官と民 2
通信終了後、ほどなくしてマックのタブレットに情報が送信されてきた。
チームを比較的きれいな廃屋に集めると、マックはペーパータイプのタブレットを家の中で一番大きなテーブルに広げた。
「国軍の連中が情報を持ってきた。各員、データベースをアップデートしろ」
情報収集に関する技術は、いつの時代も基本は変わらない。末端が収集し、中央が整理・分析。そして整えられた情報が末端に再び与えられる。今回の場合、現地の地理や文化、そして言語がネットワークを通じて共有されているのだ。
アップデートが終わると、タブレットの地図が書き換えられていく。
「マーセル連邦? 前の訳よかマシだな」
「ようやく地図が地図らしくなったじゃないか」
「これはあくまで仮の地図だということを忘れるな」
大陸の地図を拡大し、連邦の中心へ。
「俺たちやニュー・ノバスコシアはここ、マーセル連邦中部サーボレンス州にいる。しばらくはこの辺りで仕事をすることになるだろう」
サーボレンスのやや東寄りの丘陵地帯に、ニュー・ノバスコシアはある。そこから西に伸びる矢印は一つの集落を指していた。
シャンプーシャン村。国軍の部隊がそこで無数の敵と対峙しているのだ。
「で、司令部は車両を寄越してくれるのか?」
「そんなものはない。スーツのオートラン機能を使えば半日以内に着く」
ギャルド・モンドが採用するパワードスーツは、一種の人工筋肉を利用して身体能力の向上を図っている。さらに高度なスーツCPUは装着者が労力と意識を必要とせずに走らせることまで可能だ。
もちろんこの機能には欠点があり、CPUすべてのリソースを走行関係に割くため、スーツが必要最低限の性能しか発揮出来なくなるのだ。この状態での戦闘は危険だ。
「とりあえず、合流だな」
「いや、政治的状況に不透明な点が多すぎる。こちらの存在は極力秘匿しよう」
「それは、国軍が敵に回るということか?」
「今のところはまだだ」
妙な疑念を抱かせないため、マックはメガロドンからの質問を即座に否定した。
「だが将来はわからん。出来るだけこちらの手の内を教えたくない」
味方に存在を伏せておきたいというのもおかしな話ではあるが、現実問題、TF101の隊員は肩を並べて活動しているだけで祖国の政治的には敵対関係にある者さえいる。
今回の場合は新自由国家同盟が多くの国家と敵対しているため可視化されているが、元来国家に真の味方などない。水面下では、隊員達の背後にいる政治家や諜報機関がSW-1の権益を醜く奪い合っているのだ。
TF101とは鋭利なナイフだ。しかし、鋭利な刃物は頑丈に作れない。その刀身には、隅々に至るまで細かな亀裂が走っているのだ。
「現場で判断ね。いつ出発する?」
「設営部隊が到着次第、早速だ」
噂をすれば何とやら。扉が乱暴に開かれた。
反射的にギャルド・モンドの傭兵が銃口を向けたが、その先にいたのは身柄を一時エリザに任せた少年だった。当然とはいえ、突然強烈な殺気を向けられて顔を強張らせている。
危険はないと判断した一同はすぐさま銃を下ろし、問い掛けた。
「ボウズ、どした?」
正気に戻った少年は、顔を青くしながらも言う。
「い、今変な奴らがここに……」
変な奴らと言われても、普通なら抽象的過ぎて判断に困るだろう。しかし、今回の状況では察しがついた。念のためマックは尋ねる。
「こいつみたいなのか?」
指差す先にはウージー。少年は無言で肯定した。では間違いなくギャルド・モンドの関係者だ。
「なら問題ない。妙な真似をしなければ害はないと伝えろ」
そこまで言って、ようやくマックは拳銃の撃鉄を戻した。
少年が“それら”を見て恐れるのも無理はない。彼が目撃した“変な奴ら”とは、ウージーのように二足歩行する人型の無機物……いわゆるロボットだったのだから。しかし、彼女が聞いたらこの表現を気に召すことはなく、こう言うだろう。
『私のボディは九〇パーセントの無機物と一〇パーセントの有機物で構成されています。完全な無機物の彼らと一緒にしないでください』
とどのつまり、ウージーのようなサイボーグと違って、作業用ロボットは有機パーツ皆無の完全な機械なのだ。
「こいつら……なんなの?」
「ロボット」
少年からの問い掛けにギュスターブが短く答えた。といっても、少年にそんなものがわかるはずがない。
「ロボット?」
「んな言い方でわかるわけないだろ。つまり、金属でできた人間っぽいモンだ」
メガロドンの言い方にも問題があるだろう。事実、少年はロボットが何なのかいまいち理解できていなかった。
一方その頃、マックは膨大な量のマテリアルと、建築用プリンターを巨大なリアカーに載せてけん引してきたロボット部隊の母機と話していた。
「サインをお願いします」
安定した最新の技術を真っ先に投入するのが新自由国家同盟傘下の会社、ギャルド・モンドの特徴である。しかし妙なところでアナログなものを好む性質があり、ロボットがマックに向けて差し出したのは、古めかしい九・七インチのタブレットだった。
マックがそこに自分の識別コードを書き込むと、ロボットは自身の腹部にタブレットを格納した。
「オペレーターマック、認証確認しました。三Dプリンターのロックを解除、前線基地の設営を開始します」
「頼むぞ」
ギャルド・モンドの消耗品は基本的に三Dプリンターを利用して現地で生産される。しかし、国軍出身の部隊は基本的にこの手法で補給をしない。これは過去、世界各国で三Dプリンター製の銃器を大量に密造し、反社会的勢力が大規模なテロに利用した事件があったため、危機感を感じた多くの国家で民間所持が禁止されたためだ。
所持が制限されると、自然と研究する機関も減った。これでは関連する分野の研究が遅れるのは道理である。このような経緯もあり、現状で高性能なプリンターを持つ勢力は新自由国家同盟だけと言える。
チームメンバーが弾薬や食料含む消耗品の製造をしている間、マックだけはプリンターを担当するロボットを呼び止めた。
「おい。VR訓練装置とジェイル三〇の製造を頼む」
「了解しました。他には?」
「ない。それと、俺が死んだらキャンセルしてくれ」
最小限の人型をした作業用ロボットは、仰々しく敬礼した。




