論より証拠
第一章 論より証拠
「はぁー・・・、眠~い。」
口を塞ぎながらアクビをしているのは誰でもないこの私。昨日もパンドの打ち合わせで遅くまで起きてたから、朝きついィー。隣にいた南が心配そうにこっちを見ていた。
「大丈夫?苺佳ちゃん。」
城之内南。私の唯一の幼なじみ。勿論私がDELAのボーカルだってことは知っている。理解者であり、幼なじみであり、親友であり、姉である存在だ。優しくて頼りがいがあって、そのうえ頭も良くて・・・。大親友である。
「んー、昨日もアレだったからねー。」
「どうしたんだ?可愛い妹よ。良かったら、兄である魅那琉陽が聞いてやろう。」
出たっ。学校では話しかけないでっていつも言ってるのにィ。周りの女子からの視線が熱いじゃない。でも、同じ仕事をしている仲間としてなら、相談してもいいかな?
「じゃあ、家帰ってから聞いてくれる?」
「任せとけ。」
同級生のお兄ちゃん。成績は、南と12位を争う程頭がいい。それにルックスもよし・・・。自慢の兄だ。あれがなければ・・・。
「どうしたの?さっきより、顔色悪いよ。」
「ううん、大丈夫 」
南にそう返した所でまたもや、女子達の黄色い声が聞こえた。ふと見てみると・・・。みんな大人気のDELAのメンバーが勢ぞろい。KATEこと伊奈舞慶人。INAMIこと朝比奈稲嶺。KOUTAこと稲垣恒太郎。もう・・・、もうちょっとは学校で平凡に暮らせると思ってたのにぃ。私は下を向いた。こっちに気づいた三人がやってくる。
「苺佳ちゃん。学校ここだったんだー。迎に来たよ。」
「苺佳、いこー。」
「苺佳・・・。」
あぁ、みんなにバレちゃったなぁ。仕方なく眼鏡を取り髪を描きあげた。
「嘘ー、魅那さんが、MAIKA?かっこいいー。」
「でも、騙されてたって感じ?」
「わかるぅー。」
そういった声が、辺りから聞こえた。まっ、しょうがないよね。私が悪いんだもん。皆に黙ってたんだから。
「行くよ。」
私は三人を引き連れて外へと出た。
「あっ、DELAだ。でもなんで・・・?」
「ウソ、どこどこ?」
そんな声が響き車が目の前に止まった。
「乗りなっ。」
いつの間にか居なくなっていた慶人が車に乗り、迎に来てくれた。映画で例えると、アクセル踏んで目の前で止まったようなかっこいいシーン。さっすが慶人っ。メンバーの中では、最も無口な慶人だが、こういうアクション系は一番かっこいい。そして、一番美形。
私達は車に乗りロケ現場へと向かっ
た。今日は映画の撮影。恋愛系ってより、感動系って言った方が正しい。
「おい苺佳っ。お前が相手役なのか?」
「はっ?」
着いた瞬間、お兄ちゃんが私に意味のわからない事を聞いてきた。んー?どういうことだ?・・・、うっ、うそでしょう?台本を見てみると相手役は間違いなく、魅那琉陽だった。
「文句言うより、演技で証拠見せてよっ。ほら、論より証拠って言うでしょ?」
私がそう聞くと、お兄ちゃんはあったりめぇよと言って、去っていった。他にも私に片思いをやる役が恒太郎だったり、バーのバイトが慶人だったりとおどろかされるばっかだった。
「1,2,3,アクションっ。」
そう言ってカメラが回った。
私、雛季美鈴。数あるうちの上に立つエリート会社の娘。そして、私の婚約者の耶麻贄湊。耶麻贄グループの跡取り息子。親同士が仲が良く、湊とはケンカ友達だった。でも・・・、そんな湊が好きだとなかなか言えなくて・・・。
「おーい、美鈴ー。何してんだよ。」
演技だけどにこやかに笑うお兄ちゃんは、どこか大人っぽくかっこよかった。
「・・・っ。ごっ、ごめんっ。今行くから。」
雰囲気がどこか今のわたし達に似ており、どことなく気が重かった。それからも、形は違うものの、性格はほんとにわたし達にそっくりだった。丸で私達を知っている様な感じだ。
「お疲れ様ー。苺佳ちゃん、この調子でこれからも頑張ってねっ。」
北条美奈さんが、私にそう言ってくれた。美奈さんは、ドッキンパラダイスのボーカル。外見も文句なしに美人で性格もいいし、頼りがいのあるお姉さんって感じ。
「ありがとうございます、美奈さん。」
笑顔でそう返すと、美奈さんもこっちを見て微笑んでくれた。私とは3歳も違う美奈さん。やっぱり綺麗だった。
「苺佳、帰るぞ。」
美奈さんと話が終わったあと、琉陽が声を掛けてきた。
「うん。」
私はそう笑顔で頷いた。
「只今ー。お義父さん、お母さん。」
「お帰りー。ご飯あるけど食べる?」
「ううん。いい」
私はお母さんに向かって言うとそのまま部屋に向かった。
ふぅ。
溜息をつき、ベットの上に転んだ。何か今日のお兄ちゃん、格好よかったなっ。私に向ける顔とは全く違う顔。優しそうで、何故か大人びていて辛い過去を引きずっているような顔をしていた。でも・・、論より証拠ってこんな感じなのかな?言うよりも証拠を出せって感じ。丸で『矛と盾』みたい。
昔、何でも突き通す矛とどんなものも突き通さない盾を売っている武器商人が居た。ある客がこう言ったそうだ。
「じゃあ、その矛で盾を突き通してみろよ。」
「そうだそうだ。」
そう言われた所で話は終わるんだけど・・・私もそうだと思う。でもだからこそ矛と盾なんじゃないのかな?とも思ったのだ。そんなことを思い出しながら、夜は更けて行った。