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PAGE.3

本日忙しく、一話しか投稿できず申し訳ありません。

少し長めです。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。


 サーシャと俺が初めて出会ったのは、十年以上前。俺はまだ六歳の子供だった。

 俺は小さいころからこの町に住んでいたわけではなく、本当なら会うこともないような遠い街に元々は住んでいた。

 そこから俺は、彼女の街へと駆けてきたのだ……”虹の向こうの街”を探して。

 それを初めて聞いたのはまだ両親が生きていたころ、父親と街を歩いていた時のことだった。


 ___アレク、面白い話を教えてやろう。


 そう言って父親が教えてくれた話は、とても幻想的なお伽噺だった。


 ___昔々、ある所に一人の少年がいました。彼は優しい両親と幸せに暮らしていましたが、ある時盗賊に襲われ、両親を殺されてしまいました。少年は何とか逃げだすことができましたが、これからどうすればいいのかも分かりません。そんな時、雨も降っていないのに見たこともないような大きな虹が空に現れたのです!


 ___”虹の向こうに天国がある”その国では、そう信じられていました。少年は駆けだしました。迷いの起きないようにしっかりと目をつむって。そしてずうっと走り続けた少年は、疲れ果てて倒れこみました。もう、動けない。しかし、死を覚悟した彼の耳に話しかけてくる声が聞こえました。それは、しんでいるはずの両親の声だったのです。驚いて目をあけると、そこは小さな小さな街の入り口でしたでした。けれど街全体が輝き、なにより目の前では両親が笑っているのです。


 ___その街はこの世とあの世のあわいにある街、”虹の向こうの街”でした。死者はその街から、遺してきた者たちをほんの少しの間見守り、そして今度こそ天国に行くのです。彼はそこで最後に少しだけ家族と暮らし、見送ってからまたこちらの世界に戻ってきました。そして、どこへともなく旅に出たそうです……ってな。


 ___そんなのあるわけないだろ。とーさんはしんじてるの?


 ___ははは、まあ俺も親父から聞いた時は馬鹿らしいと思ったよ。でも……今はあってほしいと思っているなあ……。


 そう言うと父親は俺の頭をなでた。愛おしそうに、哀しそうに。

 ……そして父親は次の年、母親とともに病で亡くなってしまった。

 幼く、身寄りのなかった俺は養護院に行くことになった。しかしその時の俺は、手配をしてくれた近所の人たちの呼びかけにも応じず、ただただぼんやりとしていた。父の死、母の死は幼い俺にはあまりにも遠く感じ、何を考えればいいのか分からなかった。頭が、現実を見ることを拒否していたのだ。

 しかし、家を出て顔を少し上げた時、両親が死んでから何も見つめていなかった瞳があるものを認識した。

(……にじだ!)

 ぼんやりとしていた頭が覚醒していく。いつも当たり前に見ていたものなのに、今この時出ていることに何か特別なものを感じた。

 父親との会話が、記憶の底からよみがえってくる。


 ___なあ、もし本当にそんな街があるのなら、俺達はずっとそこからお前を見ているよ。だから、お前はお前の人生、すべて生き抜いてから来てくれよ。


 そういった父親の言葉に俺は確かに頷いたのだ。けれど……

(とうさん、ごめん……!)

 俺は目をつぶって大人達の間を駆けだした。ただでさえ少ない荷物は彼らが持っていたので、本当に着のみ着のままだった。

「おいこら、待つんだ!」

「待て!」

 あわてて追いかけてくるが、この町は俺達が長年住んできた街。文字通り、目を瞑ってでも走りぬけられる。やがて、あきらめたのか、見失ったのか声が聞こえなくなった。けれど、俺は走り続けた。

 食べ物もお金もなく走り続ければどうなるかなんて、このころの自分でもすぐに想像がついた。

(でも……とうさんとかあさんに、会いたい!)

 強かった父さんの腕が、やわらかくて温かい母さんの掌が、懐かしかった。いなくなってから何日もたっていないのに、たまらなく恋しくて……俺は走るのをやめることができなかった。

(ごめん、ごめん!でも、会いたい……一人は、いやなんだ!)

 何かの奇跡で”虹の街”というものがあったとしても、たぶん自分はたどり着いたとき、生きていられないだろうと思った。何度も怖くなって目を開けそうになるが、その度にぎゅっとつむりなおして、走り続けた。

 どれだけ走ったか分からないぐらい走った。足がもう全然回らない。

 ついに俺は疲れ果て、壁によりかかったままずるずると座り込んでしまった。

(もうだめだ……でも、とうさんとかあさんに会えるかも……)

「……っと。ちょっと!あなた、大丈夫!?」

 意識を手放しかけていた俺の上から……声が聞こえた。若い女の人の声。

(なんだ……?)

 俺はぼんやりとして、つい目を開けてしまった。なんだかとても久しぶりに開けるような気がして、ひどく億劫だった。少しずつ、眩しい世界に色彩が戻ってくる。

 見ると、知らない女性に抱きかかえられていた。綺麗な麦穂色の髪に、草花のようなさっぱりした匂いがした。

(この人、だあれ……?)

「よかった!死んでないわね!」

 彼女は俺が動いたのを見て、安心したように息を吐いた。

(……しまった、めをあけちゃった!)

 焦ったが、そのおかげで彼女の顔が見れたのだ。彼女の瞳は……とても不思議な色合いだった。

(のぞき込んだときは、黄色と茶色がまざったみたいだったのに、いまは赤と紫だ……。)

 角度によって、その色を変える彼女の瞳はまるで……

(虹の目だ……ああ、たどり着いた……!)

 気が抜けたのか、体力が本当に尽きたのか意識がまた遠くなる。ゆすられても、まったく体が動かない。

「ちょっと!動けないじゃないのよ~!」

 彼女の声が聞こえたのを最後に、俺はばったりと意識を失ってしまった。

お読みいただきありがとうございました。

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