ページ11 帰城
――気付くともう日が傾き始めていた。
あれから化け物は現れず(ホッ)
歩き続けやっと森を抜けると…そこは、最初に見た草原だった。
私達は元来た道を歩いていたみたい。
王子様がいなくなった時に探し回って、Uターンしてしまったのかも。
でも、リッシュが何も言わなかった事を考えると。
もしかしたら、最初からそうするつもりだったのかな。
「フィーナ、飛べるか?」
「いけるよっ♪」
「あ、待って!」
「どうかしたの?」
フィーナが不思議そうな顔をして言う。
「ね、壱斗くん。ここからお城までどの位?」
「そうだな…30分位、かな?」
「日暮れまでには着くよね?
私、お城まで歩きたい。
この国の事、何にも知らないから…」
本当はずっと歩きっぱなしだし、瞬間移動出来るなら頼りたい。
けど、この場所で私は生きていかなければならないから、少しでもこの国の事を知らないと。
「わかった、俺が案内するよ。」
王子様は快くOKしてくれた。
「この辺なら、俺がよく知ってる。リッシュ達は先に行…」
「じゃあ俺様は先に帰ってるからな」
王子様が言うより早く、リッシュはヒュンっと消えた。
「ちょっと待ってよぉ〜」フィーナも慌ててついて行った。
…ちょっと酷くない!?
ここまで一緒だったんだから「付き合うよ」ぐらいあってもいいんじゃないの!?
本っ当に薄情なんだから!!
と、私の心は絶賛激怒中。
しかし、このまま立ち尽くしてたら日が暮れちゃう。
「なんか…ごめんなさい」
「いいよ、とりあえず帰ろうか」
王子様は笑顔で言ってくれた。
それから私達は、お城を目指してまた歩き出した。
…ちょっとだけ王子様と2人きりでラッキー♪
なんて思ったりはしないよ!!
草原から町へと入り、やっとお城に着いた頃。
すっかり太陽は沈み、空には満天の星空が広がっていた。
「キレイ…」
「ごめんな、思ったより遅くなった」
星空を見ながら王子様が言った。
「ううん、案内を頼んだのは私だから。
それよりここの町の人はみんな温かいね。」
きっと王子様が一緒だからだと思うけど。
初めて会う私にも優しくしてくれた。
「俺は小さい頃、毎日のように城を抜け出してこの城下で遊んだりしてた。
城にはたくさんの使用人はいるけど、同じ年頃の遊び相手はいないからね。
だからここの人たちは俺の事を王子としてじゃなく、この町で育った子供の一人だと思ってくれる。
自分の子と同じように扱うから、いたずらした時なんかは、皆一緒にゲンコツもらったりね。
さっき、宿屋のおばさんに会っただろ?
あのおばさんは、この町で一番怖いおばさん。
何度叱られたか覚えてないくらい(笑)」
ちょっと意外な一面。
パーフェクトな王子様かと思ってたのに。
でもその分親近感湧いた。
「そういうの、いいね。
今の世の中じゃ絶対無いから。」
「妃波の世界は、生きにくい世界だね。」
その通りだと思う。
人と人とのつながりがどんどん無くなってゆく世界。
私の居た世界とそんなに変らないけど、ここは緑いっぱいで人も温かい。
こんな世界があるんだって初めて知ったよ。
―――お城の門をくぐった後は、大騒ぎだった。
考えてみれば、私達、突然部屋からいなくなったんだもんね。
誘拐とか、何らかの事件に巻き込まれたんじゃないかって。
みんなあちこち探し回ってくれたみたい。
ちょっとだけごめんなさい。
後は王子様がなんとか言い訳をしてくれて。
(精霊に連れられて、化け物退治してたなんて言えないから)
一応二人で城下へ行ってたってことで納得してもらえたんだけど。
王子様のお祖父さん…龍庵さんや一部の人は、
言い伝えが現実になったことを知っているので、
さほど追求はされなかった。
龍庵さんも最初に会った時に倒れたから心配だった。
でもなんとか元気を取り戻していて(病気が治ったわけじゃないけど)一安心。
王子様も安心したって顔してた。
その後は龍庵さんや王子様と一緒に夕ご飯を食べて。
バタバタバタっと時間が過ぎていき、やっと一日が終わった。
少しだけ、元の世界に戻れるかもという期待をして、ベッドに入った私。
いろんなことがありすぎて、眠れるのかな…と思いながら。