民間軍事国家1
「いいねえ、さすが異世界。地球上じゃもうお目にかかれない自然だぜ」
「ここいらの土でも、アメリカ人の農家にグラム三ドルはイケる」
「ギュスターブ、メガロドン。許可なくSW-1の物質を地球圏に持ち込む行為は禁止されています」
「知ってるよ、ものの例えだよ」
「でもよ、ここが世間に公表されてない今が売り時って奴じゃねえのか?」
今もなお発展途上のニュー・ノバスコシア基地。火星は開拓真っ最中なのだから、基地の設営に必要な重機を揃えるのに苦労はしなかった。
この重機というのは、パタゴン級人型作業ロボットである。
火星での重機を用いた作業には当然、地球からの輸送が必須となる。しかし、地球から火星までの輸送路が確立したとはいえ、片道だけでも掛かるコストは馬鹿にならない。輸送が少ない回数で済むように、多少の生産コストには目を瞑り、汎用性の高い重機が必要とされた。
そこで注目されたのが、様々な新技術が投入された人型ロボット、バニヤンである。最新のAIによって極めて高いバランス維持と命令遂行能力を持ち、五メートルの背丈で最大二トンの重量物を運搬可能。火星だけでなく、地球においても、あらゆる重機の代用品となったのである。
AIでは不安の残る作業も、人間が搭乗する事によって解決する。操縦も神経接続のため、簡単なナノマシン注入のみで誰でも高い精度で、体を直接動かすのと変わらない感覚で作業可能だ。
このように高い汎用性を誇るバニヤンにも欠点がある。それは、兵器としては論外という点だ。
戦車と比べて薄い装甲・不安定なバランス・低い攻撃能力・圧倒的高コスト。前線での使用が想定される兵器としては、まさに論外である。こうして、日本のアニメのような人型ロボットが従来型の兵器を蹂躙する時代は到来しなかったのである。
一応、中東やアフリカの武装勢力が国連の作業用バニヤンを鹵獲・武装化したものが確認されているが、威圧効果は最初のうちだけ。冷静になった敵が発射したRPGの一撃を受けて大破する様子がたびたび撮影されていた。
繰り返すが、兵器としては論外なのである。
閑話休題
この会話は、土木作業中のパタゴン級人型作業ロボのAIと、暇を持て余したTF101隊員ギュスターブとメガロドンの会話である。
「メガロドン、金銭の話ではありません。SW-1の物質の検査は完璧ではありません。地球外の物質と想定外の反応を……」
「人間クラスの思考能力持ってるお前なら、この有用性がわかるだろ? ゴミの山がグラム三ドルだぜ?」
「お言葉ですが、正常な思考の農家は由来不詳の土を買い取ったりはしません」
ポールは巨大なスコップを振るいながら言う。
人間との雑談もAIに求められる重要な能力である。火星のような巨大な密室では、孤独を解消する会話は精神衛生上とても大切なのだ。
「けっ、所詮はAIか」
《こちらマック。仕事が入った、集まれ》
脳内に響く、ナノマシンを介した上司の声。
「だとよ、行こうぜ」
「そうだな。あばよ、ミスターポール」
「ご武運を」
ロボットとの雑談もそこそこに、二人は足早に上司のもとへと向かった。




