能ある鷹は爪を隠す
第三話 能ある鷹は爪を隠す
ふゎー。
「どうしたの?そんなに大きい欠伸しちゃって。」
「昨日色々あってさー。」
HARUに会った事や、映画の撮影があったことを全て話した。
「ねぇ、南。モデルやってみない?」
ふと思いついた事を、南に聞いた。南は頭もいいし、顔も可愛いし、足も細いし、背も高いし。モデルの要素全部持ってるもん。
「えっ、無理だよー。私可愛くないし。」
「自分を卑下しちゃだめ。南は十分過ぎるぐらいに可愛いよ。ちょっと来て。」
私は、南を化粧室に連れて行き、椅子に座らせた。そして眼鏡を取って持っていたコンタクトをはめた。で、髪は三つ編みを外して編み込みに。ゆるフワにしてみた。そして化粧は…。
「はい、いいよ。目を開けて。」
「うっ、嘘。これが私?」
女は化粧一つ、髪型1つで変わるって言うのは本当だった。本当に、ヤマトナデシコに七変化したみたい。今の南は誰が見ても、城之内南だとはバレないでしょう。
「桃ちゃん、久しぶりっ。さっきゆったのはこの子なの。城之内南。」
「さすがは苺ちゃん。上等よ。本当おに綺麗。」
そう言って、南を化粧室に入れた。私は、先に変えることにした。誰かに見つかると、後々不味いし。
「苺佳、送る。」
誰かが私を抱えて、車に乗っけてくれた。この声は…。
「お兄ちゃんっ。」
そう、琉陽お兄ちゃんだった。でもなぜお兄ちゃんが此処に?まさか、ストーカー?な分けないよね?頭の中に?マークが何個も浮かんでくる。なんでなんだろう…。
「ストーカーじゃねぇかんな。」
「えっ?」
それ以外、お兄ちゃんが喋ることは無かった。私も、その沈黙を破る気にはなれなかった。
「おはようございまーす。」
「おはようっ。」
今日は、撮影3回目。大分自分の役に染み込んできたのだ。
「みんな、集合。」
珍しいな。監督が集合をかけるなんて。かけるときは、大体撮影前ぐらいだったからな。
「山宮渚の役に補欠ができたので、彼女が山宮渚役となる城之内南だ。」
えっ、嘘。南が渚役?優里ちゃんは辞退したって言っていたけど…。
「よろしくお願いします。」
「よろしく。」
南がモデルになったのは知ってたけど、役を代わりにやるってのは聞いていなかったなぁー。
「南っ。一緒に頑張ろうね。」
私がそう声を掛けたのに、南は無視して、自分の位置へ戻った。
「なんだ、今の。」
「さぁね。台本の練習しよ。」
「ああ。」
そして、台本を読み合い、お互いに指摘しあい、約三十分が経過した頃、撮影の集合が掛かった。
「1,2,3,アクション。」
「俺はお前のことが好きだ。」
今日は、KOUTAの告白のシーンだ。幾ら作り物とはいえ、告白されるのはそんなに慣れていない。
「俺の事、嫌いか?好きな奴がいるの?…、ごめんな。こんなこと言って。」
「ううん。こっちこそごめんね。私、陽向の事大好きだよ。でも恋愛感情とは違うの。」
「…。そ、そっか。わりぃ。」
そう言って、KOUTAは走って行った。美鈴が好きな人は湊なんだもの。陽向が去ったあと、山宮渚役の南が来る。そして、叩く振りをしてこう言った。
「最低。私が陽向の事好きだったの知ってるよね、お姉ちゃん。」
「ご、ごめん。」
「いいよ、誤って欲しいわけじゃないから。あんたから、湊さんを取ってあげる。」
涙を流しながらそう言った。
「カット。いいよー、南ちゃん。苺佳ちゃん。」
「お疲れ様でした。」
「苺佳、お疲れっ。」
終わったあと直ぐに、お兄ちゃんが声を掛けてきた。
「琉陽もね。」
みんなの前では、名前で呼び合う事になっている。それにしても、南。演技上手いな。まさに、能ある鷹は爪を隠すって感じ?
「帰るぞ、苺佳。」
「うん。」
私は、車に乗って撮影会場を後にした。この時は、この後あんな事が起こるか思ってもいなかった。