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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
9/88

見透かされた恋

 どれ程のボールを体に受けただろうか? 気が遠くなるほど、長い時間のようにも思えた。

 逃げ出そうと思えば逃げ出せる。野球を辞めるのは、簡単な事だ。しかし、今辞めても何にもならない。


「もう、止めて!」


「私からもお願いします」


 全身泥だらけの僕を見て、佳奈さんと千秋は言った。その言葉を聞いて、情けなくなった。無理だと思われ、同情されているのだ。


 その言葉を跳ね返すように、声を振り絞る。


「住田さん……まだ、やれます。続けてお願いします」


「いい返事だ! 行くぞ!」




――キィィィン――




――ドスッ――




「お願いします」


 僕一人の為に、ノックは二時間続いた。


――これ以上、先輩達に迷惑が掛けてはいけない。


 そんなプレッシャーの中、遂に僕のグローブの中に白球が吸い込まれたのである。




――ザシュ――




 それは何とも心地好い音で、今までの疲れが吹き飛ぶようだった。


「山岸……よくやった……次、ショート!」


 住田さんはニッコリと微笑み、労いの言葉を掛けてくれた。


 それは太陽が空高く、天辺まで昇りつめた時のことだった。




◇◇◇◇◇◇



「痛ててて……」


 合宿一日目のメニューが終わり、顔を洗うと全身の痛みが僕を襲った。アザだらけである。


「お前のガッツには、恐れいったよ。プレートでのステータスアップが楽しみだな」


「内藤も凄かったな……感心したよ」


「へへへ……」


 お互いの健闘を称賛し、泥だらけのユニフォームを脱いだ。


「さぁ、皆~。ご飯の用意が出来てるわよ」


 佳奈さんが皆に呼び掛ける。


 この匂いから察すると、カレーのようだ。僕はカレーが大好物なので、余計に腹が減った。

 そんな事を思っている僕の裏で、こんな会話がされていたとは知るよしもなかった。




◇◇◇◇◇◇



 一時間前……。



 集会所の台所では、千秋と佳奈が夕食の準備に取り掛かっていた。

 育ち盛りの部員達の胃袋を満たすには、大量の食材が必要である。 そこで二人が考えたメニューはカレーだ。比較的安価で、調理も楽だ。


「千秋ちゃん、それじゃ、ジャガイモの皮むきお願いね」


「はい」


 勿論、面識はあった二人だが、それは蓮を通してのこと。会話が続かないことに気付いた佳奈は、何の気なしに恋愛の話を振ってみた。


「ねぇ、千秋ちゃんて、好きな子いるの?」


「えっ!」


 突然の佳奈の質問に、取り乱す千秋。途端に耳を真っ赤にし、うつむいた。


「わ、私のは……無理ですから……」


「千秋ちゃん、最初から諦めちゃ駄目よ。山岸君だって、あんなに頑張ってんだから……」


 佳奈は悪戯に、蓮の名前を出して振ってみた。これこそが、佳奈の狙いである。

 その反応を見れば、千秋の想いは一目瞭然。


「れ、蓮ちゃん……。佳奈さんてば、意地悪です……」


 千秋は、甘えた声で佳奈に返した。


 更に千秋は続けて尋ねた。


「佳奈さんはどうなんですか?」


「わ、私? ひ~み~つ」


「ズルいですよ~」


「さ~て、仕上げに取り掛かりますか~」


 千秋は佳奈に上手くはぐらかされ、自分の想いだけを悟られてしまったのだ。



◇◇◇◇◇◇




 当然、僕はそんな会話の真相を知らなかった訳で、のんきにカレーをガツガツいただいていた。


「うめ~な~。おかわり」


「俺も~」


 男は単純である。僕と内藤は、カレーおかわりバトルを繰り広げていた。



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