十二試三座水偵、開発難航ス
処女作です。よろしくお願いします。
1938(昭和13年)秋
海軍航空廠
十二試三座水上偵察機の開発は難航していた。
九四式水上偵察機の後継機として海軍は川西航空機製作所と愛知航空機に開発を指示したが、愛知は試作機納期(1938年9月)に間に合わずに失格となり、川西は納期ぎりぎりで試作機を完成させたものの海軍の性能審査にて飛行安定性が悪いうえに機体強度不足であることが発覚した。川西は改良を試みたが、試作一号機が飛行中に主翼外板を破損し、海軍の担当技官は頭を抱えていた。
「技官、川西航空から三座水偵の破損原因報告書が届きました」
「原因ではなく対策を示せと指示したはずだが」
「申し訳ありません。原因は高速域における主翼波打ち現象で確定、対策は鋭意検討中とのことです」
「原因は試験操縦士からの報告で既にわかっている。つまらぬ報告書を作る暇があるならば、対策を進めろと言え!」
担当技官はそう言い放ったが報告書は必要である。海軍は巨大組織であり後方部門はお役所仕事である。部下としては報告書に技官の承認印が貰えれば良いので、上司の暴論には抗弁せず受け流すことにした。
「はい。そう伝えます。ただ、川西は低翼単葉機の経験がなく、対策に苦戦しているようです」
「そんなことは言い訳にならん。三菱の九六式艦戦も、中島の九七式艦攻も、愛知の十一試艦爆(※後の九九式艦爆)も低翼単葉機なのだ。貴様はいつから川西の使い走りになったのだ?鼻薬でも嗅がされたか」
担当技官に睨まれた部下は冷や汗を垂らす。痛くもない腹を探られてはたまらないので即座に否定し、話題を変えるために小耳に挟んだ件を思い出して告げた。
「いえ、そのようなことは断じてありません。そういえば愛知航空ですが、納期遅れで失格になった後も社内研究用に三座水偵試作を続行し、年明けには完成の予定とのことです」
「ふむ、川西が駄目だった場合の保険とするか。よし、貴様は愛知の工場へ行き、その目で現場の進捗を確かめろ。」
「はっ、了解しました」
「行け」
「あの、報告書に承認印をお願いします」
部下が指差す承認欄に印を押して報告書を突っ返すと、技官は煙草に火を付けて一服しつつ思案にふける。
航空機技術は日進月歩で発展し、制式採用した新鋭機もわずか数年で陳腐化してしまう。現役の九四式水偵は鋼管羽布張りの複葉機であり、昭和9年の制式採用から4年目となる。エンジンを三菱瑞星に換装した性能向上型を九四式二号水偵として制式採用したのは今年であるが、これ以上の改修は難しい。時代遅れになる前に退役させて、新型機へ置き換えなくてはならない。
九四式二号水偵
新技術に手間取っているならば有能な人物を外部から設計班へ注入したいところだが、海軍は現時点で、この十二試三座水偵以外に十二試二座水偵、十二試潜水艦用偵察機、十二試水上初歩練習機、極秘の十二試特殊飛行艇と多数の開発を進めており、水上機設計者は国内から払底している。海外から水上機設計に秀でた指導者を招聘すべきか。昨今の情勢では米英からの招聘は望めない。ならば防共協定を結んだ独伊からとなる。
1938年の欧州ではスペイン内戦が続き、ドイツが今年3月にオーストリアを併合し、10月にはミュンヘン協定によりズデーテン地方も併合した。軍事的緊張が高まる欧州各国が優秀な航空技術者を手放すはずはなく、史実ではこの時期に来日した者はいない。だか、もしもいたとしたら…
海軍の十二試は水上機が多すぎる。
十二試艦戦(零式艦戦)以外はほぼ全部が水上機ではなかろうか。