旅路2
翌朝。結局、ローサは朝までぐっすりと熟睡していた。
「ごっ、ごめんなさいーっ! どうしましょう? やっぱり、今からでも寝た方が……」
「気にしないで。半分寝てたようなものだから」
無論、これは嘘である。確かに体を休めてはいたが、警戒を続けるために意識は一瞬たりとも休めることなく覚醒させていた。疲れは取れるが、効果は間違いなく睡眠より劣る。
もっとも、空挺レンジャー課程や実際の任務と比べれば屁でもない状況だ。もっと辛い状況はいくつもあり、常に切り抜けてきた。
「なら、いいんですけど」
釈然としない様子でローサは言う。それでいい。他者の眠りを守ることこそが、兵士の役割なのだから。
移動を再開して半日、遂に二人は森から脱出に成功した。
加えて、森を出てすぐの盆地では街道が伸びている。もちろん、これは地図通りである。
「やっと着いたー。あとは、この道を真っ直ぐ西に進めばシャンプーシャン村です」
「なるほど」
あの村はシャンプーシャン村というのか。ギークは素早く地図に書き足した。
「私、あの村はおばあちゃんと一緒に何度か行ったことがあるんです。人がたくさんいて、家がたくさんあって……あと、凄い急な坂の上に村があるんですよ」
それも事前の情報通り。シャンプーシャン村は人口一〇〇人にも満たない小さな村である。
「行くたびに私疲れちゃって……」
「村長さんと会ったことは?」
「ありますよ。なんだか、おばあちゃんと親しい感じでした」
ローサの祖母という人物は住んでいると比べると、何かと顔が広い人物らしい。
街道を西に進んで二時間ほど。ギークのナノマシンが体内通信の着信を知らせた。
《こちらバーゲスト。ギーク、お前の信号を捉えた。応答せよ》
《こちらギーク。現在、合流地点に向けて街道を進んでいます》
仲間の無事に安堵したギークは尋ねる。
《そちらはもう、村に到着したのでしょうか?》
《ああ、この……シャンプーシャン村とやらに入っている。それと、例の武装集団についてだが……》
《ダギーズ、ですね》
面食らったのか、バーゲストの返答に少し間が開いた。
《……同行者がいるのか?》
《はい。ダギーズに襲われていたところを保護した民間人が一人》
《正体は悟られていないよな?》
《もちろん》
《ならばよろしい、よくやった。詳しい話は直接顔を合わせてからにしよう。とにかく、村に来てくれ。どうぞ》
《了解しました。通信終了》
回線を閉ざすのとほぼ同時に、丘の稜線の向こうに村の輪郭が見えてきた。
急勾配の丘に立ち並ぶ家々、そして麓に広がる白い花畑。それは、文字通り坂の上にある村だった。
「凄いな、本当に坂の上だ」
「ですよね、ですよね? どうしてこんなところに村を作ったんだろうって、見るたびに思います!」
「同感だ」
出来る事なら、この村の成り立ちについて住民と話してみたいものだ。これは趣味もあるが、もちろん仕事でもある。現地を知る事もまた、TF101の仕事なのだ。
ギークはそんな風に自分を納得させると、少しだけ浮足立った歩調で村への道を歩いた。




