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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第三章 キャプテンとしての役目 三年生編
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強靭な意思を持って

 翌日、朝一番で教室に入って来た内藤に、昨日病院で言われたことを伝えた。


「マジかよ……シャレになんねぇな」


「なぁ、内藤。このことは皆に内緒にしててくれないか?」


「お前がそれでいいなら……でも、これは…………」


「何、話してんの?」


 僕と内藤の間に、千秋が割ってはいる。

勿論、千秋にも言うつもりはない。

しかし、嘘が下手な僕は挙動不審に陥った。


「新しいグローブの話だよ。だいぶボロくなってきたからね。な、山岸?」


「ん? あぁ、そうだよ」


「ふぅ~ん……」


 千秋は疑いの目で僕達を見たが、とりあえずは納得したようだ。


「蓮ちゃん、今日は練習来るんだよ。勉強も野球も両立しなきゃ。じゃあ、また後でね」


 千秋はそう言うと、ポニーテールを揺らしながら教室を出ていった。


「お前、嘘つくの下手だな」


「悪かったな。それより、昨日の練習休んだ理由、何て伝えたんだ?」


「テスト勉強があるからって……」


 すっかり忘れていた。

病院どうのこうのより、中間試験が迫って来ていることを。


「内藤、お前は勉強大丈夫なのか?」


「当たり前だ。ウチは両立しないと、野球やらしてもらえないからな」


 ここ最近、野球のことばかり考えて、勉強が疎かになっていたことに気付いた。

学力的には中の上だが、成績は年々下がってきていたのだ。


「勉強もやらなきゃな……」


 中間試験があるお陰で、僕は無理な練習をせずに済んだ。

テストはというと、散々な結果だったが、とりあえずは乗り越えたのだ。

問題は左肩。

このところは調子がいいが、あまり無理は出来ない。

少なくとも、この夏だけでももってくれと、僕は願った。




◇◇◇◇◇◇




 そして七月――いよいよ県大会が始まった。

 去年優勝した僕達は、シード権を勝ち取り他校より試合数が少ない。

今の僕に取って、せめてもの救いだ。

 第一試合は、成南高校を破った山名学園(さんめいがくえん)

序盤、立ち上がりの悪い僕は連打を浴びたが、その後明秋打線が爆発し、七回コールドに仕留めた。

 続く準々決勝の相手は、常勝聖新学院。

しかし、本庄のいなくなった聖新学院は、僕達の敵ではなかった。

 この試合、二年の箭内の活躍で、僕達は5-2で勝利を飾った。

しかしながら、徐々に僕の肩は、言うことを聞かなくなっていた。

 準決勝、水鳥工業(みどりこうぎょう)戦では、痛み止の注射をしての出場になった。

変化球を投げる度に襲い掛かる痛み。

もはや、痛み止では誤魔化しが利かないレベル。

 三振を取ることを諦め、打ち取る野球に切り替えた。

監督や部員達は、ただ単に調子が悪いと思っていたようだ。

それもこれも、内藤が上手くフォローしてくれたお陰でだと思っている。 結局、五回途中で須賀に託し、僕はマウンドを降りた。

 一度は逆転を許すも、4-3で辛くも勝利を飾ったのだ。


 そして迎えた決勝戦。

選手層の底上げをしてきた、寺が丘高校との一戦を迎えようとしていた。

今年の寺が丘高校は、一味も二味も違うと噂されていた。

 今日の試合勝てば、甲子園。

痛み止の注射も、この日はいつもの倍になっていた。


「もってくれよ、僕の肩……」


 この三年間の集大成を見せるべく、僕はマウンドに登った。

寺が丘高校は、二年生、一年生を中心とした若いチームだ。

特に一年生エースの半沢は四国出身で、中学時代四国で一番の右腕ピッチャーとされていた人物だ。

 寺が丘高校はそこに目を付け、半沢の獲得に成功したのだ。

半沢の武器は何と言っても、MAX150kmの直球。

 今の時代、150km台を投げるピッチャーは少なくないが、半沢の直球はうねりながら浮いてくるように見える直球だ。

この半沢をどう攻略するかが、この試合のカギになることは言うまでもない。


「一年に負けるかよ……」


 僕は左肩を右手にはめたグローブで、撫でた。


――泣いても、笑っても、これが最後の夏……悔いのないピッチングをしてやる――


 唇をキュッと噛み締め、先頭打者に対して初球を投げた。


「ストライーク!」


「夏は終わらない……僕の夏はここからだ!」



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