ページ12 海へ
「…んん…朝かぁ…」
カーテンの隙間から差し込む朝日で私は目を覚ました。
少しの期待はすぐに裏切られたけど、
思ったよりずっと眠れたみたい。
気持ちよく起きれたから。
チリリーンと私はベルを鳴らした。
これがメイド、
春さんを呼ぶ合図。
春さんは、私がここへ来てからずっと身の回りの世話をしてくれてるメイド。
昨夜王子様は、
しばらく暮らす事になるからと、
この城の事を色々教えてくれた。
城に帰って、夕食の後、
王子様は公務の事などで忙しくしてたのに、
合間に時間を作ってくれて。
そして春さんを私付きのメイドに指名してくれた。
そのおかげで王子様がいなくても、
不自由はしなかったし、
春さんとも親しくなれた。
春さんは私より5歳年上のお姉さん。
メイド歴はまだ3年だけど、
テキパキ動くしっかり者。
…そしてここだけの話。
王子様の執事をしてるヨリヒトさんとは内緒のラブラブカップルらしい。
(だから言い伝えについて知ってたんだ)
すぐにコンコンコンと部屋をノックして
「おはようございます、妃波様。
朝食の用意は整っておりますよ。
王子様たちもお待ちです。」
と言いながら春さんが来た。
「ありがとう、春さん!
着替えてすぐに行きますね」
昨夜のうちに私のわがままで、
普通の洋服を春さんに用意してもらった。
さすがにドレスは馴れなくて…。
この国は四季がないらしく、
年中春のような温暖な気候。
用意してもらった、
薄いピンクのオフショルダーのトップスに、
ショーパンはいて着替え終了。
元の世界とほとんど変わらない世界だから、
やっぱりドレスより落ち着く。
「やっぱりこっちのが動きやすいっ」
「急だったので、
こういうのしか用意出来なくて…」
「これで十分ですよ!!
あっ急がないと!」
慌てて、部屋を出て、
王子様たちの待つ広間へと向かった。
広間では王子様も龍庵さんも席についてて、
食事もしっかり配膳されてた。
「おはようございますっ。
お待たせしてすみません!」
「よく眠れた?」
「はいっ!」
王子様の問いかけに返事しながら、
案内された席についた。
クロワッサン、
コーンポタージュにシーザーサラダ。
朝パン派の私には最高の朝食。
「今日は、ちょっと北へ遠出しようか。」
「北?」
「昨日の草原は南西の方角で、
北の方には、
海があるんだよ。
そこへ用事があるからついでなんだが…」
「ほんと!?
行ってみたい!!」
「じゃあ、
食事が終わって準備が整ったら、
呼びに行かせるから、
用意して待ってて」
「うん、わかった!」
食事を終えて、
王子様は早々に広間を出ていき、
龍庵さんも気付いたら、
いなかった。
「ごちそうさまでしたっ」
やっと食べ終えて、
私も部屋へ戻った。
そして、今更ながら気付く。
あれ?
私何を用意すればいいの?
荷物なかったんだったわ…。
「ねぇ春さん、
なんかバッグある?」
「はい…クローゼットにいくつか入ってると思います…
確認しますね」
クローゼットの中をゴソゴソ探してくれて、
リュックを一つ出してくれた。
「遠出ならこういうのが最適かと思うのですが」
「うん、ありがとうっ!
バッチリだよ」
スマホも財布も化粧ポーチも、
普段持って歩く物は何もない。
出してもらったリュックは、
春さんが気を利かせて持ってきてくれた、
ハンカチやポケットティッシュ、
折り畳みミラーなどが入ったポーチを入れるのにちょうどいいサイズ。
小さめながら沢山入る。
「妃波様、こちらへ。
軽くメイクしますから」
ドレッサーの前に座ると、
春さんはヘアメイクをしてくれた。
春さんの腕はピカイチ。
メイクを終えた直後に、
王子様の執事、
ヨリヒトさんが私を迎えに来た。
リュックを背負いながら2人を見たら、
やっぱりいい雰囲気。
もう少しだけ、
ここにいようかな
…なんてソファに座ったら、
「妃波様!
出発の時間ですよ!!」
ってヨリヒトさんに怒られちゃった。
「春さん、ありがとう!
行ってきますっ」
私は部屋を出て、
ヨリヒトさんと共に王子様の元へ向かった。
外ではもうみんなが出発はまだかまだかと待っていた。
「ごめんなさい!お待たせして」
みんなに一言かけて、私は車に乗った。
「いいよ、気にしなくて。
さあ行こうか。」
ヨリヒトさんが助手席に乗り込むと、
北の海へと車は走り出した。
―――走り出した車の上では。
「ちょっとぉ、ずっとここなの?あたしたち」
「隙を見て、トランクに移るから、我慢しろよ!」
「最初から乗ればよかったじゃん!!」
「風の精霊のクセに風を感じようとか思わねぇのかよ」
「それとこれとは話が別よ!」
「あーもーうっせぇな!!
入ればいいんだろ!!」
リッシュとフィーナが喧嘩の末に、
トランクに乗り込みました。