈夫?」サラが心配そうに言った。
「うん大丈夫。ティムを送って行ってあげて」
「分かったわジェイミー。気を付けてね」
「うん。サラ叔母さんも気を付けてね」
それが......サラ叔母さんと話した最後の言葉となった。
「またなティム。明日、学校で」
「おう、じゃあなジェイ。気を付けるんだぞ誰が来ても、家に入れるんじゃないぞ」
ティムは車の窓越しに冗談めいた声をかけてきた。
それが......ぼくの聞いたティムの最後の声だった────
庭はすっかり闇に包まれていた。
ぼくは家の上空から、何かが森へ向かって飛んで行くのを見た。ぼくは慌てて家の中へ逃げ込んだ。
キッチンの窓から外を覗くと今度は何かが家に向かって飛んできた。
その何かは、キッチンの灯りで姿を現した。
「コウモリだ!」
コウモリの姿を目にした瞬間、体に旋律が走った。
何故か......危険なのはぼくじゃなくて......危険なのはぼくじゃなくて......サラ叔母さんとティムの様な気がしたからだ......
「コウモリに、ぼく達の話を聞かれたかもしれない」
さっきのコウモリは、情報を伝えに森へ帰って行ったのかも......あいつの元へ......
そもそも、あいつは一体どこに住んでいるんだ?誰と一緒に暮らしてるんだ?あいつは謎だらけだ......
時々、どこにでもいる十三歳の少年に見えるけど、本当の正体は......何なんだ?
あいつは邪悪で......異質なもの......そう、異質なものなんだ────
一台の車が夜の闇の中へと走り出した頃、森から数匹のコウモリが飛び立った。
コウモリ達は、車のフロントガラスすれすれまで近づくと「フッ...」と姿を消して、また次のコウモリが近づいてきた。そのコウモリもフロントガラスすれすれまで近づくと、姿を消した。
ティムは車の中から、コウモリ達を必死で追い払った。
サラはパニックを起こして、ハンドルを左右に大きく切った為、何度も木にぶつかりそうになった。
もう限界よ、と言いながらサラは車を止めてコウモリを追い払う事にした。
コウモリ達が、近寄って来るのを止めて森へ飛び去ったと思えた時、コウモリ越しに、二人めがけて猛スピードで突っ込んで来る車が見えた。
運転手はハンドルを握ったままで、明らかに目を閉じていた......
コウモリ達は、一匹一匹と静かに飛び去っていった。
夜の闇が悲鳴と騒音を包み込み......あとは静けさが夜の闇を支配して、そして何も見えなくなった────
遅い......遅すぎるよ......
サラ叔母さん......早く帰って来て......
ぼくはいてもたってもいられなくなり、部屋の中をうろうろと歩き始めた。
「もう帰って来てもいい時間なのに......どうしたんだろうう、サラ叔母さん......」
ぼくの不安な心はピークを迎えようとしていた。
ぼくの後ろで何かが動い──
ぼくと目が合った。
──────きみが彼等と会う事は......もう二度とないだろうね──────
ウワアァァァ──────ツッ
夜の闇の中で、ぼくの悲鳴は響き渡り、夜の暗さが恐怖と悲鳴をぬりつぶしていった。