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ハンブルガー航空製造ヲ訪問ス

 1939(昭和14年)2月

 ハンブルク


 Fliegender Hamburger(空飛ぶハンブルク人)とは、ドイツ首都ベルリンとドイツ北部のハンブルクを結ぶ特急列車に使われたディーゼル・エレクトリック方式気動車の愛称である。流線形にデザインされた未来的な車体は営業運転速度で当時の世界最速を誇り、ドイツの技術力を示すシンボルであった。

 ハンブルク中央駅に到着したこの特急列車から一人の日本人が降り立った。彼は在ドイツ日本大使館付きの海軍武官である。駅前で車を拾って行く先を告げたのだが、


「Hamburger Flugzeugbau(ハンブルガー航空機製造)?そないな工場は聞いたことあらへん」

「いや、たしかに有るはずだ」

「旦那のような東洋人にはドイツ語は難しいんやろな。Fliegender Hamburger(空飛ぶハンブルク人)のこととちゃいまっか?この駅からベルリンへ行く列車の名前なんやけど」


 確かにドイツ語には苦労しているが、低ザクセン方言を丸出しの運転手からバカにされるとは心外である。武官は怒気を堪えて標準ドイツ語で言った。


「列車ではなく工場である。ハンブルグで水上機や飛行艇を作っている工場だ」


 武官が説明すると、運転手の顔に理解の色が浮かぶ


「ああ、造船所の飛行機工場のことでっか。

 あれはシュタインヴェルダー(Steinwerder)と、遠方のヴェンツェンドルフ(Wenzendorf)の二箇所にあるねん。どっちへ行きまひょか?」

「近い方から頼む」

「へい、では行きまっせ」


 車は市街を縦横に貫く運河をぬって走り、すぐに大河にかかる鉄橋を渡った。河の名前はエルベ、300メートル近い川幅の上には台船が往来し、護岸された川岸は港として整備されており大型船舶が停泊していた。ハンブルクは歴史ある河川港都市であり、その港の規模は欧州屈指である。


「旦那は軍人でっか?」

「よくわかったな」

「商売人には見えへんしな。軍人さんなら興味あるものが見れるんやけど、ご案内しましょか?」

「寄り道は困る」

「ちょこっと、ちょこっとやで。そないに時間はかからへん」

「一体なにを見せるというのだ」

「新造戦艦や。こないだ造船所で進水したばかりの出来たてホヤホヤやで。艦名はビスマルクって言うねん」


 戦艦ビスマルクはハンブルクに本拠を構えるブローム・ウント・フォス社が製造担当し、1936年7月1日に起工、1939年2月14日に進水した。ドイツの科学技術の粋を集めた最新鋭艦であった。

 武官は、運転手の「見学お薦めスポット」に案内され、艤装工事が進む戦艦を眺めていた。


「旦那、寄り道して良かったやろ」

「ああ」

「わてらはこの前の大戦では負けてもうたけど今度は負けへんで。あの戦艦で、英国艦隊なんぞひと捻りや」

「英国と再び戦争になると思うか?」

「ヒトラー総統はやる気やろな。この街の造船所にも注文がバンバン入って、今は景気良いで。わての商売も大繁盛、総統万歳や」

「こうして寄り道分の料金も稼げるしな」

「あちゃー、旦那にはかなわんな」

「さあ、寄り道は終わりだ。車を出してくれ」


 武官の目的地であるハンブルガー航空機製造にはすぐ到着した。

 同社の事務所はシュタインヴェルダー(Steinwerder)地区にあるブローム・ウント・フォス造船会社の管理棟最上階を占めており、航空機の製造は、空いている造船所を使っていた。地元民から見て、それは造船会社の航空機部門であり、ハンブルガー航空機製造と言われてもわかるはずが無い。この認識は地元民のみならずドイツ航空省(RLM)も同様であり、ハンブルガー航空機製造が設計した機体につける機種指定コードをハンブルガーを示す「Ha」から、ブローム・ウント・フォスを示す「BV」に変えた程である。


 武官は受付で来意を告げると狭い応接室に案内された。

 供されたコーヒーをすすりつつ待つことしばし、扉が開き、壮年の紳士が入ってきた。


「コンニチハ。ワタシノ、ナマエ、Richard Vogt」


 カタコトの日本語で挨拶をした人物の名は、リヒャルト・フォークト。

 この物語の主人公である。

ハンブルクはドイツ第二の都市であり、中世から湊町として繁栄し、日本の戦国時代における「堺」に似て商人が実権を握る自治市(自由ハンザ都市)でした。この都市の歴史だけでも一本の小説が出来そうです。


ハンブルクのシュタインヴェルダー(Steinwerder)地区はエルベ河の中洲であり、グーグルマップの航空写真で眺めると多数の造船ドックがあることがわかります。

https://maps.google.co.jp/maps?q=Steinwerder+Hamburg

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