深淵の中で
お久しぶりです。相も変わらず企画が通らない柏木サトシです。
今回は、企画書として提出したものの、没になったのですが個人的には惜しかったのでなろうで発表してしまおうと思った作品です。
この企画が落ちた理由は、色々言われましたが、主な理由は復讐というテーマが重く、全体的に暗い。それと戦記物であるということでした。
この企画を出した当時、所属レーベルから出た戦記物の作品が軒並みコケてしまったりして、タイミングは悪かったなと思ったのですが、担当編集との話し合いでかなりの手応えを感じていただけに悔しい思いをしたものでした。
その後も出している企画はボツになり続けているのですが、最近では「主人公が苦労する」「主人公がピンチになる」「話の中にヘイトを集める嫌な奴がいる」という理由でボツになりました。
主人公が苦労しない。ピンチにならない。嫌な奴が出て来ない。この条件でバトルファンタジーもので面白い作品となると……次作品を世に出すのはまだまだ先になりそうです。
これも全て、編集長を納得させる企画案を出せない私が悪いので、必ずや編集長を納得させる企画案を出して一日も早く次の本を出したいと思っております。
残念ながらこの作品には、主人公が苦労し、ピンチにも陥り、それに拍車をかける嫌な奴が出てきますが、そんな苦難を乗り越えていく作品も面白いと思いますので、よかったら最後までお付き合いください。
毎日更新は難しいかと思いますが、なるべく短いスパンで更新していく予定ですので、よろしくお願いいたします。
月の光すら届かない漆黒の闇が支配する暗い森の中、獣たちの息吹すらも鳴りを潜める時分にも拘わらず、複数の人間が蠢く気配があった。
あちこちから囃し立てるような声が響く中、声の中心に佇む人影の前には、暗闇の中でもうすぼんやりと怪しく光る二つの丸い物体、まるで人の眼球のように見える何かが自分の存在を誇示するかのように明滅しながら鎮座していた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
光を受けて映し出された人影は全身に脂汗をかき、荒い呼吸を繰り返していたが、やがて意を決したかのように息を飲むと、震える手で自分の顔に手を伸ばす。眼前で暫しの間、躊躇ったような仕草を見せていたが、
「わあああああああああああああああああああああああああああっ!!」
叫び声を発すると、そのままずぶり、と自分の右目に指を突き立てた。
「あ、が……がああああああああああああああああああああああああああっ!!」
呻き声を上げながら右目を引きずり出すと、勢いよく血が噴き出し顔を濡らしていく。
余りの痛みに気絶しそうになりながらも、人影は目の前に置かれた丸い物体を一つ取ると、抉り取って空いた右目の穴に無理矢理ねじ込む。
すると、入れた右目が青白く光り出し、人影が思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫を上げる。
「――っ! ――っ!?」
近くにいた人物が何やら名前を叫びながら泣き喚くが、痛みにのたうち回る人影には届かない。
その間にも人影の右目からは何かを突き刺すような音が断続的に聞こえ、その度に人影は痛みから逃れようと身をよじり、叫び声を上げる。
喉が嗄れ果てるまで叫び続け、最早声にならない唸り声のような声しか上げられなくなった頃、ようやく落ち着いたのか、人影は荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がる。
血の跡が生々しいその右目には、幾何学模様が刻まれた青い瞳が納まり、辺りの様子を伺うように忙しなく動いていた。
それを見た周りにいた者たちは歓喜の声を上げるが、地獄はまだ終わりではない。
目は二つ揃ってこそ十分な効果を発揮するのだ。
人影もそれがわかっているのか、ふらふらとした足取りで残ったもう一つの丸い物体、赤く光る眼球を一瞥すると、今度は自分の左目へと手を伸ばす。
そして再び、森の中に凄絶な叫び声が響き渡った。