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日常業務 1

 サーボレンス州コウコ


《この団子、パサパサしてるけど悪くないな》

《調子に乗って食いすぎるなよ。仕事に支障が出るだろ》

 サーボレンス州南部、コウコの町でチェイス・メガロドン・ギュスターブの三人は茶を飲んでいた。

 この店はいわゆるオープンカフェスタイルというやつで、いくつも並んだベンチに腰掛けて緑茶や蕎麦団子を食べるものだ。

 ギャルド・モンドの傭兵にしては珍しく三人は強化戦闘服ではなく、現地では旅装束として好まれている体を覆うような合羽に身を包んでいた。

《お前だってさっきからお茶飲みまくってるだろ》

《それは仕方がない。こいつは極上のお茶だからな。水と土、両方がよくなきゃ茶はうまくならないんだ》

 最後の一口を喉に流すと、メガロドンはウェイターを呼び止め、

「もう一杯もらえるかな。可愛い女の子がいると、つい喉が渇いてね」

 見た者すべてをときめかせるスマイルで注文した。ウェイターも例外ではなく、はにかみながら店へと戻っていった。

「けっ、気取りやがって」

「いやあ、顔が良すぎるってのも罪だねぇ」

 もちろん、一行は休暇を楽しんでいるわけではない。馬鹿二人がこのような会話を交わしている間、チェイスの視線は向かいにある城の裏口に向けられていた。

《チェイス、あんま睨むな。目をつけられる》

 そう言ってギュスターブはチェイスの肩をついた。三人の任務はこの城から出てくる人間の確保が目的なのだから。

 城ともなれば巡回している衛兵はもちろん、それ以外の監視員も民衆に紛れている可能性は高い。事実、チェイスはそれらしい人間を数人マークしている。

 服装を変えてはいるが、生体情報を登録されているため変装程度では誤魔化せない。網膜投影型HUDにシルエットが青白くハイライト表示されていた。

 対象となる人間は度々この裏口前を通っているはずなのだが、マークした人間の多くは今周辺をうろついていた。

《見回りっぽい奴らが集まってきたよ》

《わかってる、そろそろなのかもしれない》

 どうやらチェイスがしらせるまでもなかったらしい。

《ママキーヤ、目標の移動を確認》

 脳内にその言葉が響くと、一行の目つきが鋭くなった。

 裏口の門が開かれると、三人出てきた。黒の羽織に、青い羽織。そしてマルーン色の羽織。

 服装は現地では特別目を惹くものではないが、歩き方からして相当訓練されていると推測出来た。

《メガロドン、目標を確認出来るか?》

《今データを送る》三人の顔を視認し、マックに送信。《どうだ?》

《確認した。ターゲット、ノブタ・ノリアゲはマルーン色の羽織を着た奴だ。どっちに向かう?》

 三人は分散せず、チェイス達の目前を左に曲がった。そちらの方向ではウージーが待機している。

《ウージー、そっち行ったぞ》目標に監視員も続く。《気を付けろ、護衛が民間人に紛れてる》

 二〇メートルほどの距離が開くと、一行も立ち上がった。

「あのっ、お代わりを……」

 するとちょうどウェイターがお茶のお代わりを持ってきてしまった。その事態にもメガロドンは落ち着き払って人差し指をウェイターの唇にあてると、

「この一杯は君に」

 お代わりの分を含めた代金をお盆に置くと、ノリアゲを追跡。

 どうやら自身が危険な状況にある事を察しているらしく、ノリアゲは挙動不審だ。そして彼らは間もなく街の大通りへと出ようとしていた。

《通りに出られたら仕事が面倒になる。その前に回収するぞ》

 ウージーが待機している地点は目前。チェイス達は懐に隠した拳銃の安全装置を解除した。無血で要人をどうにかできるなどとは露ほどにも考えてはいない。

《攻撃用意》

 僅かに足を早めて拳銃を抜く。

 あと数秒間で攻撃を開始しよう。メガロドンがそう考えた直後、ノリアゲと護衛が進路を変えて狭い路地に向けて走り出した。

《奴が路地に逃げ込んだ!》

《ウージー、別ルートで挟撃しろ》

 チェイス達もノリアゲが向かった路地に走ると、やはり変装した護衛が短剣を手に立ち塞がった。

 もし無警戒であれば一人ぐらい刺されていたかもしれないが、既にマークしているのだからその動向は手に取るように把握出来た。

 先制攻撃なぞ、許すはずがない。

 先頭を走っていたチェイスが護衛の一人が投擲した短剣を少し屈んで回避しつつ、胸部に二発の拳銃弾を浴びせた。

 メガロドンとギュスターブの二人は容易く護衛を排除したようだ。

 崩れ落ちる死体を跳ね除けつつ、チェイス達は行動の邪魔になる合羽を脱ぎ捨てた。

 彼らは合羽の下にスケルトン強化スーツを身につけていた。ソフトタイプとハードタイプで二分される強化外骨格の中でも、これはハードタイプに区分される。

 ソフトタイプに多く用いられる人工筋肉よりも強靭かつ実績をもつ油圧式アクチュエーターを採用しており、人工筋肉と違い全身を覆う必要がないため、この作戦に用いられた。

 さて、五メートル以内の至近距離であれば銃よりも刃物の方が有利だ。相手と同じ土俵に立ってやる気はないが、ないよりはましだ。チェイス達はナイフを抜いて至近距離での戦闘に備えた。

 コウコの町はSW-1にしては珍しく町には城壁がなく、背の低い建物が立ち並ぶ地域だ。そのため、ジェットパックを背負うマックは容易に偵察が出来た。

《屋上に動きあり、武装しているぞ》

 今作戦では目立つ長物の持ち込みが禁止されていた。マックも例外ではなく、今作戦での武装は拳銃のみ。援護をしようにも、ノリアゲを万が一にも見逃すわけにもいかず、彼は偵察に専念する事になっていた。

《屋上、擲弾兵だ!》

 現地ではシンプルな前装式ライフルに加えて、ライフルを短銃身化した短銃、そして圧縮空気を用いて物体を発射する空気銃がある。

 この空気銃は基本的に弾丸を飛ばすものではなく、ダイナマイトのような爆発物を遠くに投擲する際に用いられる。

 つまるところ、エア・グレネードランチャーというわけである。

 シンプルな爆圧のみで殺傷するタイプの武器だが、閉所では侮れない。爆圧によって吹き飛ばされた小石は立派な脅威となり得るからだ。

 バシュッ! 間の抜けた発射音と共にダイナマイトが一行の三メートル先に飛び込んできた。もちろん、短い導火線には火が灯されている。

《隠れろ》

 遮蔽物がほぼ存在しない路地だったが、瞬時にギュスターブがナノ・シールドを展開。チェイスとメガロドンはシールドの背後に飛び込んだ。

 ドン、と爆圧が砂塵を巻き上げる。

《誰か死んだか?》

《おい、チェイス。生きてるか?》

 耳鳴りでまともに音も聞こえないが、体内通信に聴覚は影響しない。

 ギュスターブの問いに拳を掲げて答えると、立ち上がって爆弾が飛んできた方向に銃口を向ける。しかし、相手も馬鹿ではない。そこに姿はなかった。

 山なりに軌道を描く性質を利用して、姿を隠したまま間接射撃してきているのだろう。即席でここまで正確な攻撃を実現したのであれば相当な技術だが、その仮説はあまりにも出来すぎているようにチェイスは感じた。

 とはいえ、その仮説を裏付ける根拠や暇はない。今は戦闘中なのだ。

《屋根の脅威を排除する、待ってろ》

 マックからの連絡。今屋根の敵を正確に排除できるのは彼しかいない。ノリアゲを見失う危険はあるが、三人を失うわけにはいかないという判断だった。

 頭を下にして地面に推力を向けると、マックはあっという間に地面へと高度を落とした。

 長屋の屋根に激突する直前に水平飛行に戻すと、擲弾兵の背後から脇を抱え上げた。

「う、うわっ」

 そのまま上空に飛び上がり、適当なところでポイと投棄。コウコの空で花火が一つ炸裂した。

《敵を無力化。進め》

 現状は一本道、前進して追跡を続行。糞尿の臭いが漂う屋外トイレを横切り、爆音に頭を下げる住民達を横目に走る。

《奴は長屋に逃げ込んだ。ウージー、マークする地点に向かえ》

 護衛も内部に逃げ込んだらしく、長屋の前にはひと気がなかった。逃げ込んだ長屋の部屋の一つ一つを制圧して調べるしかないだろう。

《メガロドン、レーダーはどうなってる?》

《だめだ、どの部屋にも人がいて判別出来ない。チェイス、生体識別システムはどうだ?》

 生体識別システムはチェイスが護衛の判別に利用していたものだが、残念ながらそこまで万能ではない。直接目視しなければ調査は不可能だ。

《仕方がない。じゃあ俺が周囲を警戒する。チェイス、扉を吹っ飛ばせ。デクノボウ(ギュスターブ)、お前が先頭だ》

《よし、やれチェイス》

 言われるまでもない。コウコの町の一般的なドアは引き戸だ。それも薄い板一枚で構成される簡素なもの。こじ開けるのに散弾銃や爆薬のように大げさなものは必要ない。小型で目立ちにくいエクゾスケルトンを装着した人間の脚力の前では、成人男性の一人や二人程度の体重なぞ屁でもないのだ。

 チェイスが戸を蹴破るために足を上げた。その時、

「岩石巨人、起動!」

 直後、巨大な岩の足が戸を破壊した。この質量が高速で激突すれば人体はただでは済まない。咄嗟に横に飛んでいなければ、チェイスは血の霧と化していただろう。

《連中、ゴーレム(岩石巨人)を出してきやがった!》

 岩石巨人。TF101がつけたコールサインはゴーレム(GOLEM)。人間が搭乗する事で起動するSW-1の兵器兼建築機械である。

 その大きさはまちまちで平均的な成人男性程度のものもあれば、五〇メートルクラスの山のように巨大なゴーレムも伝説上には存在した。

 装甲は錬金術によって生成される特殊な岩石。魔力での制御を可能とすると同時に通常の岩石とは比べ物にならない硬度を持ち、小火器では歯が立たない。

 チェイス達が対峙しているのは約一〇メートルの平均的な戦闘用ゴーレムだった。現代の拳銃で武装しているとはいえ、これは相手が悪すぎる。

《撤退しろ、勝負にならん》

 ママキーヤのレールガンですら搭乗員の排除は不可能。マックに言われるまでもなくチェイス達は踵を返した。

 この状況に気を良くしたのか、ゴーレムは長屋を破壊しながらチェイス達の後を追う。

「あいつら正気か! 市街地だぞ!」

 一般人はこの巨体から身を守る術はない。多くの民間人がゴーレムが移動する際の衝撃波に吹き飛ばされ、運の悪い者は巨大な足に踏み潰された。

《どうすんだよこれ、このまま逃げ切れねえぞ》

 ギュスターブの発言通り、いくら強化装備に身を包んでいても身長の差は致命的だった。大通りに出た頃には追いつかれかねない。

《アホ、こんな時の為に準備してただろうが》

 まさか要人確保に必要な事態が生じるとは想定外だが、今回は嬉しい想定外だ。

 チェイスがふと背後をふり返ると、ゴーレムが長屋の屋根をバリバリと引きはがして振り上げていた。

《やばい、投げてくる!》

 ゴーレムのパンチは無理だが、この程度なら。

《俺の後ろに!》

 ギュスターブは咄嗟に振り返ると、ナノ・シールドを展開。迫り来る屋根がシールドに触れた途端真っ二つに割れた。

 その割れ目に叩き込むかの如く、岩石の拳が見えた。

 直撃していればただでは済まなかっただろう。幸運にもゴーレムの拳は目前の地面に叩き付けられていた。

 ナノ・シールドもこれほどの威力には耐えきれずに霧散し、三人は衝撃波で道路のど真ん中に吹き飛ばされていた。

《チェイス、もうすぐだ》

 ゴーレムが三人に歩み寄ると、人が入る胴体部分がパカっと開いた。

 そこから顔を見せたのはノブタ・ノリアゲ。TF101が追うコウコの町長だ。

「これが神隠しの影の正体か」

 既にギャルド・モンドは国家の意に反して現地要員の確保―――要するに誘拐だ―――を行なっていた。その人の手によるものとは思えぬ手際から、事実を知るものからは神隠しと恐れられている。

 チェイスも本人達の口から何度も聞いた単語だ。

「まさか子供まで混じっているとはな。あの男、ホラ吹きではないか」

―――あの男?

 まるでこちらの作戦を知らされていたかのような発言。あの男とは、一体。

「この者共はどうします?」

「吐かせろ、手段は選ぶな」

 町の衛兵達が集まってきた。このまま捕虜になるのは大変まずい。

 捕まれば拷問を受けるのはもちろん、吐いて用済みとなれば、郊外に立つ頭と胴が別れた案山子の仲間入りだ。

《合図で組み付いてる衛兵を始末しろ、そのぐらい出来るな?》

 強化外骨格は伊達ではない。人間なら束になっても相手にならない。

 チェイスを二人の衛兵がのしかかり、荒縄で両手を拘束し始めた。

 どこからか、ドスドスと重量物が疾走する気配を感じた。ゴーレムの増援がこちらに向かっている。

 こちらが先か、向こうが先か。ノリアゲの視線が音の方向にそれた。

《今だ!》

 荒縄を引き千切ると、チェイスは自身を拘束していた衛兵を持ち上げ、ノリアゲに投げた。

「くそっ」

 瞬時に拳銃を拾い上げたチェイスは続けて発砲するが、弾は装甲に弾かれた。

「やってくれたな! 死ね!」

 ゴーレムが足を振り上げた。

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