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舞台裏で踊る

作者: 宵月



遠い遠い昔の、遠い遠い国のお話です。

少年は生まれた時から誰にも愛されていませんでした。

父も母も誰も、少年を見てはくれませんでした。

それでも少年は家族を愛していましたので、自分を愛してくれないとしても、一緒にいられるだけで幸せでした。

しかしそれを良しとしなかった家族は、少年を深い深い森の奥に捨てました。

可哀想な少年はひとりぼっち。

食べ物の無い森で少年の命は尽きかけようとしていました。

そこに現れたのは、少年と同じ孤独な魔女。

魔女は薬の材料の為に森に来た所で、少年と出会いました。

丁度世話係が欲しいと思っていた魔女は少年を拾い、供にして世界各地を回りました。

それから何年も一緒に過ごすようになり、少年は青年になり、二人は永久の命を手にし、家族になりました。

世界中を旅した末に二人が辿りついたのは深い深い海の底。

真珠の野原を越え珊瑚の林を抜け海藻の森の更に奥。

そこに廃船を利用した家を作りました。

海の住人は永久の命を手にし、陸から来た魔女を怖がり「悪い魔女」と言って避けました。

それでも二人は静かに生きていました。

時折、陸や海の住人から薬の依頼を受け、それ以外は二人で旅していた時の思い出を語ったりしながら、ゆったりと過ごしていました。

それが壊れたのは、人魚の国の末姫が訪ねてきた時でした。

末姫が望んだ薬はとても代償の大きい薬。

魔女の血で作る薬。

青年は反対しましたが、魔女は依頼を受け薬を作り渡しました。

末姫はまるで自分しか代償を払っていないかのような態度でしたが、魔女は何も言いませんでした。

多くの血を失った魔女は魔法の力を殆ど失っていましたので、床に伏せる日が多くなってしまいました。

青年は常に魔女の傍に居て一生懸命に世話をしました。

魔女は誰のせいでもないと笑いましたが、青年はずっと末姫が許せませんでした。

それでも大好きな魔女が笑うのですから、いつしか青年も末姫の事を忘れていきました。

けれどそこに人魚の国の姉姫たちが来たのです。

5人の姉姫たちは綺麗な顔を醜悪に歪め、口々に魔女を貶め、末姫を救う為の物を寄こせと言ってきました。

青年は今度こそは許せませんでした。

だって魔女が払わなければいけない代償に対して、姉姫たちの払った代償のなんて小さい事!

髪の毛なんてまたすぐに伸びるのに、まるで魔女が悪いかのように口々に罵り去っていきました。

ナイフの材料は姉姫たちの髪の毛と、魔女の爪。

爪の剥がれた魔女の指先は常に血が滲んで、物に触れる度に激痛が襲いました。

それでも魔女は笑います。

だから青年は末姫が泡になって消えたのを良い気味だと思ったのです。

そして、自分の大事な家族である魔女を傷付けた人々が許せないと。

青年は魔女が眠った後にそっと偽物の姫を妻に娶った王子の所に行きました。

魔女と共に過ごすうちに、青年はいつしか世紀の魔法使いと言われるほどに強大な力を持つ魔法使いになっていました。

その力を使い、青年は王子に海に飲まれてから偽物の姫に出会うまでの記憶を渡したのです。

記憶の戻った王子は自分の愚かな間違いを嘆き、死んでしまった末姫を思い泣き、自分を騙した偽物姫を糾弾しました。

幸せな結婚式を挙げた王子と姫の国は長い戦争になりました。

青年は今度は人魚の国に行き、姉姫たちを美しい美しいと言う国民たちに、魔女を激しく罵る醜い姉姫たちの姿を見せました。

それを見た国民たちは心も姿も醜い姉姫たちを避けるようになりました。

ひっきりなしにあった求婚もパッタリと消えてなくなり、姉姫たちは一生を5人で過ごす事になり、王位に就く者の居なくなった人魚の国は他の海の他国に飲まれてしまいました。

青年は永久になった命を使いそれを全て見遂げると、満足気に笑い、そうしてまた魔女と二人で静かに過ごしました。

これは、遠い遠い国の、遠い遠い昔にあった出来事。

「可哀想な人魚姫の物語」の舞台裏のお話。




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