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僕はサーシャと暮らし始めて、どこに行くのも付いていって、彼女の役に立とうと頑張った。・・・たいてい荷物をちょこっとだけ持つとかそんな他愛無いことしかできなかったが、彼女がありがとうと言ってくれるのがとても嬉しくって、ますますべったりになっていた。
そんなある日、彼女といつものように買い物に出かけた。その日は荷物が多くて彼女は大変そうだったのだが僕は相変わらず少ししか持てなくって、どうしようかと二人で相談していた。すると、
「あ、サーシャ?困ってんのか?」
声をかけてきたのは向かいの家のラークだった。いつもは近くの街に出稼ぎに行っている事が多いので、あまりこういう場所で偶然に遭遇することは少なかった。
「ええ、ちょっと買い過ぎちゃって。どうやって持って帰ろうか考えてたのよ。」
「なんだ、じゃあ俺が持ってってやるよ。ほら寄越せ。」
そう言ってラークは彼女の荷物を持った。そして三人で並んで家の方向に歩きだす。
「ごめんねラーク。もうちょっと考えればよかったわ・・・」
「気にすんな。それよりもこういう時は“ごめん”より“ありがとう“の方が男は嬉しいんだぜ。」
少し落ち込んでいる彼女を励まそうとしているのかラークは軽く言うと彼女の頭をこづく。
「うん・・・。ありがとう、ラーク。」
「そうそう、そんな風に笑って礼を言ってもらえるならいくらだって持ってやりたくなるからさ。」
(・・・なんかもやもやする。)
僕は別に彼が嫌いではない。明るくて優しい彼はアレクとも初めて会ったときから仲良しである。でも彼がサーシャと仲良く話しているのも、サーシャが彼にありがとうと言って笑っているのもいやだと思った。
(・・・なんでだろう。サーシャがわらってるのすきなのに・・・。)
彼が抱えた一杯の買い物袋に比べて、自分が持っているちっぽけな袋がすごく恥ずかしかった。
それからの帰り道はサーシャにもラークにもそっけない態度になってしまい怪訝そうな顔をされた。
「どうしたのアレク?いつもはラークと仲良しなのに・・・。」
家に帰るとサーシャが困惑ぎみに訊いてきた。僕はその時心臓がバクバクいうのを聞きながら、湿った手でシャツをぎゅっと握り掠れた声で尋ねた。
「・・・サーシャはラークがすき?」
「え?」
「サーシャはラークがぼくよりすき?ぼくよりラークのほうといっしょにいたい?・・・もう、ぼくのことすきじゃないの・・・?」
「ちょ、ちょっと待って。そんなこと一回も思ったことないわよ!?たしかに彼のことは好きだけどそれは友人だからであって・・・」
「やっぱりすきなんだあぁぁぁ。わあぁぁぁ。」
「ちょっと泣かないでよ!えっと、えっと・・・そうあなたは『特別』なの!!」
「ふぇ、とくべつ・・・?」
「そう!私はあなたが『特別』に好きなの!だから大丈夫よ。アレク」
「ぼぐだげ・・・?」
「うーん、とうさんとかあさんも・・・かな?」
「じいとばあならいいよ。ぼくもふたりだいすき!」
「うん、私はこの町のみんなが好きだけど『特別』なのはアレクととうさんとかあさんだけだよ。」
「『特別』なら…ずっとさーしゃはいっしょにいてくれる?」
「ええ、もちろん!」
(とくべつ・・・ぼくはずっとサーシャといてもいいんだ!)
俺は嬉しくなってサーシャに抱きついた。
「もうあんなふうにすねちゃだめだからね。今度ラークに会ったらごめん、て言うのよ。さ、ごはんにしましょうか。」
「うん!」
俺はその時、自分に向けられる『特別』があれば、いつまでも彼女の隣を歩けると思っていた・・・。
お読みいただきありがとうございました!