ページ16 失われた記憶
―――目を開けると、ドラマのワンシーンのような映像が目の前に広がった。
学校のような所で、2人が話している。
少女の方はかなり悩んでいるよう。
元気が無い。
「ねぇ、壱斗くん…
私なんかにクラス委員、出来るかな……
きっと迷惑かけちゃうよ…」
「…なに言ってんだ!
やってみなきゃわからないだろ?」
「…うん……」
「初めてなんて失敗ばかりでいいんだよ。
俺だって去年は色々失敗ばっかだったけど、なんとか出来たし。
迷惑かければいいよ!
それは別に迷惑じゃないからさ」
「ありがとう!元気出たよ!
頑張るから、よろしくね」
…あれは、妃波?
そして…俺?
あの風景は…。
星林館高校の渡り廊下か?
……待てよ。
どうして俺はこんな事知ってるんだ?
……違う。
これは俺の記憶だ。
それに気付くとチャンネルが切り替わるように、
今度は違う映像が映し出された。
「我と同じ名を持つ者、壱斗よ。
我にはもう時間がない…
すまないが、術をかけさせて貰った。
間もなくこの記憶すらも消滅するだろう
……そなたには我として生きてもらう。
もし、我が敵の手に堕ちたならば、
そなたの手で、我の息の根を止めてくれ」
「待てよっ!どういう事だ!?」
「頼んだぞ、壱斗…」
その言葉を最後に、
俺と同じ顔をした男が消え、
目の前にはただの暗闇が広がった。
…今、全て思い出した。
俺は……。
―――「…い…とく…壱斗くんっ!
しっかりして……」
泣きじゃくる妃波の姿がそこにあった。
「…ひ、なみ……泣くなよ」
「壱斗くん…」
「…星林館高校2年5組、出席番号8番の佐内妃波」
「…え?なんで……」
妃波は驚いた顔で俺を見た。
それは俺が…この国の王子様である、櫻葉壱斗が知らないはずのことを言ったから。
妃波は一度も学校の名前やクラス、出席番号は口にしていない。
「思い出したんだ、全て。
…俺は、この国の王子様の身代わりだった」
妃波は、呆気に取られていた。
無理もない。
俺自身、何も覚えていなかった。
今さっきまで、この国の王子様だったんだから。