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第一夜 聖夜の紅い少女

プロローグ


その日の見た景色はとても寒そうな夜だった。窓の隙間から入り込む風で微かに揺れるカーテン。その風が私の身体の体温を奪っていく。

窓から見える空は雪でも降らせそうな厚い雲と同化した闇。その間から覗く双子月がとても綺麗だったのを覚えている。

あの双子月はまるで空に穿うがいた穴のように見えた。あの穴の向こうにはどんな世界があるのだろう、と私は月を見るたびに思う。


向こう側なんてありはしない。それは私の幻想、空想にすぎない。


もし私に自由があるのならこんな牢獄のような屋敷から飛び出したいのに……でもそれは叶わない願い……叶わない願いなのに願ってしまう……願いは所詮幻想(ユメ)でしかないのに……


今日はクリスマスだと言うのに私はそんな色気のない事を考えていた。


私の世界はベッド横にあるこの窓から見える世界だけ。ここ二、三年年間、一度も外に出た事はない。それは私の身体が病魔に蝕まれているから。

私に巣食う病魔はどんな医者にも治せないらしい。あとはこの命が尽きるのを待つしかないのかもしれない。

こんな私にサンタさんがプレゼントを持ってきてくれるわけがない。本で読んだことがあるだけの、子供にプレゼントを持ってきてくれる赤い服の人物。空飛ぶソリと空とぶトナカイに乗った顔がヒゲで見えないほどのおじいちゃん。私が読んだ本にはそう書いていあった。

だけど一度も見たことがない……ううん、二年前……たった一度だけ本に書いてある通りのサンタさんが私の元に来たことがあった。

 でも、私の欲しいプレゼントはくれなかった。それは私がプレゼントを望まなかったから。だって私の欲しいプレゼントは物ではないのだから。


 私の欲しいものは……


 窓を開けバルコニーに出る。風が身体に染みる……羽織っていたガーディガンを飛ばないうに握り締める。

 私は月を見る。幻想(ユメ)をみるために。『私のココロは幻想(ユメ)で汚れている……』双子月を見ながら心中でそう思った。

けれど私は幻想ユメをみる事ができなかった……月を見上げた瞬間。黒い影が私の目の前に落ちてきたのだから。。

 その影は私の目の前に降り立ち『こんばんは。お嬢さん。今宵は月が綺麗ですね』と声をかけてきた。落ちてきた影は私よりも少し年上の女の人。『黒い』服を着ているが所々破れていて肌が露見している。傷を負っているらしく血らしい液体が流れていた。

 サンタさんなのだかろうか? 二年前みたサンタさんとはまったく違っていた。服こそ着ているが帽子がなく黒い綺麗な髪が風になびいていて……かわいい顔なのだがどこか凛々しいその顔つき。その夜の闇と同化しそうな黒瞳はまっすぐに私を捉えていた。

 そしてなにより二年前のサンタさんと違っていたのが、右手には不思議な剣が握られていた。剣のことは良く知らないけど斬る部分がゆらゆらと揺らめいていた。

傷だらけのサンタさんはとても痛々しくそして恐ろしく、付着物だらけの顔はとても優しく微笑みそして安らぎに満ちていた。


空っぽの私。

もうすぐ空っぽになる私。

それでも私は生きている。空っぽになる私、いずれ空っぽになる私はそれでも生きているのだろうか?

叶わない幻想(ゆめ)を内包しながら……


 純白の雪が降る白銀の夜。

 それは真紅の服を纏った少女が奏でる幻想(ゆめ)の一夜。



◇/クリスマスの夜


「さてと、最後の家はそろそろかな?」

 先ほどまで降っていた雪は止み蒼と紅の二つの満月がその丸い姿をすべて(あらわしている。月の光は屋根に積もった雪を照らし優しい光を反射していた。

しかし月の光は雪だけを照らしている訳ではなかった。

「ねぇ、トナカイさん。この住所って高級住宅じゃないのかな?」

 真っ赤な服を身に纏い夜の空を翔けるソリに乗っている十五才くらいの長い黒髪ストレートヘアの少女は住所をメモってある紙を目に通しながらソリを引く目の前のトナカイに尋ねる。

「そう言われても、いま俺ソリ引いてるからな見えないぞ」

 そう答えられると少女は「あ、そっか」と言いメモに書いてある住所を読み上げた。


「ああ、その住所は確かに高級住宅の住所だな」

 その住所を聞いた目つきの悪いトナカイはそのままソリを引きながら答える。

「なんか、こういう住宅だと別に私たちサンタクロースがプレゼント渡さなくてもこの子の両親がもっといいプレゼントをあげてそうだね」

「なんだ? 職務放棄宣言かセツナ?」

「ううん、私もサンタのはしくれ。プレゼントを待っている子供がいれば世界中どこへでも行くわ」

 真っ赤な服と真っ赤な帽子を纏う少女はその名の通りサンタクロースだった。そして今日は聖夜前夜のクリスマスイブ。サンタクロースが一年で一番忙しい日である。

「そうだ。それがサンタクロースの本分だからな」

「うん、そうだね。夢を与えるっていいことだよね。……到着するまで大変だったけど……」

「はは、そう言うな、どんな所でも行くのがサンタクロースだろ?」


 聖夜を翔ける少女はサンタクロース。名はセツナ。彼女は先月正式にサンタクロースになったばかりの新人サンタクロース。

 月光に照らさせるその少女は空飛ぶソリに乗り世界中の子供にプレゼントと夢を与え回っているが……しかし彼女は新人なので三件しか振り分けられなかった。

 そんな彼女が最後に行く家がセツナの師匠との因縁がある家だとはセツナ自身、夢にも思わなかったのである。後日、セツナは『来年も行くとなると気が滅入る』とつぶやくほどであった。


「トナカイさん。これで最後だから終わったら一緒に本部でケーキ食べません?」

 ソリの後部座席に置いてある大きな白い袋の中から飲みかけのウーロン茶が入ったビン(プレゼントではなく私物)を取り出し一口飲みながらトナカイに話す。

「おっいいね。で、そのケーキはもちろんイチゴ満載のケーキだろうな?」

「えっ? あっいや、フルーツケーキですけど……」

「オイオイ、ケーキって言ったらイチゴ満載のイチゴケーキだろうがぁ!」

 変なこだわりがあるのかトナカイはセツナに怒りセツナは『すいません』となぜか謝罪したのだった。しかし、煮え切らないセツナはトナカイに尋ねてみた

「どうして、そんなにイチゴケーキがいいんですか?」

 その質問にトナカイは一言だけ『思い出があるからだ』と答えた

「思い出ですか…… もしかして人間のときの……」

「おしゃべりは終わりだ。着いたぞセツナ」

 トナカイが空中で止まりセツナがソリから顔を出し確認する。そこには広大な敷地にぽつんと建つ一つの豪邸があった。

「うへぇ〜〜広〜〜〜〜い なにここ森? 森の中に家があるの?」

 眼下に広がる森のように木々が植えられた敷地を見てセツナはただ、ただ、驚くばかりだった。





「どうですか? 用意はいいですか? エリス姉さん、クロノ」

 大きな屋敷の大きな部屋で何かの支度をしている三姉妹がいる。その一人のメイド服を着たロングヘアの十六才くらい少女は後の二人に尋ねる

「おっけ〜〜で〜〜す」

 銃に弾丸を込めながらショートカットにウェーブのかかった見た目は子供っぽく幼児体型で顔も幼顔のメイド服を着た少女は答える

「こっちもオッケイだせ。ミリア姉ちゃん」

 拳に装着した籠手こてから間接をならしショートカットの十五才くらいの少女が答えた


 それぞれの返事を聞くとロングヘアの次女であるミリアは一つ頷き『これよりサンタロースを迎え撃ちます』と宣言し二人も大きく頷いた。

「ミリア姉ちゃんで、作戦は?」

「それはエリス姉さんに任せてあります。エリス姉さん作戦は?」

「あ。考えるの忘れちゃったよ〜〜あはは〜〜〜〜」

 長女にはとても見えない体型のエリスが笑顔で言う強烈な一言で凍りつく空気。時間が止まるような威力の一言。ミリアとクロノの顔が真っ白い灰のようになる。当の長女エリスは何事もなかったように『作戦に頼っちゃダメだよ〜二人とも』と二人に言う。

「エリス姉ちゃん! 作戦がなくてあの百戦錬磨のサンタクロースに勝てるの!?」

 怒号を含んだ声でエリスに叫ぶ。

「大丈夫、大丈夫。こっちは三人で向こうは一人だし〜」

 その怒りもひょうひょうとした笑顔で切り抜けエリスはクロノを言いくるめた。

「じゃあ二年前そのサンタクロースに勝てなかったのはどうして?」

 最後のミリアのツッコミにエリスはこう答えた。


「そんなの決まってるじゃん。作戦を立てたってあのサンタさんはことごとく私の作戦の裏を行くんだもん。せっかく立てた作戦を立て直すのだけで戦闘が終わっちゃったし。今回だってうまくいくとは限らないし。なら最初から作戦なんてないほうがいい。っていうか『作戦なし』が作戦みたいなもんだよ」

「で、でも!」

 クロノが納得できないといった感じでエリスに投げかけるが『わかりました』とミリアが言葉を発した。

「ミリア姉ちゃん?」

「いまから考えても間に合いません。それに崩される作戦なら始めからないほうがいいですわ。今回は作戦なしで三人の持ち味を生かして自由に戦いましょう」

「うん、それがいいね。ミリアちゃんは接近戦でクロノちゃんが肉弾戦、わたしが遠距離戦。それぞれがしっかりと役割を理解して戦えば勝機も見えてくるよ」

 しぶしぶ納得したように『わかった』と答えるクロノ。それを確認したミリアはエリス方を向き『ミリア姉さんお願いします』と言いミリアは一つ頷き、テーブルに置いてあった鈍く光る石を手に取った。





「よし、じゃあ、最後の家に言ってくるね」

 セツナは白い大きな袋の中から手のひらくらいの小さな白いを取り出しベルトに縛り付ける。

「ちょっと待てセツナ、剣を持っていけ」

「え〜っ 別にこの家で戦闘は起こりそうもないですよ?」

 呼び止めたトナカイにそういうとトナカイは『いいから持っていけ』と半ば強制的に剣の携帯をうながす。

「本当に持っていかないとダメですか?」

「ダメだ。お前が戦闘がないと思っても向こうはやる気マンマンの可能性があるだろ? その時武器がなければ戦えない。それにこの家はクラインが一番最後に行けって言ってた家だろ? あの男が言った家だ。なんかあるだろう」

「う〜ん……そういえば師匠がそんなこと言ってたな〜」

 セツナは腕を組みう〜ん、う〜んと唸り徐々に思い出していった。

「いいから持って行けって。新人とはいえお前はサンタクロースなんだ。どんな戦場だろうが局地的状況だろうがそこにプレゼントを待っている子供がいれば必ず行く。それがサンタってもんだ」

 トナカイにサンタクロースとしての使命を悟られセツナ力強く『わかりました』と頷くと進行方向から見て左のソリの左外壁を握り『外壁』引き上げる。

 上部が引きあがりスライドし音を立て剣の柄が突き出てくる。正確には剣ではなく刀と呼ばれる倭国製の片刃の剣で刀身の部分の幅が普通の刀より広くつばがない。柄と刀身が一直線になっている大きな直刀だった。

 刀を掴み引き出しベルトに装着してあるソードホルダーに刀を納める。そして、眼下に広がる敷地とその敷地にある家を一通り見通す。

 見渡し終わると刀を取り出した反対側の外壁を先ほどと同じように取っ手を持ち引き上げる。さっきと同じガシャンと音を立ててそこから現れたのは刀ではなく長方形の板で先端と終端が丸くなってるただ、それだけのボードだったがセツナはそれを取り出し右足の甲にベルトをハメ『行ってきます』と言い空飛ぶソリから飛び降りた。

「気をつけろよ」

 そんなトナカイの気遣いの言葉も届かずセツナは蒼と紅の二つの満月が綺麗な夜の空をまるで雪の上を滑走するように滑るように降りていった。

 近づいていく豪邸に徐々にスピードを落とし屋敷の大きな扉の前で着地した。


 ザワッ……


 風が変わる。そんな違和感を感じたセツナは体全体で後ろ、左右、空を大きく見渡しそして、『これって……』と呟いた。

「トナカイさん!」

 次の瞬間、首元に下げている十字架のペンダントに叫ぶ。

「わかってる! こっちも確認した」

 トナカイは耳に着けているイヤリングに言う。このペンダントとイヤリングは小型通信機も兼ねていてお互い遠くにいても話す事ができる。

「オレの真上が霧にかかったように先が見えない……ってことは《ずらされた》?……隔離結界だな……」

「違います……隔離結界みたいな生易しいものじゃありません……この嫌な感じ……不快感……嫌悪感……体にまとわりつく嫌な空気……不愉快になる……この感じ……」

 体に風を受けて率直のいまの感じを口にだす。その言葉全てがこの空間への否定の言葉だった。

「セツナ……?」

 顔は見えないが息詰まる。張り詰めた声がペンダントを通じて伝わってくる。それはセツナの緊張と不安だった。

「これは虚無の結界です……この結界に侵入した者の存在や因果といったそのものを一時的に切り離される……ここから生きて帰れればそれらは元通りだけど……死んだら存在と因果は完全に消され灰になる……最悪な結界……でも、大丈夫です。トナカイさんには指一本触れさせませんから。そこでじっとしててください」

 言葉の最後は微笑み明るくトナカイに言う。





「オッケイ。結界張り終わったよ」

 光る石に魔力を篭め終えエリスは言う。

「ご苦労様です。エリス姉さん」

「じゃあ、そろそろ行こうぜ」

 クロノの言葉をきっかけに三人はドアを開け部屋から出る。そして、階段を降り玄関のロビーでその足を止めた。



「じゃあ、ちゃっちゃっとこの結界を張った人を倒して結界を解除して来ますね」

「気をつけろよ」

「わかってますよ。その為に沙羅双樹を持たせたんでしょ」

 セツナは倭国製の大きな直刀、銘は《沙羅双樹(さらそうじゅ)》。柄を強いく握り片方の手で屋敷の扉に手をかけそのまま扉を押す。


 錆びた金鳴り音が響き扉が開く。セツナは少し開いた扉から顔を覗かし邸内を目を動かし確認する。屋敷内は壁にランプ取りつけあるが全てのランプに火が点いておらず邸内は薄暗く目が慣れないと辺りがはっきりみえないくらいの明るさだった。

 中を確認したセツナはゆっくりと邸内に入る。もちろん辺りへの目配りも忘れていない。あらゆる状況に対応できるように入る前に握った沙羅双樹の柄をいっときも離してはいなかった。


「待っていましたわ。サンタクロース」

 この声をきっかけに点灯していないランプに一斉に火が入る。それまで薄暗かった邸内が明るくなり間取りがはっきりわかる。

 三人いるメイドの一人が声の主。邸内の真ん中にある階段の前に立ちセツナを睨みつけていた。

「あれ〜 今年はミリアちゃんと同じくらいの年の女の子が来てる〜」

「なあ、去年まで来ていたおじいちゃんはどうしたんだ?」

 銃を持ったウェーブヘアと手に籠手を装着したショートカットのメイドがセツナに尋ねる。

「……」

「警戒してるようですね。ですが、去年のサンタクロースは私たちの質問にはちゃんと答えていましたわよ」

 セツナは無言でメイド三人を鋭い目つきで見る。その視線をセツナと同じ倭国製の刀を携えたロングヘアのメイドは目をそらさずに受け止めている。

「…………師匠が?」

 その一言を言うと刀を持ったメイドはまゆをひそめる。

「師匠なんですね。あの人は」

「まあね。でも、これ以上はあなたには関係ないでしょう。それより早くこのふざけた結界を解いてくれませんか? このお家のお子さんにプレゼントを渡したいんですけど」

「それはできない頼みですわ。もし、この結界から出たければお嬢様にプレゼントを渡すことを諦めなさい」

 その言葉でセツナの顔が剣幕という怒りで染まる。

「それはできません! プレゼントを渡す事が私たちサンタクロースの使命です! それを渡すな、というのはどういうことですか!?」

 刀をもったメイドミリアにセツナは咆哮する。

「……あなたは、その使命を全うしたいのですか?」

「もちろんです!」

「ならば! 私たちを倒していきなさい!」

「!」

 ミリアは鞘から刀を抜きセツナへと疾走する。


 響く金属音、それは刀を刀が鍔競り合う音。セツナは沙羅双樹を抜きミリアの斬撃を防ぐ。

「ミリアちゃん!」

 後ろからエリスの声。そして両の手に持つ二挺拳銃から数発の銃声が響きミリアがジャンプする。その直後、放たれた鉛の弾丸がセツナを襲う。

「くっ!」


 沙羅双樹を水が流れるような太刀筋で上下左右になびかせ銃弾を沙羅双樹の刀身ですべて叩き落とす。しかし、メイドたちの攻撃はそれでは終わらなかった。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 ジャンプしていたミリアが刀を振り下ろしながら下降しセツナを急襲する。それに気づいたセツナは上空からの強襲をバックステップで紙一重でかわす。

「ちっ!」

「まだまだ!」

 バックステップでミリアと距離を取ったセツナにクロノが駆け追撃をかける。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 風を切り裂くようなするどい拳がセツナを襲う。

「やばっ!」

 セツナはとっさに沙羅双樹の刀腹とうふくを盾にしクロノの拳撃を防ぐ。しかし、防がれた瞬間、クロノはすばやく反応し体勢を低くする。

「ボディが甘いぜ!」

「しまっ……!」

 沙羅双樹の間を縫いセツナの腹部に強烈な蹴りがまともに入る。セツナは後転、横転を繰り返しながら吹っ飛び、屋敷の柱に背中からぶつかり止る。

「いっつ〜〜〜」

 沙羅双樹を杖代わりにしセツナはゆっくりと立ち上がり食らったダメージを体を動かし確認する。だが、その刹那、閃く太刀筋がセツナを襲う。

 


 再びまみえる刀と刀。鍔迫り合いの中ミリアは顔と刀をぐいっとセツナに近づける。

「諦めて家に帰りなさい」

「なんで、プレゼントをあげちゃいけないの? 子供が喜ぶ顔が見たくないの? しかもあなたメイドでしょ? この家の主に仕えているんでしょ? ならこの家の子供が喜ぶんだからいいんじゃない?」

「違います。私たちはこの家の主に仕えているのではありません。私たちが仕えているのはお嬢さまだけです!」

「なら……なら、そのお嬢さまにプレゼントをあげればお嬢さまが喜ぶでしょ!」

「聖夜にプレゼントをあげるのがサンタクロースだけだと思うな! お嬢さまの……プレゼントを渡していいのは私たちだけだ!」

 気合の咆哮と共に鍔迫り合いのまま刀をセツナごと振り切る、セツナは柱に叩きつけられその強烈な衝撃に柱にヒビがはいった。それほどまでに凄まじい威力の一撃だった。

「く……わかんないよ……なんでプレゼントをあげちゃいけないの?……なら、どうして自分たちでプレゼントしないの?」

 先ほどと同じように沙羅双樹を支えにし立ち上がる。しかし、息が上がり肩が上下して乱れた呼吸をしていた。

「答える必要はありません……」

「ずいぶん悲しい顔するんですね……」

「えっ……」


 聞こえる銃声。聞き取ったミリアは横へ飛びのきその場を離れ残されたセツナは沙羅双樹を構える。

 弾跡を見切り水流のごとくの流れる軌跡で銃弾をすべて叩き落す。

「これ、返します!」

 叩き落とした両脇の二つの弾を沙羅双樹で下から上に降り、さらに振り上げた沙羅双樹を上から下へと振り同時に打ち弾を打ち出しエリスに返す。

「ひやゃゃゃゃ〜〜〜」

 弾が返ってくるなど夢にも思わなかったエリスは何も出来ずにただ立ち尽くし目をつぶってしまった。

 しかし、一瞬でエリスの目の前に影が落ちる。エリスの身体が闇に染まる。そして閃光の一閃。エリスの目の前に現れた影が放った横ひと振りでセツナが返した弾を真っ二つにした。

「ミ、ミリアちゃん……」

 落ちた影はミリアだった。刀の切っ先をセツナに向け口を開く。

「さすがは百戦錬磨であり一騎当千のサンタクロースですね。ですが、本気で戦っているの? 今の攻撃……でいいのかしら? あなたエリス姉さんに当てる気はあったのかしら?」

「訊かせて。どうしてプレゼントをあげてはいけないの?」

「先ほども言ったはずですが?」

「訊かせて」

「……私たちがお嬢さまにプレゼントをあげるのが道理です。赤の他人にプレゼントされる覚えも義理もありません」

「確かに義理もないけど、わたしはこれでもサンタクロースです。このままなにもあげずにおめおめと帰るわけには行きません!」


「ミリアちゃん! ごめん!」


 話の腰を折るように後ろにいたエリスがミリアの肩を踏み台にして飛び上がる。

「この距離なら、はずさない!」

 セツナの真上まできたエリスは体を垂直に銃口をセツナに向ける。セツナは沙羅双樹を構えるよりも早く銃口から弾丸が飛び出る。

 真上から放たれた弾丸は真っ直ぐにセツナに落ちてくる。沙羅双樹を構えるのを中断しセツナは体を大きく右にずらす。セツナにいた位置に弾丸が突き刺さると同時にエリスが着地する。

 間髪入れずに振り返りセツナに銃口を向け乱射する。セツナは沙羅双樹を風のように軽やかに舞わせ小さい金属音を奏で弾を落とす。それはまるで舞を舞うように美しくまったく無駄のない動きだった。この時エリスは思う『この人に銃は通じないと』

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 傍観を決めていたクロノは翔けセツナに向かう。今もなお銃弾を沙羅双樹の舞いで落としているセツナは横目でそれを確認する。同時にエリスの視界にもクロノが入り銃射を中断した。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 クロノの腰と気合の入った拳が襲い掛かる。銃撃が中断されたと気づいたセツナは冷静にクロノの攻撃を体を半回転させ半身になりかわし勢い余ったクロノをすれ違いさま背中から肘打ちをし突き飛ばす。

「ちっ!」

 クロノが舌打ちをする。エリスは中断していた攻撃を再開し銃を乱射する。しかし、セツナは沙羅双樹を舞わせ銃弾をことごとくはたき落とす。その見事な太刀舞いは優雅で見るものの心を奪うかのような舞いだった。



「弾切れ……あのサンタには……『実弾』じゃダメなの」

 銃の引き金を引いてもカチカチと音が漏れるばかり。弾がでないとわかると、うつむき銃をダランと下ろす。

「クロノ! サンタに挟撃(きょうげき)をかけます! いけますね!」

「おうよ!」

 エリスをカバーするかのように二人がセツナに向かう。そしてミリアが最初に辿り着き上段から刀を振る。


 


 刀と刀がぶつかり金属音が鳴り響き残響が残る。何度も何度もお互いに刀をまじわせる。その度に金属音が鳴り響きく。お互いかわすことなく刀をぶつけている。いや、かわすことができない。それだけするどくかわすスキのない攻撃だったのだ。

「後ろがガラ空きだせ!」

セツナの真後ろからクロノが急襲をかける。セツナは一瞬だけ後ろを向き、またすぐミリアの方へと視線を戻す。

 そして、ミリアの刀をなんとか、かち上げ一瞬だけミリアの攻撃から解放される。その瞬間を見逃さなかったセツナは、沙羅双樹の刀背の手で引き上げる。ガシャンという小さな音と共に刀背の部分が引き上げられる。



 二つの金属音と鈍い音が同時に鳴る。ミリアの剣撃を右の『沙羅双樹』で、クロノの蹴りを左の『沙羅双樹』の刀腹で受ける。

「なっ……」

 クロノが驚愕している。今、セツナに両手には二刀の沙羅双樹があった。

「そんな、刀の中から刀が……」

 セツナは二人が一驚しているスキを逃さす半回転し二人同時に攻撃を仕掛ける。いち早く気づいたミリアはセツナの剣撃を刀で受け流す。それと同時にクロノも反応し腕にはめた籠手でセツナの剣撃を受け止めていた。

 セツナの刀を下に受け流したミリアはそのまま刀を振り上げセツナを襲うがセツナはもう回転しクロノの元にあった沙羅双樹で受け止め受け流されたもう一刀を下からクロノへと斬り込む。クロノは剣撃を腕をクロスさせ防ぐ。

「くそっ! 当らねぇ!」

 クロノはいらだちを声に出しながら蹴りや拳を繰り出すしかし、その全てがセツナの沙羅双樹によって防がれ、弾かれる。

 同じくミリアもクロノと同じように絶え間なく剣撃を繰り出しているがセツナの沙羅双樹によって全て弾かれる。

(この攻撃をすべて(しの)いでいる……)

 ミリアの心中を知らずにセツナは二刀の沙羅双樹を巧みに振り二人のメイドの攻撃をすべて弾き、防ぐ。変わる変わる変化する攻撃を、上下左右に時にはジャンプでかわし、時には空中でも沙羅双樹を振りかわしていく。

(攻撃にスキがない……こっちが反撃できない……)

 一見、全ての攻撃を防いでいるようで有利のようだがセツナの心は焦っていた。それは、二人の攻撃を防ぐだけで精一杯だった。

 このまま、防ぎつつければ体力が消耗しいずれは力尽きてしまう。しかし、それは攻撃をかけている二人のメイドも同じ事なのだがそれを待つほどこっちの体力が持たない。

「クロノ! このままじゃらちがありません、いったん退きます!」

 ミリアはバックステップでセツナから距離を取る。同時にクロノも同じく退く。

(退いた……?!)

 二人が退いたと同時に乱響する銃声が響く。

 しかし、鳴り響くは小さな金属音。二刀の風のような軽やかな太刀舞いですべての弾が音を奏で地面へ落ちる。セツナの舞うような姿は二刀の沙羅双樹でさらに美しさが増していた。

(やっぱり、ダメ…… だったら!)

 エリスは引き金を引くのを止め、セツナに向かい口を開く。

「サンタさんには実弾が通じないんですね」

 エリスはとてもさわやかで眩しい笑顔をセツナに贈る。

「とてもいい笑顔ですね」

「でしょ? 笑顔には自信あるんだ」

 セツナの一言にエリスはそのかわいい笑顔を崩さすに話を続ける。

「銃弾が通じないサンタさんには攻撃方法を変えないといけません」

「そうですか。では、変えてもらって結構ですよ」

「でも、その前に少しお話をしましょうよ」

「エリス姉ちゃん! 話なんてしてる場合はなんて」

「クロノちゃん、少し黙っててくれる」

 横槍で言葉を割り込ませたクロノに笑顔で返す。その笑顔はそれ以上の発言を許さない威嚇であり威圧。その笑顔に気圧されたクロノはそれ以上なにも喋らなかった。

 ミリアも姉のエリスの行動を見守る。

「エリス姉ちゃん……怒ってるのかな?」

 ミリアに近づき耳打ちをしてひそひそ話を始める。

「ええ、顔は笑顔ですけど腹のうちは煮え繰り返ってるでしょう」

「うひゃ〜〜〜〜あんな怒った姉ちゃん久しぶりに見た」

「そうですね。わたしもあの時以来久しぶりに見ます」

 そんなひそひそ話をしている二人を尻目にエリスは話を戻した。もちろん笑顔を崩さずに。

「ごめんね。サンタさん話の腰折っちゃって」

「いいえ、別に気にしてません」

「じゃあ、話の続き。サンタさん。お嬢さまへのプレゼントをあきらめてくれない?」

「逆に訊きますけど、どうして諦めて欲しいの? そこのメイドさんが言ったようにお嬢さまのため?」

 真顔で速攻で即答で答えるセツナ。そして、一瞬だけミリアを目に留め、同時に疑惑に持っている想いを銃を持ったメイドにぶつける。

「そうです。お嬢さまのプレゼントはわたし達があげるのでサンタさんはプレゼントを置いてさっさと帰ってください」

「……あなたはわたし達サンタクロースがどんな思いで子供たちにプレゼントを渡してるかわかる?」

「わたしはサンタさんじゃないからわかりませんよ? でもいいじゃないですか。一回くらいあげなくたって」

「一回くらい……あなたはその一回にわたしたちがどれくらいの思いが詰まってると思ってるんですか! あなたには一度かも知らないですけど、わたし達は一年で一度だけの大きな仕事なんです! それを……それを……たかがメイドなのに……許せない……絶対にあなたたち三人を沈めてここの娘さんにプレゼントを渡します!」

 エリスの言葉で怒り昂ぶったセツナは沙羅双樹の柄を力強く握る。その怒りは自分のサンタクロースの仕事を否定された事と一年で一回の仕事をたった一回と(くく)られたこと。その言葉に煮え返るほどの怒りを覚えていた。

「たかが……たかがメイドですって……今の言葉取り消してください! あなたはわたし達メイドの事をわかっていません! わたし達はお嬢さまのためなら命を賭けられる! だから……今の言葉は許さない……絶対に許さない!」

 たかがメイド発言に激怒したエリス。二挺銃を構え口を開く。その顔には先ほどの笑顔がなくまゆ毛は吊りあがり目は鋭くなっており、口元は軽く歯軋りしていた。

「今の発言を取り消してください」

「いいよ、でも、わたしが負けたらね」

「今の言葉……忘れないでくださいね。サンタさん!」

 その言葉をきっかけにエリスは構えていた二挺銃から銃声を轟かせ乱射させる。しかし、何度もなる銃声と同時に小さな金属音と共に銃弾は地へと落ちる

セツナの水のような流れる太刀筋で、弾道を見切り舞うように風ように沙羅双樹を舞わせすべての銃弾を地へと流す。

「なんで! なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで、何で当らないの!」

 息継ぎもせずに一言で言い切り銃弾が当らない、いらだちをあらわにする。

「どうしたんですか? 攻撃方法を変えるんじゃないんですか?」

 沙羅双樹で銃弾を落としながら余裕の顔でエリスに尋ねた。エリスは『わかってるよ』と答え引き金を引くのをとね銃を下ろす。

「わかった。やっぱりサンタさんには銃は通じないんですね。全部その剣で防がれちゃうから」

「じゃあ、どうします? 戦線離脱しますか?」

 セツナは舞いを止め沙羅双樹を下ろしこのスキに横目で自分の後ろにいる二人のメイドの状況を確認する。

(向こうは攻撃する気ゼロか……それとも、こっちのスキを狙ってる? ううんそれはないか。なら今この時を狙うはずだし……よっぽどこのメイドさんを信頼してるのかな?)

 視線を目の前のメイドに戻し意識を集中させる。

「余裕ね。ミリアちゃんとクロノちゃんを見るなんて」

「そんなことありませんよ」

「ふ〜ん、どうですかね。まぁ、いいや。じゃあ戦闘再開と行きますか」

 そう宣言するといなやエリスは目をつむり二挺の銃を交差する形で胸元まで持ってくる。セツナは訝しげな顔でその行動を見る。そして、膝を少し曲げ左手に持つ沙羅双樹を正眼に構えこの後に対応できるように意識を集中させる。

「いくよセラフィム、アリエル! フォームチェンジ エーテルフォーム!」


《了解です。マスター》


 セツナの耳に響く誰とでもない声、しかしその女性のような落ち着いた声は確実に、確かにエリスの持つ二挺の銃から。正確には銃にはめ込まれている光る円盤状の宝石から聞こえていた。

「銃が……喋った……」


《エーテルフォームセットアップオペレーション起動!》


 再び聞こえる声、しかし今度の声は先ほどの声とは違う女性の、荒々しい声だった。

「オッケイ! アリエル、カートリッジリロード!」

 エリスはセラフィムとアリエルに、腕にはめていたレース付きのリストバンドに仕込んでおいたカートリッジと呼ばれるヴァルファルガー鉱物で出来た軽く薄い四角い黒い板を取り出し、器用に二挺の銃に取り付ける。

 直後、銃が光りだしその後、光がはじけ二挺の銃が小さな無数の水の玉のようになり手首の周りをふわふわと漂いだす。それを見ていたセツナはその光景に、そのメイドの神秘的な姿に見とれてしまう。

 エリスはすっ、と右手の銃を握り銃口をセツナに向ける。しかしその手には銃は握られていない。何もない中空で銃を握る格好をとっていた。

 それに気づき我に返ったセツナは『まさか……これって……やばい!』と、直感的に思う。が、体がそう思う前にすでにエリスに向かい駆け出していた。


これはマズい! これはマズい! これはマズい! これはマズい! これはマズい! これはマズい! これはマズい! これはマズい!


紅い服をなびかせ何度も何度もその言葉が頭を巡る。言葉が巡る中、エリスは『リアルモードオープン!』と叫び銃の引き金を引く。もちろんそれは引くしぐさである。が、しかし、それはエリスが叫ぶ前のこと。エリスが引き金を引くと同時に手首の回り漂っていた無数の水の玉が一斉に集まり形とっていく。

 分子レベルで再構築された銃口から銃弾ではなく代わりに光の弾が射出され疾走するセツナを真っ直ぐに捕らえ、輝きながら、そして天使のような白い羽根を弾道に舞い残しながらセツナへを襲う。セツナは銃弾の軌道見切り沙羅双樹で防御する。

「ムダ……」

 エリスは口の端を吊り上げ小さく、とても小さく自分だけしか聞こえないような小さい声で呟く。

「えっ……」

 光の弾は沙羅双樹をすり抜けセツナの右肩を貫通した。その瞬間セツナの体勢は崩れ落ちる。

「うわああああああああああああああ!」

 苦痛に歪む顔から悲鳴がこぼれる。右肩を左手で押さえ傷口を見た。だが、不思議な事にそこはまったくの無傷。傷も見当たらなければ血も出ていない。

ただ、ただ、痛みだけがあった。

「これで、もうその剣で防げないね」

 満身の笑みを見せ、銃を構える。手に持つ銃はリボルバー方式からリボルバーなしのタイプに変化しており銃身の周りには銃身を中心にし光の輪がゆったりと回りその後部には光の翼が片翼のみ現れていた。二挺、セラフィムとアリエルにそれぞれ片翼ずつ、銃をうごかすたびにその光の翼から白く光る羽根がこぼれおちる。

「クロノ! 急いで姉さんの元へと向かいます!」

「ああ、巻き添えはごめんだからね!」

 傍観を決めていたミリアとクロノはその場から最速のスピードでエリスの元へと向かった。


 そして、うずくまるセツナを見、エリスはさらに不適な笑みを浮かべていた。


「痛みだけ……傷もなければ血も出てない……槍が貫いたような痛み……これって『感覚』への直接攻撃……しかも痛覚か……」

 膝をたて肩を押さえながら立ち上がる。たった一発喰らっただけなのに額から汗がながれ肩が上下し息をしている。

「どんどん行くよ!」

 銃口から発射される光の弾。白い羽根を舞い散らせながら何発も何発もセツナへと光が襲う。

 横へステップし光の弾をかわしさらに何発も乱射される光の弾を縦横無尽に体と脚を動かしかわしていく。

「すごい身体能力だな……」

「さすがね。数々の戦場をくぐり抜け世界中の子供たちにプレゼントしているだけあって戦い慣れしています」

 セツナの動きに素直に心から感心し見惚れているミリアとクロノ。

「サンタさん! じっとしててよ!」

「ヤダ! 痛いからムリ!」

 いらだちを隠せないエリスにセツナは明確にきっちりと却下した。業を煮やしたエリスは攻撃を中断し、右手に持つアリエルを左から右へと流す。

 左から右へと動かしたアリエルは光の翼から羽根をこぼしその道筋に六枚の白い光のパネルが現れ残る。

「行くよ。もう、かわせないんだから」

 その言葉をスイッチに六枚のパネルがそれぞれ動き出し、セツナの上空の左右に三枚ずつ配置されていく。

「な、なに? これ……」

 見上げ左右を確認するセツナ。そこには六枚のパネルがゆらゆらと浮いる。

「勝負あったかな?」

「そうですね。この攻撃をかわせる人はそうそういないでしょう」

「違うよミリアちゃん、この攻撃をかわせる人なんていない!」

 力強いくミリアの発言を否定し、セラフィムとアリエルの引き金を引く。二挺の銃から小さな発射音が漏れ銃口から小さな光の弾が発射される。

白い羽根の弾道を残し真っ直ぐに直進する。その光の弾の弾道を眺めセツナは一歩も動かなかった。

「どこ狙ってるんですか?」

 その二発の光の弾はセツナの横を通り過ぎてんで方向違いに飛んでいく。

「もうすぐわかるよ」

 一言を口にしエリスは銃を降ろす。


「!?」

 腹部に激痛がはしる。それは腹部を貫いた光の弾。セツナの背後から襲った凶弾だった。腹部から光の羽根がはらりと落ちすっと消え、自分の腹部を貫いた光の弾を信じられないと言った表情と呆然が混じった顔で目で追っていた。

 がくっと、崩れ落ちるセツナはうつむけに倒れるがそれでも顔だけはエリスに向ける。

「終わりだよ。サンタさん。これが最後にお願い。お嬢さまにプレゼントをあげるの諦めてくれない?」

「同じ事を言わせないでください……わたしの気持ちは変わらない。絶対にプレゼントは渡します……」

 手から離れた沙羅双樹を握り支えにし立ち上がる。

「お腹、大丈夫ですか?」

「そっちがやったんでしょ……」

 腹部を押さえる。傷口もなく血も出ていない。皮膚も綺麗な肌色。ただ、痛みだけがそこにある。

「とても痛そうですね?」

「いいからとっととかかってきてよ……」

 落ちていたもう一本の沙羅双樹、名を沙羅双樹・千影(ちかげ)を足で空にすくい上げそのまま空中でキャッチする。

「……後悔しますよ?」

「くどいですよ……」

 セツナは今さっきキャッチした沙羅双樹・千影をソードホルダーに収め残ったもう一本の沙羅双樹、セツナが最初から持っていた刀、二本目の沙羅双樹を収めていた刀を、名を沙羅双樹・朔夜(さくや)を正眼に構える。

 エリスもそれに答えるかのようにセラフィムとアリエルを握りセツナに向け銃口を向ける。

(どうする? どうする? どうする私? どうやってかわす? 防ぐ?)

 頭の中での考えもまとまらず、セラフィムから光の弾が発射される。輝く光の弾は弾道に白い羽根を舞い落としセツナの横を通り過ぎる。

 セツナもそれを追うように振り返る。



「反射!?」

 その言葉通りにパネルに当った光の弾は勢いそのままに三枚のパネルを反射しセツナに戻ってくる。

 返ってきた光の弾をジャンプで躱す。それを見たエリスの口の端が吊りあがったのをミリアは見逃さなかった。

「待っていました! この時を!」

「しまった!」

 銃口を重力で落下するセツナに向ける。そして『この体勢からは躱せない』と気づいたセツナは落下している。

 羽根を舞い散らせ襲う光の弾にセツナは手を腕を突き出す。


「はぁ!」

 セツナの手のひらから中空に光が(はし)り障壁が展開、セツナの前方に展開する光の障壁が迫る光の弾を防ぎそのまま着地する。

「いっつ〜〜 森羅万象を使ったこと師匠にばれたら絶対に殴られるな……」

 自分の手のひらを見ながら呟く。

「あれは……《気流術》……? そう、あなたも使えるのね……」

 セツナが展開した障壁を見たミリアが誰とでもなく呟いた。それはとても小さく、それは自分でも聞き取れないくらいとても小さい声だった。

「でも、これであの光の銃弾は森羅万象で防げる事がわかったし。よしとしますか」

 一人納得するセツナ。だが、ここに納得できない一人の少女がいた。

「納得できない! どうして防ぐの!? わたしのセラフィムとアリエルの攻撃は物体をすり抜けるのにどうしてすり抜けないの!」

 エリスはセラフィムとアリエルを打ちまくる。光のパネルに反射する弾や、直接セツナに向かう弾。セツナは手をかざし自分の正面にくる無数の弾を障壁で防ぐ。

「くっ……!」

 さらに、パネルで反射し背後からくる光の弾を横目で確認し、振り返り森羅万象で創った障壁で防ぐ。

「はぁああああああああああああ!」

「!」

 セツナが背後の光の弾を振り返り障壁で防いだ瞬間、銃撃が止まり、ミリアが上空から強襲をかけてセツナを襲う。



 金属音が響く。それはミリアの上空からの強襲をセツナは体を半身に返し左手で持っていた沙羅双樹・朔夜(さくや)で防御した時に発した音。

「クロノ! お願いします!」

「あいよ!」

 ミリアの張り上げた声にクロノが応え、セツナに向け駆け出す。

「くそ!」

 セツナは右手をソードホルダーに収めていた沙羅双樹・千影に手をかけ防御に移行する。

「させない!」

 その時セツナの動作を見逃さなかったエリスが再び引き金を引き、光の弾が射出された。白い羽根を弾道に舞い落としながらパネルに反射し寸分の違いもなくまったく同じ箇所に放たれた。クロノ、光の弾。両方に目を動かしセツナは一瞬で判断した。


手にかけていた沙羅双樹・千影(ちかげ)から手を離し真横から迫る光の弾を障壁を展開し防御。

「喰らえぇぇぇぇぇ!」

 直後、迫っていたクロノの放った左の拳がセツナの顔面に直撃し、きりもみ状態で真後ろに吹っ飛ぶ。吹っ飛んだセツナは背中を強打し、さらに後転をしながら後方へと転がっていく。

「見事ですよ。クロノ」

「ああ見事だった。あのサンタ野郎。インパクトの直前で顔と体を半転させ衝撃を和らげやがった」

「和らげた……」


 突如、ガシャンとガラスが割れた衝撃音が聞こえ、クロノ達三人は音の方へと顔を向ける。そこには割れた窓ガラスとその破片が飛び散っていた。

 しかし、そこにあるはずのもう一つの物体がなかった。

「逃げたって訳じゃないよな?」

「まさか、この結界からは逃げられませんよ。大方、体勢を立て直すための一時撤退でしょう」

「もう! 二人とも! そんな解説なんていいから追いかけようよ!」

 エリスの指摘にミリアとクロノは苦笑しながらも一つ頷いた、



「今のままじゃダメだね……やっぱり。あの子を起こさないといけないかな……」

 服に付いた窓ガラスを注意しながら手で払い空を見る。雲は晴れ紅と蒼の双子月が綺麗な満月を描いていた。

 視線を戻す。月が出ているとはいえ今は夜。一寸先は闇という言葉どおり辺りは真っ暗だった。セツナは屋敷壁にそって入り口まで走って戻り立てかけて置いたボードを加速したまま手にし、そして放りその上に飛び乗り森へと駆け出す。


「サンタの野郎どこいった?」

 窓から飛び出したクロノが当りを見回る。同じように後に二人も窓から飛び出して行く。

地面に残ったのはガラスの破片と窓枠の木材。それ以外は何も残っていなかった。

「見て、二人とも」

 下を向いていたエリスが二人を促す。ミリアとクロノはそれに習うように地面を見た。

「足あと……」

 ミリアが言うとおり土にははっきりと小さな足跡が残されており、その足跡は玄関の方へを続いていた。

三人はそれを辿る。しかし、足跡は森の方向へと向かっていたが途中で途切れてしまった。


「スカイボードで追跡しよう」


 そう、ミリアが提案した。



「真っ暗……道なりじゃなかったら木にぶつかってるよね」

 セツナは車輪のない宙に浮くボードで舗装された道を走る。同じ風景、変化のない景色が続く。その中でセツナはキョロキョロと目を走らせ何かを探していた。

「どうする? このまま逃げ切れるわけじゃない」

 セツナはこれからの対応を考えていると右前方に凄まじい光を放つ巨大な樹が見えた。

「なに……あの光る樹……」

 セツナが不信感を抱いたその時、巨大な樹から光が消えた。



「クロノ、月光樹アルテミリスを思いっきり叩きなさい」

「わーってるって」

 ボードにT字型のステックハンドルが付いたスカイボードに乗り地を走る。

 時はセツナが光る樹、月光樹アルテミリスを発見したと同時刻。ミリア、クロノがそこにいた。

 クロノは加速し月光樹アルテミリスに近づく。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 さらに加速させ月光樹アルテミリスにすれ違いさまに強烈な蹴りを繰り出す。強烈な一撃で月光樹が揺れ光が弾ける。

弾けた小さな光は意思を持ったように縦横無尽に動き回る。

 数千、数万の小さな光は瞬く間に森全体に広がっていく。


「光が広がっていく……?」

 セツナは光る樹から光が消えたのを目撃した頃に戻る。

 小さな光はそのひとつ、ひとつがランプ程の光を放ち森を包み込んでいく。

「これって……魔光虫? 綺麗……真っ暗だった森が光で満たされていくみたい……」

 光が広がる森の光景にセツナはすっかり見惚れ追跡者の存在を忘れていた。


「赤い服に二振りの刀……見つけた! サンタクロース!」

 上空からミリアがセツナを発見。スカイボードを急降下させた。


「トナカイさん! 聞こえますか!? トナカイさん!」

 首にかけた十字架のペンダントに呼びかける。

「聞こえるぞ! セツナ!」

「よかった。無事でしたね。トナカイさん! 上空(うえ)から池かなんかありませんか? これだけ大きい敷地なんですからあると思うんですけど!」

「池か? ちょっと待て今確認する」

「わかりました! なるべく急いでください!」

 通信を切断したその時、『サンタクロース!』と、耳に轟く。

「えっ!?」

 セツナは上空を見上げるとミリアが空を飛ぶボードに乗って刀を振り急襲をかけてきていた。


 キィン!


「くっ!」

 刀と刀がぶつかり金属音が響き刀が弾かれる。

「逃げるとは往生際が悪ですわよ!」

「誰も逃げてないわよ!」


上空と地上で刀と刀が激しくぶつかり合い金属音がはじける。その刀と刀のぶつかる音に驚き魔光虫も驚き退ける。

 やがて空で攻撃を仕掛けていたミリアのスカイボードが重力に引かれセツナの真後ろで降りる。

 そしてセツナはボードごと回転させ真後ろへと、ミリアの方へと対峙する。その間も止まることなく二人のボードは宙を疾走(はし)り動きを止めていない。セツナは後ろ向きで前方を疾走はしり、ミリアも疾走はしる。

(あれはウイングボード……加速力ならあっちが上……どうする……)

(あれって、スカイボードだよね……加速力ならこっちが上だけど向こうは短時間だけど空を飛べる……どうしょう……)

 お互いに見合い、動かない。しかし、景色は流れていく。

(ここはこのまま振り切る!)

 小さくジャンプし身体ごとボードを回転させ前方を向きスピードを上げる。

「逃がしません!」

 ミリアは抜き身のままの刀を腰に回す。

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 気合と共に居合い抜きのように刀を腰から上に打ち上げた。

「えっ!!」

 土煙を巻き上げミリアが気を練り上げた気功波を放ちセツナを襲う。

「この技は……森羅万象!?」

 左手を後ろに突き出し気の障壁を張る。ミリアの放った衝撃波がセツナの発生させた障壁にぶつかり光がはじけお互いの気が消滅する。

「お前だけじゃないんだぜ! 気流術を使えるのは!」

「!!」

 セツナの脇の茂みから突然現れたスカイボードに乗ったクロノに驚き一瞬、防御が遅れクロノの拳の一撃がまともにヒットする。

「くっ!」

空高く打つ上げられたセツナは木とすれ違いざまに沙羅双樹を刺し柄を中心に一回転し、そして刀背に器用に立つ。

「あ……」

 セツナの眼が木の根元で留まる。そこにはミリアが細く微笑みセツナを見上ていた。その瞬間、木の根元に閃光が走る。


 ズズッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 木がナナメに斬られ倒れる。

「ムチャクチャだよ!」

 セツナはナナメになった木に移動し沙羅双樹を抜き倒れる木の先端に向かい走り出す。


 後方からの光る弾がセツナの頬をかすめた。

「光の弾?! 後ろ!」

「逃がさないんだから!」

 振り返ると二挺拳銃を構えスカイボードに搭乗したエリスだった。

「くっ! あの光の弾はメンドい!」

 雨のように射出される光の弾をセツナは狭い足場で舞いを舞うように躱し、直撃する弾だけを障壁で防ぐ。

 しかし、その間にも木が倒れている。セツナの予定では先端から他の木に飛び移るはずだったが木の速度と地面の距離を目測し『やばい……もう間に合わない』と辿り着く前に木が地面に激突すると確信し木からその場から飛び降りる。


「まだまだ!」

 クロノがスカイボードで落下中のセツナに追撃をかけるために急上昇を開始していた。

「強引……」

 小さく少し怒気を含んだ呟をこぼしセツナは沙羅双樹を両手で握り後ろに持っていく。

「上等!」

 セツナの一連の行動を見たクロノは拳を引きお互い臨戦体勢に入った。


「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


 二人の咆哮が森に響き魔光虫が驚き飛び退ける。


 ガキィン!


 瞬光がはじけひときわ大きな金属音が鳴り響く。

 クロノは上空。セツナは空中でくるっと身体を一回転させ足から地上へと着地し、そのまま走り出していた。

 その後をミリアがスカイボードで追いかけるが大きな轟音と葉が擦れる音とともに倒れてきた木がセツナとミリアの間に倒れ込み追跡を妨げる。

「くっ! サンタクロース!」

 ミリアは声を漏らし眼前の自分で斬った大きな木を睨みつけていた。


「クロノちゃん! 大丈夫? ケガない?」

 エリスはスカイボードで近づきクロノに声をかけた。

「ああ、大丈夫。あのサンタ……最初から攻撃する気なんてなかったからな……」

 しかし、クロノはエリスには目を合わせず言った。その右手の拳は力強く握り締められ震えていた。

「あの野郎……あの幅広の剣腹で拳を防御しやがった……エリス姉ちゃん! 追いかけよう!」


 ミリア合流したエリスとクロノはスカイボードで木を飛び越えセツナの後を追いかけていった。





「危なかったぁ〜あと少し走るの遅れてたら木に潰されてたよ……」

 走りながら顔だけ後ろを向く。そこにはさっきまで自分がいた場所に木が倒れている。

「でも、これですこしあのメイド達を少しは足止めできるかな」

 少しだけ安心した顔をし視線を前方に戻し今度は周りをキョロキョロと見渡し始める。

「さてと、とりあえずわたしのボードを回収したいな」

 走りながらセツナは行方不明になったウイングボードを探す。

 疾走する事数分、脇の茂みに埋もれ半分だけ姿を表している見覚えのある白い板が視界に入る。

「あった!」

「見つけたぜ! サンタクロース!」

 セツナがウイングボードを発見したと同時に空から後を追いかけてきたメイド三人娘にも見つかる。

 クロノの声が耳に届いた瞬間、はじける様に加速しボードに一直線に向かう。

 そして、減速しないままボードを前方に蹴り上げセツナも跳躍、空中でボードをキャッチし膝を胸まで引き寄せその足元にウイングボードを持って行く。

そしてウイングボードを起動させ空中で瞬間的に加速。加速したまま着地し土煙をあげたまま大地を疾駆する。

「やっぱりウイングボードは疾いね」

 エリスが、猛スピードで遠ざかるウイングボードを見て誰に聞こえるわけでもなく呟く。

 ぐんぐん差を広げ加速するウイングボード。どんどんと視界から流れ消えていく魔光虫。風を受けなびく風を受けながら目の前に広がる景色を見てセツナは『目的の場所』を見つる。

「あった! 池!」

 目の前に広がるのはとても池とは呼べないほど広大な池。それはもう池ではなく『湖』と呼ぶに相応しい大きさだった。

 池を確認したセツナは夜空を見上げる。夜空には蒼と紅の双子月が綺麗な円形を描いていた。

「よし……双子月は満月……条件は揃ったよ……」

 双子月を見上げていた視線を握る沙羅双樹に向けそう述べた。





「どうする? エリス姉ちゃん、ミリア姉ちゃん。どんどん離されていくよ!」

 二人の姉に促すクロノだったがミリアは何も言わずにセツナを目で追いかけもう一人の姉はこう答えた。


『ここから迎撃する』と。


「な、なに言ってんだよ! いくら銃だからってここから直撃(とど)くわけないだろ」

「届かせる……直撃させてみせる!」

 そうクロノにたんかを切りエリスはセラフィムとアリエルに告げる。

「久しぶりに行くよ……セラフィム、アリエル。長距離射撃フォーム《ロンギヌス》スタンバイ!」


《了解しました。長距離射撃フォーム《ロンギヌス》スタンバイを開始します》

《こっちも了解! いつでもいいぜ》

 セラフィムとアリエルが答える。


 目をつむりセラフィム、アリエルの二挺銃を胸元でクロスさせるように引き寄せる。スカイボードに乗ってのフォームチェンジにも

関わらず不思議な事にバランスも崩さずに微動だにしなかった。

 セラフィムとアリエルが徐々に光だし輝きながらはじけ光の粒になる。すぅーとエリスの右手が天を仰ぐ。掲げた右手に光の粒が収束していく。

全ての光の粒が収束しエリスの手と同サイズの光の玉が形成。

 エリスの閉じていた目を開き光の玉を強く握ると光の玉がはじけ光が輝きはじけた。

「貫け……シューティングスター!」

 光の玉を握った右手にはエリスの身長よりも大きな二又の矛が具現されていた。

「いっけぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 二又の矛から直線状に光が伸びる。その光は遥か遠くを疾走するセツナに放たれた。

「影が……伸びる!?」

 自分の影がみるみる伸びている事に気づいたセツナは後ろから『何かが』近づいたのを察し空高く思いっきりジャンプする。

 その瞬間セツナの下を猛スピードで光源が過ぎ去っていった。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 少しずつお給料ためて買ったボードなのに〜〜〜〜〜〜〜〜」

 光の玉に巻き込まれ灰になって消滅したウイングボードを上空から見ながら悔しく叫んだ。光の玉が直撃した地面は大きな穴がぱっくりと出来上がっていた。周りの木も消滅していた。ただ、魔光虫だけは何もなかったように激しく騒ぐように飛んでいた。


 着地したセツナはそのまま自身の足で目の鼻の先にある池まで走り出す。

「クロノ! 追撃をかけます! ついてきて!」

「おうよ!」

 スカイボードのスピードを最大限まであげ二人はセツナを追う。

「はずした……どうして……どうして当らないの!」

 怒気と哀しみを含んだ声を漏らし遅れエリスもセツナの追跡を始めた。


「とりゃぁぁぁぁ〜!」

 腰に差していた沙羅双樹・千影を気合と共に池に放り投げた。音を立て池に剣が放り込まれる。水面は大きな波紋を何重にも発生させ沈んでいく。

 セツナは減速も停止もしないまま池に疾る。背後からはミリアとクロノが迫るがおかまいなしで疾走する。

「おい! その先は池だそ! 止まれ!」

 クロノの制止も聞かずにセツナはぐんぐんと加速しどんどんと池に近づいていく。そして、セツナの足は池へと踏み出した。

「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 その時クロノの顔から目が飛び出るくらいの驚きの顔で驚愕の声が森中に響いた。

 その理由は明快だった。池に踏み出したセツナはそのまま池に落ちる事無く走っていたからだ。クロノはスカイボードに足でブレーキをかけ止まる。

 しかし、そのすぐ後ろにいたミリアはスカイボードを飛び降りそのままセツナと同じように池に向かい駆け出していた。

「姉ちゃん! 頼む!」

「わかりました!」

 ひとつ返事で承諾しミリアはセツナを追う。池に踏み込む前に石を蹴り池に波紋を作り出した。

「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

 今度はセツナが驚きの声を上げた。後ろを見るとミリアがセツナと同じように池に沈むこと無く走っているのだ。

「波紋歩法を使えるのはあなただけではないのですよ!」

 波紋の上を疾走しセツナに迫るミリア。同じように波紋の上を疾走(はし)るセツナ。

二人は絶えず刀を水面に疾らせ波紋を立てる。それは、この歩法は波紋が立ってないところでは走れないからだ。

 パシャ、パシャと水音を奏でる。二つの水切り音。

 埒があかないと感じたミリアはセツナが刀で波紋を立てた事を視認したら大きく跳躍。セツナの立てた波紋に着地。

「しまった! 割り込まれたぁ!」

「捉えましたわよ! サンタクロース!」

 振り下ろす刀。振り上げる刀がぶつかり合い音と驚いた魔光虫が弾ける。


 甲高く硬い音と水面を疾る音が織り成す激しい協奏曲。池よりも湖に近い池で奏でられるその楽曲は森全体に響き渡る。

水面上で打ち合う二人はまるで刀と刀とで演奏する演奏者のようだった。

 池というより湖。その中心で二人は刀を振り演奏する。それは完璧で二人の息はピッタリと合っていて一分の狂いもなかった。


「なんか……綺麗……」


 空には蒼と紅の二つの満月。

森を漂う数千の光を放つ魔光虫。

月の光を反射する水面。

月の光で照らさせる水飛沫(みずしぶき)

水面には絶え間なく広がる波紋。

波紋の上で踊る二人の少女。


まるで夢物語でも見てるような。神秘的であり幻想的でもある光景を見てクロノは言葉を漏らした。


(まだ!? わたし……耐えられるの?!)

「サンタクロース! 何を考えているのかわかりませんが、ここで朽ち果てるまで私と踊りましょう!」

 鍔迫り合い、弾き、二人は刀を振る。何度も何度もお互いの刀のが重なり金属音が鳴り響く。


「アリエル! ブーストサークル展開!」

《了解! マスター!》

 エリスの声がクロノの耳に入る。声が聞こえた方を向くとエリスが二又の矛に変化したセラフィムとアリエルを構えていた。

 二又状の槍に取り付けてある宝玉から声がこぼれる。その声に呼応するかのように湖の中心に六つの円形が中空に描かれていく。

その円形の中心には六芒星が描かれている。

「セラフィム! エターナルブレイカーのチャージまであと何分!」

《約百五十秒でチャージ完了です》

「十秒前からカウントダウンお願い!」

 了解とセラフィムがそう答えるとエリスは槍を構えたままピクリとも動かずまっすぐセツナを睨みつけていた。


 波紋上で踊り続ける二人の少女。永遠とも思え舞踊に終わりを告げたのは、セツナの後ろから光の柱が伸びた時だった。その蒼い光を見たセツナは『おそいよ……』と口から小さく漏らし、光の柱を確認した。


「な、なに?」

 一瞬、ミリアはその蒼い光の柱に目を奪われる。セツナはその刹那を見逃さなかった。



 振り上げた刀がミリアの刀を大きく弾く。刀を弾かれたミリアは大きくバランスを崩し体勢が乱れる。しかし、セツナはその最大の攻撃のチャンスに攻撃をせずに、大きく後ろに跳んだ。

「くっ!」

 ミリアが体勢を立て直すとセツナは蒼い光の柱が伸びる水面に着地していた。


 すっ……と右手を水平に伸ばす。それはとても優雅で一寸の乱れもなく吸い込まれるように流れるように動く。


「おいで…… 千影(ちかげ)

 たった一言の言葉。セツナの言葉はそれで十分だった。水面から強く輝く蒼い光が昇る。それは蒼く輝いている刀。セツナが湖に放り投げた。

沙羅双樹・千影だった。水面からあがった蒼く輝く沙羅双樹・千影を手に取る

「いくよ沙羅……カートリッジ装填」

 言葉に呼応して沙羅双樹・朔夜の背刀が開く。


 開いた朔夜に蒼く光る千影をまるで鞘に収めるように朔夜の背面に入れガシャンと音がはじけ元の一振りの沙羅双樹に元に戻る。そして千影を取り込んだ朔夜は千影と同じ蒼い光が伝染したかのように光り始める。

「形態変化」

 セツナが言葉を小さく紡ぐ。沙羅双樹の刀身が強く、強く輝きそしてはじけ消える。柄だけを残し刀身は蒼い光の玉となり、セツナの周りを漂いゆらめく。


「セラフィム! カウントダウン!」

 セツナの様子を伺っていたエリスが突然激しく言葉を漏らす。

《ですが。 まだチャージが完了していません》

「いいから! アレはマズい! アレはマズいの!」

《……了解しました。エターナルブレイカー、出力七十パーセントで発射します》

 淡々と言葉を発しセラフィムはエターナルブレイカー発射スタンバイに入る。

「オッケイ……アリエル。ブーストサークル展開オッケイ?」

《完了してるぜ! マスター》

「いい子だね。二人とも」

《では、マスター。カウントダウンを開始しますがよろしいですか?》

「いいよ。カウントして」

《了解。カウントダウン開始します》

 セラフィムのカウントダウンが始まり。エリスはギュッと強く、強く二又の槍に変化したセラフィムとアリエルを握った。

 


「沙羅双樹・桜華(おうか)開放」

 小さく発したその言葉。呼応するかのようにセツナの周りにゆらめいていた蒼い光の玉が一気に刀身のない柄に収束していく。


 6、5、4……

「間に合う!?」

 カウントダウンを聞き流しながら誰に問うたわけでもなくエリスが発する。もちろん誰も答えない。ただ、ただじっとセツナを睨んでいた。


 収束した蒼い光の玉は具現されていく。蒼き光の刃へと。


3、2、1……スタート

「エターナルブレイカー シュート!」


放たれた光の閃光は白い羽根を舞い散らせながらまっすぐにセツナへと向かう。そして、アリエルが設置した魔法陣。ブーストサークルを通るごとに加速が増し、光の閃光が大きくなっていく。光の閃光が強化されていくのが目で見てはっきりとわかった。


「ゆっくりおしゃべりしてる暇ないかな……」

 とても残念そうにたったいま具現化した光の刃を見る。

「沙羅。あの光の砲撃は防げる?」


 はい、あの光の砲撃は九九・七パーセント魔力で構成されています。現状のアストラルフォームで十分対応可能です■


 沙羅双樹・桜華の言葉はセツナの耳には聞こえず文字となりセツナの瞳に直接投影され描かれていく。瞳に投影された言葉を『読み』セツナは「了解」と答えた。

 そして、沙羅双樹・桜華を逆手で持ち左手は蒼い光の刃に添える形をとる。

 砲撃は最後である六つ目のブーストサークルを通り最大まで強化され大きくセツナを覆いつく対ほどの強大な光が迫る。

 迫りくる光の閃光にセツナは動かず沙羅双樹・桜華を構えたまま佇む。足元には蒼い光の玉が浮かび微振動を起こし波紋を立てている。


「永遠に抱かれ眠れ!」

 エリスが叫ぶと同時に光の閃光がセツナに直撃した。大きな爆発音が響き轟き光が『割れて』いく。それはセツナの持つ沙羅双樹・桜華を支点に真っ二つに光の砲撃が裂かれていた。


轟音が響き光と水と羽根が舞い散る。

舞い散った水は雨のように降り注ぎ光と羽根は舞い上がる。

「大丈夫……絶対に大丈夫……」

 光と羽根が舞い散る着弾点を見、自分に言い聞かせるように口を動かす。


霧の雨と光と羽根が晴れクリアになっていく視界。



そして、エリスの目に映ったのは羅双樹・桜華を逆手に持ち先ほどと同じ構えを取るサンタクロースがそこに存在していた。

「いつかは眠るよ……でも、それは今じゃない」

「悪魔……悪魔め……!」

 エリスから言葉が漏れる。その単語は純粋にセツナに向けられたものだった。

「ショックだな……悪魔だなんて……でも悪魔ならわたしも知ってるよ。と、言っても悪魔じゃなくて死神だけどね」

 セツナは言うと最後に『あなたが一番厄介だね』と言葉を紡いだ。


 では、私が波紋(あしば)を作ります■

「うん、よろしくね沙羅」

 はい、マスター■


 告げると沙羅はセツナの足元にある蒼く小振りな小さい光の玉を水面に複数具現させる。その蒼く小さい光の玉は波紋を立てながらまっすぐに分裂しエリスのいる対岸まで続いていた。

「波紋が……エリス姉さん!」

「遅いよ……平衡感覚への干渉開始」

 ミリアがエリスに叫ぶ。しかしその言葉は遅かった。叫んだと同時にエリスはセツナの蒼い光の剣に肩から脇腹に向けて袈裟斬りで斬られていた。

「は、迅い……」

「サンタ! よくもエリス姉ちゃんを!」

 ミリアがそう呟くとエリスの隣にいたクロノの怒号が飛びセツナに殴りかかる。

「クロノ! 落ち着きなさい!」

「体力への干渉開始」

 ミリアの制止も耳に入らず拳撃を繰り出す。しかしセツナはクロノの真っ直ぐ向かってくる拳撃をすっ、体を翻しと横へかわす。

そして右脇腹から左肩口へと昇り袈裟斬りで斬った。

「クロノ!」

「な、なんだよコレ……なんでこんなに虚脱感があるんだよ……なんでなんだよ……なんでこんなに息が荒いんだよ」

 ガクっと膝が落ち地面に四つんばいになる。なりながらもクロノが叫ぶ。

「サンタクロース! てめぇ……なにしやがった……」

 掴みかかりたいが身体がゆうことをきかない。まるで五百メートルを全力で走ったような疲労感がクロノを襲っており動けなかった。

 クロノの問いにセツナは何も答えなかった。ただ、ただ、最後に残った次女のメイドを見つめていた。

(なに……あの剣……姉さんもクロノも斬られたのに血も出ていない……血が出てない……?)

 ミリアある事を思い出していた。それはエリスが撃った光の弾がセツナに着弾した時の事だった。

(あの時も血が出てなかった……まさか! あの剣は……)

 確認するようにミリアはエリスとミリアを見る。一人は息を上げ肩が上下しており。一人は立ち上がっているがフラフラを左へ引き寄せられ足がもつれ倒れる。


「!!」

 ふと、水面を見た、そこには蒼い小さな光の玉が分裂し浮かびミリアの方へと波紋が広がっていた。

「い、いつのまに波紋が……はっ!」

 ミリアは本能的に後ろへ退いていた。そこへセツナの光の一筋がはしる。

「いい勘してるね」

「波紋歩法『瞬動』ですか……?」

 新しい波紋を立てミリアはセツナの蒼い光の剣を見据える。

「よく知ってますね」

「ええ、わたしもいずれ修得したいと思っているので。それよりもその剣は姉さんのセラフィムとアリエルと同じですか」

「せらふぃむ? ありえる?」

 目を上辺に向けおでこに人差し指をあて考える。

「姉さんが持っていた銃です」

「銃? ああ、槍になったりするあの銃? ずいぶん立派な名前があるんですね……ん? そういえばあの銃しゃべってたけど、ねぇ桜華。知り合い?」


 『天の亡骸』を巡る戦役で戦った事があるくらいです■


「そっか」

「……誰と喋っているのですか? あなたは?」

 セツナの一人喋りにミリアは訝しげな顔で尋ねる。

「あっ、すいません。じゃあ。お話しは終わりにして再開と行きましょうか?」

 沙羅双樹・桜華を構える。

「そうですね。再開しましょう」

 ミリアも刀、名は『輝夜月(かぐやづき)』を構える。

(わたしの考えが正しければあの光の剣は姉さんと同じ《感覚への直接攻撃》……ならば!)

 ミリアは波紋を立てバックステップで後方へを下がる。

「はあっ!」

 輝夜月を上下左右に数回薙ぎ三日月状の波動である『気』を連続して打ち出す。

「やっぱりいい勘してるね。あのメイドさん。桜華の特性に気づいてるよ」

 ミリアから打ち出された三日月状の気弾を沙羅双樹・桜華ですべて斬り落とす。最後の気弾を打ち落とし時、「あれ?! いない!」と辺りを見渡し視界にミリアがいないことに気づく。


 マスター上です■


 沙羅双樹・桜華の投影された文章でセツナは上を向く。

「もらいました! サンタクロース!」

「沙羅、形態変化! マテリアルフォーム!」

 いつの間にか跳躍しセツナの真上にいたミリアに対しセツナは沙羅双樹・桜華に言葉を下す。

 セツナの言葉に呼応するように沙羅双樹・桜華の光の剣がピキピキと音をたて水が急激に凍りつくような音が響く。

「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 セツナは凍りつく光の剣を振り上げ、ミリアは振り下ろす。


 

 硬いガラスを叩いたような晶波音が耳を突き抜ける。

「光が……結晶化した……」

 水面に気弾を落とし波紋を立て着地する。

(よかったぁ〜〜間に合った〜〜〜〜)

 安堵の表情でセツナは蒼い光が結晶化した沙羅双樹・桜華を見た。


「くっ……えっ? なに……これ……」」

 ミリアはなにげなく輝夜月(かぐやづき)に触って気づいた。その異常なほどの凍傷するほど冷却された輝夜月に。

「桜華、あのメイドさん気づいちゃったかな?」


 わかりません。ですが警戒を強めています■


「一つの武器で二つの形態。そして、感覚への直接攻撃……やはり、その剣は姉さんの武器と同じですね?」

「そこまで『わかっているなら』答える必要ないと思うけど? 答えたほうが言いですか? それと桜華は剣じゃなくて刀です」

「それは失礼しました。それと答えなくて結構です。その言葉が答えと受け取りますので」

 二人は刀を構え互いを見据える。しかし、ミリアは構えながらも波紋を絶えずに立てる。


「「はぁぁぁぁぁぁ!」」


 水面を疾走しお互いの間合いに侵入した直後、刀を振るう。金属音を響かせ刀と刀が鍔競りあう。

 


「か、輝夜月(かぐやづき)が……凍る!?」

 セツナの透き通る蒼い刃の接触している部分からミリアの輝夜月(かぐやつき)が凍り付いていく。

「答えは聞いておいたほうがよかったんじゃないですか」

「だ、だまりなさい!」

「大方、あなたの予想では『触れたものの温度を下げる』と思ってるんでしょうがそれは大きな間違いですよ。桜華はその先をいく」

「うっ……」

「図星ですか? でも、そんなことよりもいいんですか? 『いつまでも』わたしの桜華に触れてても?」

 セツナのその言葉にミリアは気づき自分の刀に視線を戻した一瞬、セツナから刀を離し波紋を立てながらバックステップで距離を取る。

(空気が肌を切り裂くように痛い……空気すら凍らす……なるほど『触れたものの温度を下げる』ではなく『触れたものを凍らせる』か……その先をいく……確かに。言い得て妙ね)

「まだ戦いますか?」

「もちろんです。わたしはお嬢さまのためにあなたを倒さなければいけません」

「そんなに、プレゼントを渡されるのがイヤなんですか?」

「お嬢さまの願いを叶えられないサンタクロース達など用はありません」

「なら、わたしはますますお嬢さんに会わないといけないですよ!」

 蒼い光を放つ小さな玉が波紋を立てまっすぐに分裂しミリアへと伸びる。

「触れて凍るなら、近づかなければいいだけです!」

 ミリアは輝夜月に気を纏わせ横薙ぎに振り三日月上に放つ。セツナは迫り来る三日月上の気に片手を突き出し森羅万象で作り出した

障壁でそれをあっさりと防ぐ。

「なっ……」

「どうしたの? わたしも森羅万象を使えるんだよ。あなたの気術もわたしの森羅万象も根源は同じだから相殺だってできますよ?」

「くっ……!」

 殺意に近い感情を醸し出しながらセツナを睨む

「これで、終わりにします!」

 セツナは波紋歩法《瞬動》で波紋を神速で疾走する。ミリアは迫り来るセツナを尻目に腰に差していた鞘に輝夜月(かぐやづき)を収め半身になり片膝を立て腰を浮かす。

(まだ、あと少し……)

 全神経と集中力で神速のセツナを目で捉える。はしり、沙羅双樹・桜華の切っ先を水面に浸す。切っ先に浸かった水面が直線に凍りつく。

(あと少し……もう少し……)

 魔光虫が騒ぎ羽ばたき散っていく。セツナがミリアの間合いに半歩侵入する。

「ここだ! 瞬空斬!」

 ミリアの目が見開き鞘から高速で輝夜月を抜刀する。

「でりゃぁあああああ!」

 セツナは浸していた沙羅双樹・桜華の切っ先を水面ごと斬り上げる。水しぶきが舞い上がりミリアの視界を遮った。

 しかし、それはただ遮っただけではなかった。舞い上げられた水しぶきが水面から凍りつきはじめる。

「氷?! くっ!」

 ミリアは抜いた輝夜月を制御できず目の前に形成された氷柱をセツナごと横に真っ二つに斬り裂いた。

「獲った!」

 二つに斬り裂いた、と思ったのはミリアの思い違いだった。それは砕け折れた氷柱の背後にはセツナの姿はいないからだった。

「状況の把握それと判断力、注意力。それら全てが……遅い!」

 斬られた氷柱の影からセツナが氷を跳躍台にして飛び出してきた。

「サン……!」

 セツナの握る剣は『斬った物を凍らす氷の剣』ではなく『斬った者の感覚を殺す光の剣』へと戻っていた。

「視力への干渉、開始!!」

 振り下ろした光の剣がミリアの袈裟を見事に斬る。


「お見事です……どうして瞬空斬の攻撃範囲がわかったんですか……あ、あれ……」

 ミリアは眼をこすりだす。

「いや……いやぁ……色が……光が……わたしの眼から薄れいく……消えていく……」

 眼をこすっては開きこすっては開く。

「眼が……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ショックでミリアは気を失い背中から湖に崩れそうになる。が、湖に落ちそうになる瞬間にセツナがミリアを受け止める。

「終わった……あとはお嬢さんに『プレゼント』を渡せば任務完了……かな?」


 背中にミリアを背負い対岸に向かい水面を歩き出した。

 数分後。眼を覚ましたミリアにセツナは視力を失ったのは一時的なもので三時間したら眼が見える事を説明したのだった。


To Be Continued...

最後まで読んでいただいてありがとうございます。間宮冬弥です。さて、今回の作品はサンタクロースを題材にしていますがなんかサンタっぽくないですね……ちなみに今回は連載なので続きます。近いうちに二話目を投稿しますので続きが気になるようでしたら、よろしければ読んでみてください。では、これで失礼します。

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