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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

邪神の御業

邪神と黒豆

作者: ちかーむ


前回の「邪神と黒虎」の続きです。







俺は邪神カタログを前に首をひねっていた。



黒豆 28ポイント



黒虎みたいにブラックタイガー(エビ)みたいに英語読みするならブラックビーンズだろうか。あ、一粒ならズが消えるか。こういうとき日本語不便だな~複数か単数かわかりゃしねぇ。

それともそのまんま黒豆くろまめだろうか?

おせちに必須の豆か?



しかし、28ポイントってのが微妙なところだ。


食品や家具は大概10ポイント以内、28ポイントといえばかなりの高ポイント商品だ。


黒豆



前回やらかした黒虎ブラックタイガーは265ポイント

カテゴリーは『召喚獣』だった。

食ったけど。

食い残しがまだ邪神冷蔵庫に入ってるけど。


じゃあ、この「黒豆」のカテゴリーはなにかというと…


『その他』だ。


ざっくりしすぎ!!


しかも『その他』の中には邪神弁当箱、邪神ピクニックシート、邪神ハンドベルが入ってる。

弁当箱は、『キッチン雑貨』邪神ハンドベルは『楽器』に分類しろよ。何のための項目分けだよ。

しかもハンドベルって…ハンドベルは仲間必須だろ。俺が薄暗い部屋でひとりでリンリンやったら虚しいだけだ。


単音!

ハンドベルなのに単音!

がんばって片手で四個とか持ててもよけい虚しくなるわ。


せめて孤独が似合うハーモニカにしてほしい。

邪神ハーモニカ絶対使わないけどな!


邪神ピクニックシートは…邪神のあり方を根底から覆しそうな逸品すぎてもう突っ込めねぇ…


そんな微妙なラインナップの中での黒豆。


気になるだろ。

『食材』ページにないってことは素材か?素材なのか?


豆が?

黒い豆が?


意味がわからん。


あ、もしかしてジャックと豆の木的なアレ?

邪神の御神木になっちゃう系?

豆だけど。

豆だからこそ邪神感出るよ的な?

御神木だけど豆科、しかも蔓性植物。


あ、うん、ありだな。


にょろにょろしてて邪神感出る、うん、いい感じに出るな。


つまりこれはレアアイテムなんだろう。

解りにくいところにいれて、見つけにくくして、見つけても黒豆?ただの豆だろ?って思わせといて実は御神木。


よし、ナイス推理。

読みは完璧だ。



…まあ、黒虎ブラックタイガーの件もあるから純粋にただの豆説もありにしとこう。

まあ、好きだし黒豆。

ちょっと上手く煮れる自信ないけど。

フツーにただの黒豆きたらちょっと高いけど気になってた邪神クッキングブック6ポイントを買おう。

むりそうだったらそのまま炒って食べてもいいしな。幸いここには黒鍋っていう中華鍋があるし。


あ、邪神手拭いは中華鍋とセットだったよ。どんな強火でも焦げないしかも熱くならない便利な手拭いだった。

流石は邪神の名を冠したアイテム、侮れない。こいつがないときの調理は本当に大変だった…なにしろコンロから出るのは地獄の業火なわけで…まあ、この話はいいか。


黒豆な。


俺的にはおせちの黒豆にはちょろぎが必須なんだよな。

知ってるよな?赤くて梅の味がする奇妙な形の漬物。

長老喜とか長呂儀とか丁呂木とか…当て字は色々あるけど…まあ、味は皆おんなじ、すっぱしょっぱい漬物。


たまにフランス料理ででてくるけどコレじゃない感があるからカウントしない。

なんだよジャポネーズって、フランス料理を日本で食べてんのに日本風って…え?俺食べてんのフランス料理だよな?って、ちょっと頭がこんがらがるだろ。


俺にとってのちょろぎは縁起物でうちのおせちには必ず入ってたやつ。絶対黒豆とセットで置いてあるんだよ。黒い艶々の豆のなかに置かれた赤い漬物。その対比が美しく形がシュール。

でも友達の家のおせちには入ってなかったから…地域性があるのかもしれない。

そこはよくわからん。

とりあえず、この黒豆がただの黒豆ならちょろぎがほしいって話。


パラパラとカタログをめくるが…「ちょろぎ」がない。索引検索しても「ちょろぎ」がない。


何でだよ!!


「黒豆にはちょろぎだろ!!」


思わず叫んでからはっと気づく。

カタログを見ると門松がなかった。

亀も鶴も松も鯛も無かった。

おかめの面は般若になってた。

獅子舞いは闇獅子舞いになってた。


邪神餅つきセットはあった。

あったけど…多分これでついた餅は殺傷能力が上がってるに違いない。

世界でもトップレベルで危険な食べ物Mochiが邪神仕様となってたら…もうな、絶対ダメなやつだろコレ。


そして、俺は気づいてしまったんだ、悲しい事実に。



なんてこった!



カタログに縁起物がのってねぇ!!!!



ちょろぎは縁起物だ…

だって長老が喜じまうんだ…あの長老が!!長老が誰だか知らないけど。

たい焼きもない。


つまり…おれは今後縁起物のいい食べ物が食べられないってことだ。



ちょろぎが!!

俺の愛するちょろぎが!!!



俺はがっくりと床に膝をついた。


…ちょろぎのない黒豆に何の意味があるんだろうか…これは…これは俺に対しての試練なんだろうか。


邪神になっていちばん辛い…


はぁ…とため息をついて俺は邪神証を部屋の真ん中にある赤紫に光る石板にぺちっとつけた。


もう、黒豆でもブラックビーンズでもなんでもいいや…

そんな投げやりな気分で「黒豆」と呟いた。


ジャシーン!!



いつもの音より一拍おいて目の前に小袋があらわれて落ちた。

ジャッ!って明らかに豆が入ってそうな音を立てて床に落ちた。


豆だ。フツーに黒豆だ。


どうやら穿って考えすぎたらしい。


俺はひとつだけ邪神植木鉢に植えて残りの黒豆をどうするか…もちろん食うだろ。ちょろぎないけど。

俺はテンション低くジャシーンと邪神クッキングブックを購入した。


邪神クッキングブックにのっている黒豆の食べ方は2つ


邪神黒豆の地獄煮

邪神黒豆の地獄煎り


あ~そういう感じね。

とりあえず地獄とか書いとけば邪神料理感出るよね的な感じね。

あるある、ちょっとこの設定が面倒になったんだろ。


<邪神黒豆の地獄煮>

丸々とした黒豆を地獄の業火で容赦なく煮る凄惨な逸品。邪神に相応しい箸休め。



<邪神黒豆の地獄煎り>

丸々とした黒豆を地獄の業火で容赦なく煎る残酷な逸品。おやつに。



…表現方法って大事だよな。

地獄とか凄惨とか残酷ってかかれたらイメージ悪い。ただの豆料理なのに。

そしてこのクッキングブック、残念ながら写真はなかったから完成品がわからない。

まあ、とりあえず説明を読む。

どうやらどっちを作るにも一晩水につける必要があるらしい。

「一晩水につけた丸々とした黒豆をひとつかみ…」って書いてあるからな。

それを煮るかじっくり煎るかの違いらしい。地獄ってつける必要あるのか?

豆は水に浸した。

一晩か~長いな。


そう思っていた時期が俺にもありました。


驚くべきことに豆は水につけるとみるみるうちに膨らんだ。まるまるとした黒豆は確かに丸々としている。

流石は邪神仕様。

このままでいけるんじゃねぇ?

そう思った俺は黒豆を砂糖と一緒に煮た。煎るのは時間がかかりそうだからまた今度にすることにした。


隠し味は醤油な。


見た目は…なんかちょっとしわがある。

味はおせちの黒豆だった。ちょっと硬い。

うまいか不味いかでいったらまあ、どっちかというと不味い。

なんか味が鉄っぽかったな。

黒豆は古釘と一緒に煮ると黒々とした艶のある黒豆になるっていったのどこのどいつだ。確かに黒くて艶々してたけど味は微妙になったぞ。


…ん?あれ?俺はいつ黒豆に古釘入れたっけ?


まあいいや、そのうちなんとかしてちょろぎを手に入れたら旨い黒豆の作り方を極めよう。


俺は、はーやれやれ、と満腹な腹をさすりながら邪神茶をすする。

多分これはどくだみ茶なんじゃないかと思う。昔、ばあちゃんちで飲んだことある味。


食べた黒豆は100粒。

108じゃなかった。

煩悩の数ではないようだ。


…そうだよ、暇だから数えたよ、年の数だけじゃなくて煩悩の数だけ食べてやるって食ってたらちょうど100個でがっかりしたよ。

いいさ、どうせ108個はないと思ってたからいいさ、人間(邪神だけど)諦めと割りきりが大切だ。


俺はまったりゴロゴロしながはパラリと邪神カタログをめくる。


あーあ、黒豆はどっちかというとハズレだったな…じゃあ、次は何にポイント使おう?

邪神の旗4ポイント、邪神うちわ10ポイント、相変わらず和小物は高いな…邪神寝袋ってベッドあるし…ピクニックセットに通じる微妙さだワン。


ワン?

いつの間に俺の語尾はワンになった?


え?


カタログから目を離し、声のした方を見るとそこには…



ワン!!



植木鉢から顔だけ出した手のりサイズの犬がいた。


黒い毛に、白い麿眉毛、くるんと巻いたしっぽに短い足にちょこんと白い靴下…

こ、これは…


黒芝犬ミニ!!


「!か、かわいいっ!!」


久しぶりに見る自分以外の生き物にテンションが上がる。

うわぁぁ、超かっわいいいいいい!!

っなんでだ?こいつ何処から来たんだ?


うわー尻尾ふってる!!

おれ邪神なのにー!!!

あーやべぇ、可愛い!!!

俺はモフモフ撫でた。腹はクリーム色だ。


足めっちゃ短いけど柴犬だよな。

猛烈まるっこいけど。

あーこういうぬいぐるみあるよな。

一応小さい柴犬だし豆柴犬だよな、あ、黒だから黒豆柴…


ん?黒豆…!?



俺はあわてて植木鉢をみる。

ない。何もない。

土すらない。なんでだ。


俺は慌てて鍋の中を見る。

そこにはてろりとした黒豆の煮汁しか残ってない。 鍋をもって振り返る。


黒豆柴犬は純粋な瞳でこっちをみてる。


あ…ごめん…

俺、お前の仲間、食べちゃったよ…


そうか、お前入れたら101匹だったのか…101匹黒豆芝犬ちゃん…ごろ悪いな。


いやいや、多すぎだろ!!

全部犬になったらこの部屋が狭くなるわ!

これはあれか?もしや召喚獣用の生き餌的なものか?


ありえる。

だから<その他>なのか。


しかし邪神クッキングブックの説明侮ってたな。

一晩水につけて丸々とした手乗り黒豆柴犬になった黒豆をひとつかみ中華鍋で煮たり煎ったりって…

そりゃ地獄絵図だわ、地獄ってつくよ。邪神らしく残酷で凄惨な逸品になるな。なるほどね!納得だよ。うん。


って


酷いな!!さすがに酷いだろ。

クッキングブックブック名乗るならせめて下処理しろよ、毛とか骨をさ。


いや、ちがうな。


なんかこう…なんだろな…


邪神になってから罪悪感とか倫理観とかちょっと薄くなった気がする。


気のせいか?


とりあえず邪神の証を見てみるか。



邪神業


破壊

狂乱ノ宴

鬼畜

裏切リ者

屍肉喰イ

同属喰イ

地獄ノ業火

炭塵

悪食

暴食

倦怠

怠惰

反逆者


<new!>

怨ミ言

疑心

下衆ノ勘繰リ

絶望

下僕

皆殺シ

生キ埋メ

極悪非道

殺戮神

惨劇

飼イ殺シ

適材適所


新しいのは…

<怨ミ言>…まあ、ひとりぼっち過ぎるとは思うよな。せめてハンドベルができる人数になればいいとは、思うよ。

<疑心>ああ、疑いましたよ疑いましたけどそれがなにか?

<下衆ノ勘繰リ>これは、絶対俺の迷推理をバカにしてるな。

<絶望>俺のちょろぎ…俺の縁起物…

<下僕>黒豆柴犬は召喚獣より下なのか?そうか、豆じゃなくて生き物あつかいだったんだな。

<皆殺シ>100匹食ったな!!

<生キ埋メ>なまきりめ?なんだそれ?生…あ、生き埋めか!!あーなるほど!!黒豆一粒埋めた、埋めたな!!あいつ生きてたもんな!!

<殺戮神>まあ、もともと邪神だし。

<惨劇>100匹の黒豆柴犬のモトを鍋で煮たし…惨劇、は否定はしないな。っていうか柴犬なら最初から犬で出てこいよ。豆から犬が出るとか誰も思わないからなフツーな!

<仲間ノ仇>あぁ、かたき!!黒豆がいつか気づく日がくるんだろうなぁ…

<飼イ殺シ>…うん?黒豆柴は愛玩動物じゃなくて何かに使えるってこと…いや<適材適所>があるな。今までの経緯を考えれば俺の思考がそのまま業に反映されてるから…召喚獣用の生き餌説があってたってことか?



…え、食わせんのこいつ。



足元でころころ転がる黒豆柴を見ながらなんとも言えない気持ちになった。


とりあえずこいつは狛犬的なものになってもらうか…

俺は指で黒豆柴犬をつついた。


「お前の名前何にするかな~」


ころころーっと転がっていく黒豆柴犬。黒豆はやめよう。逝った仲間を思い出すからな。

うーん…ころころ転がる黒豆柴犬の小さい眉毛が…


「大豆…」


機嫌良さげに転がっていた黒豆柴犬がガーン!とショックを受けている。大豆はダメらしい。まあもとは黒豆だしな。


「ラストでいいか」


101匹のたった一匹だけの生き残り。

101個あった黒豆の最後のひとつ。

キラキラした瞳でこっちを見上げる小さな犬っころ。


「ラスト」


そう呼ぶとワン!と返事があった。



「ラスト」もう一度呼ぶ。

「ワン!」


うむ。


俺は大層満足しラストを指でつついた。

ラストは楽しそうにころころころ転がったあと、俺のあとをキュンキュンついて回った。


「なんだお前腹へってんのか?」


部屋の真ん中にあるちゃぶ台の鍋の中で煮汁がてろりと光った。

あ、この黒豆の煮汁、コイツに嘗めさせたら新しい邪神業つくのかな。


いや、流石に駄目か、倫理的にな。





……



結論、おれの業に<鬼畜>が増えた。

あと、黒豆の煮汁を嘗めたラストがカッコいい感じの黒い犬ぽくなって巨大化した。


グッバイ俺の黒豆柴犬…


ボールみたいにコロコロした手のひらサイズが可愛かったのに…



やらなきゃよかった。



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