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夜襲4

《正面から味方が出るぞ、発砲注意》

 抵抗らしい抵抗がなくなった頃、体内通信でソヴォクが呼びかけてきた。アイアンドッグの歩みを止めると、テントの陰からソヴォクとコロニー、そしてもう一人が姿を現した。

「この俺を、こんな目に遭わせやがって。どうなるかわかってるんだろうな!」

 男の声と背格好には見覚えがあった。このダギーズ部隊のリーダー、カミールである。プラスチック手錠で両手を封じられ、コロニーが後頭部に拳銃を突きつけて歩かせていた。

「俺はダギーズの導師、カミールだぞ! お前たち全員、ただで住むと思うなよ!」

「口だけ導師様のご到着だ。連行して差し上げろ」

 挑発するためか、コロニーはあえて翻訳装置を切らずに言った。

 アイアンドッグには負傷者移送用に人間を一人背中に乗せる事が出来るようになっている。落ちないように固定する事も可能だ。もちろん、これは緊急用の装備であり、未舗装路でトラックを走らせる時よりも揺れる。乗り心地は最悪だ。

 コロニーが犬でいう伏せの姿勢で待つアイアンドッグの背にカミールを放り投げ、ギークが胴体にベルトを回した。

「おいっ、何だこいつは!? おっ、俺をどうするつもりだ!」

「運ぶだけだ導師様。暴れても無駄だぞ」

 鳩尾に一撃を入れて黙らせると、アイアンドッグは立ち上がった。

《こちらブロウラー・アクチュアル。サプライズを確保、犬に持たせて送る。どうぞ》

《バーゲスト了解。敵の制圧を続けろ、交信終了》

 敵の主力は潰走し、残っているのはダギーズの物資や戦意を喪失した兵士が少し。物資そのものに興味はないが、兵士は全員排除しなければならない。

 アイアンドッグを村の門まで移動するように設定すると、ブロウラーチームは行動を開始した。


 敵の生存者は投降の意思を見せるか、うずくまったまま動こうとしなかった。ギークたちは、そういうものを発見するたびに容赦なく射殺していった。これは彼らの意思ではなく、TF101の交戦規定である。

 貴重な情報を持っている可能性の高い将校の類は、極力拘束するように命令されている。一方で、自分達がどこにいるのかさえわかっているのか怪しい末端が持つ情報など、たかが知れているというものだ。そんな人間を収容する余裕はなく、ましてや地球ではないこの地で律儀に条約を守る必要もない。

 現場の兵士からしても、弱者から搾取するクズをこの世から排除するのに大した精神的抵抗はなかった。

《泣き声が聞こえる。女だ》

 ダギーズの構成員に女は見当たらなかった。ルールで決定されているのかは定かではないが、敵である可能性は比較的低かった。

 しかし当然ながら、油断はしない。泣き声のする方向にチームが向かうと、襤褸を身にまとった男性数人が震えていた。黄色いスカーフを身に着けていない代わりに首輪をつけていた。

 彼らは恐らくダギーズではないが、それよりもチームの気を引いたものがあった。

 それは、布が被せられた馬車に見えた。女性の泣き声は、そこから発せられている。

「助けて! 殺さないでくれ! 俺達はダギーズじゃないんだ!」

 見慣れない存在に身の危険を感じたのか、頭を抱えて男達が絶叫する。その言葉通り、体には入れ墨が見受けられず、やつれている。食事もろくに与えられていないようだ。

「お前たちをどうこうする気はない。何者だ?」

「……俺たちは、奴隷にされたんだ」

 ソヴォクの問いに、男の一人が声を震わせつつ答えた。

「荷物運びをさせられていたのか?」

「そうだ」

「少し待ってろ、落ち着いたら拘束を解いてやる」

「……ありがとう」

 奴隷達にはいったん待ってもらうと、馬車の調査に移る。

 コロニーはこの時、奴隷達の視線に気付いた。馬車に近づこうとするブロウラーが気になるらしい。

「おい、この中身はなんだ?」

 不審に思って問い掛けると、

「知らない」

 奴隷の一人がぱちぱちと瞬きして答えた。

―――嘘だな。

 コロニーは即座に看破した。しかし、内容まではわからない。

《何かあるぞ》

《わかってる》

 ギークが馬車の布を取り払うと、そこには女がいた。衣服と呼ぶのも憚られる布きれと、そばの奴隷と同じく首輪。彼女達もまた、奴隷なのだろう。それも、その体ひとつで出来る事をさせられていたに違いない。

 男性の多い軍隊では、兵士たちの性欲のコントロールもまた重要な課題である。守るべき国民や、現地の住民に対して性的な暴行を働くようでは本末転倒であるからだ。八〇年代からはナノマシンによって男性ホルモンを調整して性欲をコントロールする制欲治療が登場したが、この世界にそんな都合のいい技術は存在しない。

 ゆえに、こうやって女性を連れ歩いているのだろう。あるいは、どこかへ売り飛ばす為か。どのみち、性奴隷扱いされているのは間違いないだろう。

 ソヴォクは牢の錠をAKライフルの銃床で叩き壊して女性たちを解放した。

「出ろ。馬鹿な真似はするなよ」

 馬車から降ろしてもまったく油断せずに銃口を向け、一列に並ばせた。もし奴隷だとしても、相手は仮にも宗教団体。どんな仕打ちを受けたところで、ダギーズを盲信している奴隷がいたところで不思議ではないからだ。

《ギーク、ボディーチェックしろ》

 ほぼ裸だからといって、武器がないとも限らない。脇の下、脇腹、腰、股間、脚の順番に武器が隠されていないかを調査する。

 四人目に差し掛かったところ、

「ちょっと、触らないでよ」

 態度が癇に障ったわけではない。ただ、彼女からは覚悟を決めた人間特有の冷静さを感じたのだ。

 しかし、体を触れたところで武器らしき感触は感じない。感じるのは、確かな殺意のみ。

 脚を調べ始めたその時、指先から氷の刃が伸びた。

 思わぬ場所から出現した武器に、一同は戦慄したが、動きは乱れなかった。

 ギークは刃を生じさせた右手を封じると、足を掛けて地面に張り倒した。強烈な一撃を受けても気絶はしなかったが、銃口を向けられても抗うほど魔女は愚かではなかった。

「お前たち全員伏せろ!」

「違う、私は魔女じゃない!」

「従わないなら発砲する!」

 女奴隷達は口々に叫ぶ。しかしそう言われても、何もない場所から氷のナイフを生み出すような技術だ。口で潔白を証明したところで、とても信用できない。

 一方魔女を拘束するギークとコロニーは、思ったよりもすんなりと完了した。プラスチック手錠を三重に巻き、念のため両手の指に拘束用接着剤を塗って固定した。魔法が人知を超えた万能でもない限り、もう指先ひとつ動かす事さえ出来ないだろう。

《ギーク、怪我は?》

《ありません、多分》

 魔法に呪いの類があれば、次の瞬間には死んでいるかもしれない。だから、多分なのだ。

《念のため視覚と聴覚も封じましょう》

 創作において、魔法の発動条件は様々だ。長い詠唱が必要なものもあれば、杖が必要になるものもある。詠唱が不要な点は先ほど目にした通りだが、現実問題、この魔法がどんな条件を持つかわからないため、可能性のある手段はすべて封じなければならない。

《同感だ、やってくれ》

 医療キットの包帯とガーゼで魔女の視界を覆い、ガーゼを丸めて作った耳栓で耳を塞いだ。これでもなお魔法が発動できるのなら、お手上げである。

《こちらブロウラー・アクチュアル、敵残存勢力確認できず。代わりに、興味深いものを発見した。どうぞ》

《バーゲスト了解。現地勢力と共にそちらへ向かう。よくやった、交信終了》

 ソヴォクがバーゲストと通信している間、魔女はもぞもぞと抵抗していた。

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