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本日連続投稿しております。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
すごく恥ずかしい。サーシャは僕をもう一度ベッドにきちんと寝かしなおすと、キッチンに料理を作りに行った。
そのあと、出してもらった料理はとても美味しかった。彼女にそれを伝えると、とても喜んでくれた。
(……そういえば、どれぐらい食べてないんだろう。)
父さんたちが死んだ後も食べていたと思うのだが、記憶にない。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
彼女はニコニコ笑って僕を見ていた。僕は食器をきちんと並べて、姿勢を正した。お世話になった人にはきちんとお礼をしなければだめだぞと、父さん達にいつも言われていたからだ。
「サーシャさん、助けてくれてありがとうございました。このご恩はきっとかえ……せるかはわからないですけど、ぜったいに忘れません。どうもおじゃましました。では……。」
僕はドアのところまでタッと駆けていくと、もう一度彼女に向けてお辞儀した。
「……え、ちょ、ちょっと待ちなさい!あなたどこにいくの?」
確かに、行くところはない。元々行くはずだった養護院は遠すぎる。
返事のできない僕に、彼女が重ねて言った。
「それなら……ここに居ない?」
「え?」
「この家、部屋は多いんだけど、今は私しか住んでいないの。だからあなたがいても全然困らない。むしろ、賑やかになって嬉しいくらいよ。まあ、男の子と暮らすのは危ないかもしれないけど、まだ子供だし。」
「なっ!?ぼくもうこどもじゃ……!」
「じゃあ、あなたいくつ?」
「ここのつ……すいませんうそです。ほんとはむっつ……。」
「六つならまだ十分子どもです。ああーもう!そんな年の子を放りだせるわけないでしょう。」
彼女はそういうと、僕の前で膝立ちになった。肩に手を置かれる。
「袖振り合うも多生の縁、って言うでしょ!ここで出ていかれて、私が気をもまないと思うの?挙句の果てにまた倒れられたりしたら……!」
彼女の声はどんどん大きくなってきた。けれど、まだ頷けないでいる僕の手を、彼女がギュっと握った。
「行く所がないのなら、ここにいなさい。……ね?」
「でも、これ以上お世話になるわけには…。」
「全然構わないわよ!……でも、そうねえ。もし居候がいやなら、家のことを手伝ってくれる?そうしたら、ギブアンドテイクで心苦しくないでしょ。」
「ホントに、いいの?」
「もちろん!私の家族になってくれる?……アレク」
にっこりと笑った彼女は、今までの中でいちばん綺麗だった。僕は、父さん達が死んでから、初めて笑った。
「うん!」
「やった!じゃあ、すぐにお義父さん達に会わせなきゃ!」
その後会った、サーシャの両親たちもとても優しい人たちで、サーシャのいきなりの『弟ができたの!』という発言にも驚かず、『そうか、子供が増えるのはうれしいなぁ』『ええ。』と、あっさり僕のことを受け入れてしまった。
こうして、僕はサーシャの家に住み始めたのだ。
*
「アレク、起きろぉぉぉ!」
「うわっ!……ってマリア。どうしてここに?……え!?今何時だ!?」
「もう十刻(八時半)くらいよ。まったくこんな日に寝坊するなんて!」
「やばい!……で、なんでここにいるんだ?」
枕元に仁王立ちして、俺を叩き起した彼女は、サーシャの親友で隣に住んでいるマリアだった。すでにドレスアップを済ましている。
「サーシャに頼まれたの!あの子が自分で起きられるはずがないから、起こしてあげてって。
(くっ、その通りになってしまった。)
ベッドから起き上がり、出ていくマリアに向けて訊く。
「サーシャはもう行ったのか?」
「当たり前!寝てるあんたがおかしいの。…全く、今日は何より大事な日でしょうが!」
「わ、悪い…。」
「じゃ、先行ってるわ。」
そう言うと、マリアはすっと出て行った。
(…なんか、昔の夢見てたな。やっぱり……こんな日だからか。)
しばし夢の余韻に浸っていたい気もしたが、そんなことを言っていられる時間ではない。俺は慌てて布団を片付け、着替え、家の片づけを残らず済ましてから教会へと走り出した。
お読み頂きありがとうございました!