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ページ17 壱斗くんの告白

「俺はこの国の王子様の身代わりだった」


やっと気がついて、目を開けてくれた王子様は変な事を口にした。


私を庇って、飛んできた石で頭を打った王子様。


それにしてもおかしすぎる。


というか、もうそういう状況じゃない。


私はグリニーダに詰め寄った。


「ねぇ、グリニーダ!本当に壱斗くんは大丈夫なの!?」


「癒梨を使ったから大丈夫じゃ。

傷は癒えておる」


ガミガミヤシから状況をみていたグリニーダはすぐに現れて治療をしてくれた。


だけど、これは本当に大丈夫じゃないでしょ!


そもそも何で王子様が、

私の通う高校の名前から出席番号まで知ってるわけ?


そんなの話してないよ?


「落ち着いて聞いて。

俺は頭打って変になったワケじゃない。

正気だよ」


「じゃあどうして…」


「俺は本物の王子様に頼まれたんだ」


「頼まれた!?」


「そう…妙な事を言って、俺に術をかけた。」


そう言った王子様…壱斗くんの目は真剣だった。


嘘や冗談を言っている感じじゃない。


「…本当に壱斗くんなのね?

じゃあ……担任の名前は?」


なんでそこをセレクトしたのかは分からないけど、ぱっと浮かんだクイズ。


この国の王子様は知らないはずの事を答えられたら…。


それにも特別悩むそぶりもなく、すぐに答え始めた。


「塚森松五郎…通称モリマツ。

担当教科は日本史。

歳は58だったかな」


うん…完璧すぎてもう何も言えない。


当たり前のように言っている王子様。


王子様の壱斗くんは…壱斗くんだった。


私が中学の時から片思いをしている人。


そんな、もう会えないかもしれないと思ってた人が目の前にいる。


「壱斗くん…」


「俺は…」


「壱斗は、壱斗としての記憶を封印されていたんじゃ。

そして、この国の王子様の記憶全てを植え付けられていた。

そういう術のようじゃな」


横に立っていたグリニーダが言った。


「…本物の王子様が言ったんだ。

もし敵の手に堕ちたら殺してくれと。

王子様は命を狙われてたのか?

それはさっきのシャウニン族の復活と関係が有るのか?」


壱斗くんはグリニーダやリッシュに問いかけた。


「確証はない。

だが、シャウニン族の手に堕ちたという可能性はある。」


「術の形跡からは何も感じ取れん。

生死すら分からんのは確かじゃ。」


リッシュにもグリニーダにも、本当のことは分からない。


そして、壱斗くんにも。


「でも…スタールージュの力を無効化出来るのは、壱斗くんなんだよね?」


「それは間違いない。

今さっきだってカマコウモリをやっつけたのは壱斗だろ?」


「…わしらには分からんが、

本物の王子様は知っていたのかもしれんな…

神に選ばれたのは壱斗の方だと」


確かにそうかもしれない。


命を狙われてるのだとすれば、それはシャウニン族が、

昔話通り、この国の王子様に力が現れるのを恐れてだと思う。


そして、捕らえた王子様が実は力を持っていなくて、

力を持つ、“王子様”が現れたと知ったら?


シャウニン族は間違いなく狙いに来る。


「王子様は壱斗くんが必ず救ってくれると信じてるんじゃない?

だったら、私達は、王子様を助けに行かなくちゃ。」


「シャウニン族の居場所も、王子様の生死すら分からないのに?」


「それは…」


「戦ってりゃ、いつかは辿り着けるさ。

奴らは必ずお前らを潰しに来るからな」


「行こう、壱斗くん。

今は先に進まなくちゃね」


「…妃波は、なんだか強くなったな」


「この世界を救って、元の世界に帰りたいからね。

もちろん、壱斗くんも一緒だよ」


本当は壱斗くんがここにいるって事が私に力をくれてる。


私の完全な片思いかもしれないけど、それでも好きな人が傍にいてくれるのは嬉しい。


「壱斗、妃波。ジレンとマリークの居場所がわかったぞ」


「本当!?」


「グリニーダが大体の場所を掴んでくれた。

かなり長旅になるぞ」


「でも、リッシュ大丈夫?」


「…癪だけど、あいつらの手が必要になる。

俺様も大人だ、早々簡単に…」


「絶対喧嘩を吹っかけちゃダメよ?」


リッシュの言葉を遮る様に釘を刺すフィーナ。


かなり睨んでる。


「…フィーナ怖い」


ぽそっとリッシュが呟く。


「なんか言った?」


「な、なんにも言ってねえよ!!」


リッシュは慌てて逃走した。


なんだかんだ言ってもリッシュはフィーナには勝てないよう。


「まずは城に戻って、旅の支度をしよう。

ヨリヒトとヤスオさんも気になるし」


「そうだね」


「ここから役場までなら飛ばせるわ。

2人共、目をつぶってて!」


フィーナの声と同時に、周りに光の輪ができて、私達を包み込んだ。


そして、激しい閃光を放ちながら、私達ごと消えた。


―――「もういいわよ、目を開けても。」


フィーナに言われて目を開けると、そこはスタート地点。


役場の前に、戻ってきていた。


車の前でヨリヒトさんたちはまだ爆睡中。


「3人共、無事みたいね」


「ああ、良かった。じゃあ、そろそろ起きてもらおうか」


「…どうやって起こすの?」


「…ゆすってみる?」


「今ゆすってるけど?」


「…だよな。」


「おーきーろーーーーっ!!」


「うわあっ!びっくりした…」


「ごめん…あ、でも気がついたみたい!」


「…妃波、グッジョブ」


「んん…」


「おはようございます、ヨリヒトさん。」


「ここは…」


「役場の前ですよ、ね、壱斗くん」


「ああ。早く帰って行かなければならない所ができたんだ。

ヤスオさん、起こしてくれ。」


寝起きのヨリヒトさんはぼお~っとしながら手だけは動かして、ヤスオさんを起こし始めた。


すぐに飛び起きてヤスオさんは「すいませんすいません」とぺこぺこ謝りながら、車に乗り込んだ。


ごめんなさい。


私達が眠らせたんだから、あなたは何も悪くないですよ。


しかしそんな事、言えるわけないし。


本当にごめんなさい。


―――車は順調に走り、1時間後には城へと戻り、私は早速準備を始めた。


壱斗くんはもう少し公務があるようで。


またすぐに出掛けた。


それもあり、出発は明日の朝に決まった。


今度の旅は少し長くなる。


私は春さんに付き合ってもらい、町で必要になりそうな物をそろえた。


着替えから、ちょっとした傷の手当ができるもの。


春さんは不審に思ったに違いないけど、小さな傷でグリニーダを呼んだり出来ないから。


―――公務を終えて壱斗くんが帰ってきたのは空がすっかり暗くなった頃。


夕飯を壱斗くんと2人で食べる。


龍庵さんは体調が優れないらしく、部屋で食べている。


「え!?船旅なの?」


「そうだよ、目的地まで海路の方が近い。」


「ちょっと嬉しいかも」


今まで船旅なんてした事なかったから、それをしかも壱斗くんと一緒なんて!!


「リッシュから聞いた場所までは、船で19時間だから、着くのは明日の夜だよ。

ヨリヒトに頼んで、港すぐ近くのホテルを予約したから安心して。

本格的に動くのは明後日からにして。

ゆっくり休んで、備えよう。

どこで敵が現れるかもわからないからね」


「そうだね」


「じゃあ、俺も戻って準備するから。

何かあったらいつでも呼んで」


「うん、ありがとう」


壱斗くんはやっぱり多忙な王子様のようです…。



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