黄色の軍勢3
闇夜に蠢く松明の輝き。そして黄色の集団。
壁の通路で警戒していた自警団は息を飲んだ。
「マジかよ、本当に来やがった」
双眼鏡を覗きつつ、自警団のメンバーが呟く。
「あの装備、どう見ても攻め落とすつもりだぜ」
「だけど、なんだってあんな人数と装備を揃えてやがるんだ? いくらなんでも過剰だ」
一〇〇人に満たない村、これはいい。肝心なのは、戦力は自警団一〇名ばかりという事だ。対するは、一部がライフルを持った一個小隊以上。
まともに戦ったところで、相手にならないのは明白だ。
「おい、あの人たちが来たぞ」
囁きから間もなくして、バーゲストとモホークが自警団のリーダーと共に通路に現れた。
「状況は?」
半信半疑で無下に扱ってしまった自警団はバツの悪そうな表情を見せたが、明らかに戦闘経験豊富な様子を受けてリーダーが手短に告げた。
「確認出来るだけでも敵は八〇人以上、荷を担いだ馬を複数連れて、銃も持っている。こちらは一〇人、銃は七丁……」
口に出す事で、改めて絶望を認識する。銃は素人でもちょっとした訓練で人を殺すことが出来る優位性がある。
しかし同時に、持たざる少数派には越えようがない絶望的な格差が生じるのだ。
村全員が力を合わせて戦おうにも、鍬や包丁を叩きつける前に大多数が射殺されてしまう。
では、門を開けて略奪者たちを迎合するか?
それこそ、想像するに憚られるような惨事が繰り広げられる事となるだろう。
では籠城はどうか? シャンプーシャン村は一方向からのみ進入が可能な特異な地形だ、簡単には落ちまい。
しかし、ここで最大の疑問にぶち当たる。誰がダギーズに襲われた我々を助けてくれるのだろうか。
近くに村はない。あったとして、助けを出すほどの余裕はない。
即ち、籠城は運良くダギーズが飽きて別の村を襲いに行くか、あるちは飢えに狂った者が門を開けるまで続くということだ。
―――どうすればいいんだ。
自警団のリーダーは悟った。これはもう、自分の手に負える状況ではない、上の承認が必要だと。
「村長を呼んでくれ、これはもう俺の手に負えない……」
「……じゃあ、ギルドや宿屋を利用して、冒険者に緊急の依頼をしよう。リュー、村の銃はこれで全部か?」
肩を落として言うリーダーを尻目に、自警団の一人が指示を飛ばしていた。
―――自警団のサブリーダーのようなものだろうか?
バーゲストはそう考えて見ていたが、それにしては様子がおかしい。リーダーも、自分を差し置いて指示を飛ばす男に気付いた。
「お前は……あっ、村長! いつの間に?」
TF101の二人は思わず顔を見合わせた。仮にも村のトップがこんなところで何をやっているのやら。
村長は兜を深く被っていたため容姿はわからなかったが、装備が他の団員よりも上等だ。
麻紐のようなもので胸部を隠す鉄板を吊り下げているだけのものが、一般的な自警団の鎧だ。
一方で村長の着ている鎧は組紐で固定され、ショルダーアーマーやレッグアーマーも含まれた重装備である。
しかも、それぞれが移動や姿勢を変えた際に干渉しないよう丁寧に設計されている。
重いのは考えるまでもないが、その割には動きやすそうな装備だ。
「さっきからずっといた。それよりも手伝え。武器が扱えそうな奴を全員ここに呼ぶんだ。戦えない奴は、湯や油の準備を」
なるほど、村長とやらは最低限の戦術を学んでいるようだ。現状は一人でも多く戦闘員が必要で、煮えたぎった湯や油は上から敵に浴びせれば、大きな被害を負わせることができる。
もちろん、相手は大砲や破城槌を用いて正面突破を試みるだろう。銃撃も激しいに違いない。抵抗するにしても、焼け石に水という奴だろう。
あらかた指示を終えると、村長はバーゲストたちに向き直った。
「で、おたくらが知らせてくれた人たちかい?」
「その通り。お目にかかれて光栄です、村長」
「挨拶はいい。手伝ってくれるか?」
「そうせざるを得ないでしょうな」
バーゲストは笑みを浮かべた。
「我々はそちらの支援にあたります。それと、医療に詳しい人間が一名待機しています。負傷者の治療にも協力しましょう」
「ありがたい……ところで、もっと大勢いたと聞きましたが?」
辺りを少し見渡すと、村長が言う。この場にはバーゲストとモホーク。そして酒場で治療の準備をしているイェシュアを除けば、残りの隊員の姿はなかった。
「心配無用。ここではありませんが、すぐ近くにいます」
怪訝な表情をする村長を横目に、バーゲストは体内通信の回線を開いた。