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PAGE.6

あと4~5話ぐらいだと思います。

「アレクおそいっ!他の人より早く来なきゃダメでしょうが!」

 予想通り、言われていた時間ぎりぎりに駆け込んできた俺に、彼女はぷんすかと怒った。

「悪い。けど、家をぐちゃぐちゃにしたまま出てっただろ!……っていうか、その服…。」

「えへっ…にあう?」

 サーシャは既にウェディングドレスに身を包んでいた。細かいレースが組み合わさった精緻な純白のドレスは、彼女の柔らかい雰囲気ととても合っていて、輝きを増しているようだった。

「……衣装合わせで何度も見ただろ。それより、こんな早くに着て汚したり、破いたりするなよ。」

「もう、なんでそんなこと言うの!?そうじゃなくて、今日はちゃんとお化粧もしてるんだから、もっと何か……。」


「綺麗だよ。」


 いつもは、なんだか気恥かしくて言えないが、今日はするりと言葉にできた。実際に、彼女の姿が綺麗だというのもあるし、それ以外にも……。

 考えに沈みそうになるのを振り払って彼女を見ると、真っ赤な顔になって俯いている。ぼそぼそと何かを呟いているようだが、小さくてよく聞こえない。

「素直なアレクってなんか恥ずかしい……。ああもう!早くこれ着てきて!」

 彼女がいきなり布に包まれた何かを投げつけてきた。慌てて受け取る。

「なんだこれ?」

「今日の服に決まってるでしょう。アレクになんて期待できないから、私が選んだのよ。」

「さすがにこんなに大切な日に、いつもの服で来たりしねぇよ。」

「当たり前!TPOじゃなくて服自体のセンスのことを言ってるの!」

「こっちの花は何だ?」

「ブーケから一本ぬいてきたのよ。…花言葉は“あなたと共の幸福を願う”なんだって。結婚式にぴったりね。」

「ふーん…サンキュー。」

「さすがにまだブーケはあげられないから……あ、はーい!今行きます!ほら、そろそろ時間になっちゃうわ。」

 彼女を迎えに来た修道女の姿が見えた。彼女がそちらに向けて走り出す。

「へいへい、わかったよ。…あ、そうだ。」

「ん、なに?」

 サーシャが笑みを浮かべて、こちらを振り向いた。

 俺が世界で一番愛している女性(ひと)。彼女は、容姿が特別美しいわけではない。けれどその声が、言葉が、仕草が…不思議なほどに、周りを惹きつける。

 それはまるで太陽の光のようで、温かく優しい。…自分はそれに救われたというのに、そのことにずっと俺は苛立っていた。

 周りの人なんかじゃなく、自分を見て欲しい。好きになって欲しい。……『特別』だと、想って欲しい。

 身勝手な願いに心が囚われていた頃、周りも、自分も、彼女さえも憎らしく感じていたこともあった。けれど……。

「今、幸せか?」

「ええ、もちろん!これからもずっとあなたがいる……この街や一番大好きな人と居られる。幸せに決まってるわ!」

 サーシャがこちらに一歩近づいてきた。にっこりと頬笑む。

「アレク、今までありがとう。そしてこれからもよろしく。」

 彼女の顔を見ると、それが心の底からの言葉であることが伝わってきた。胸が温かくなり、少しこそばゆいような感じがした。

「こちらこそ、今までありがとう。そんでよろしく。」

「ん。」

「…愛してるよ、サーシャ。」

 そう言うと俺は、彼女を抱きよせ___額に唇を落とした。

「!なっなにしてるのよ!式の前に!」

「別にいいだろ、おでこぐらい。」

「駄目よ、もうお白粉とか縫ってるんだから!ほら唇にちょっとついてるわ。あー恥ずかしー、早く取ってよ!」

「悪い悪い。じゃ、後でな。」

「早く行っちゃえばーか!」

 そう言うと彼女は口をイーと横に広げると、もうこちらを振り向かずに今度こそ向こうへと駆けて行った。まったく、今日結婚する女性とは思えない。

 ……ほんとうに、だいすきだった。だれよりもいとしいひと。

「……サーシャ、ごめんな。」

 俺は小さな声で呟き、彼女が走って行ったのとは逆の方向に、ゆっくりと歩き出した。


お読み頂きありがとうございました!

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