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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第三章 キャプテンとしての役目 三年生編
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考えの違い

 答えが出ないまま、僕達は初の練習試合を行った。

相手は、以前も対戦したことがある成南高校だ。

今ではこちらの方が格上。

試合は僕達の圧倒的勝利に終わったが、いくつか課題は残った。

 締まりのない守備……悪送球の連発。

打撃こそ光るものはあったが、チームワークはてんでバラバラだった。

 そこで試合後、僕は部員達を集めた。


「今日の試合、何だあの有り様は! やる気あんのか?」


 感情を剥き出しにした所為か、自分の怒鳴り声で余計に熱くなる。

はっきり言って喧嘩腰だ。

 そんな僕を見て、内藤が止めに入るも、それを振り払い更に続けた。


「こんなザマでは、甲子園どころか、県大会も危ういぞ! わかってんのか?」


 こんなこと言いたくなかった。

だが、自分の意思とは裏腹に、口から言葉が溢れ出たのだ。

もはや、引っ込みがつかなくなった状態だ。

水を飲み、冷静になろうとしていた所に、市原が口を出す。


「さっきから聞いてりゃ、ガタガタと……」


「おい、市原やめろよ」


「内藤、お前は黙ってろ! この際、はっきり言う。俺は、受験を控えてんだよ。広野だってそうだ。確かに甲子園で活躍はしたいけど、俺達には将来が掛かってんだよ! お前には、ついていけねぇ!」


 その言葉を聞いて、僕は思わずカッとなり、気が付くと市原の胸ぐらを掴んでこう述べた。


「言いたいことは、それだけか? 自惚れんなよ。お前の代わりなんて、いくらでもいるんだよ」


 当然、市原もそこまで言われれば、面白くはない。

市原も、僕の胸ぐらを掴みながら言った。


「んだと? もう一度言ってみろ!」


 こうなると、お互いに引っ込みがつかない。

必死で内藤や広野が僕達を止めたが、遂には殴り合いのケンカにまで発展してしまった。

後輩達は、僕達を止めることも出来ず、ただ呆然としている。


「おるぁぁ」


「うぐっ……」


 さすが市原だ。

元不良というだけあり、ケンカには慣れている。

それに明秋の四番。

パンチの重さを、肌で感じた。

 どう考えても、勝てる相手ではない。

しかし、僕も負けじと鳩尾(みぞおち)に、パンチを返す。


「くっ……山岸、思ったよりやるじゃねぇか」


「はぁ……はぁ……」


 そんなことを褒められても、嬉しくない。

何故なら、僕の渾身のパンチを受けても、よろめきもしないのだ。

完全に僕の負けだ。

そう思った瞬間、目の前に千秋が割って入る。


「二人共、やめてよ。今まで一緒に戦ってきた仲間じゃない……こんなの……こんなの寂しすぎるよ……」


 千秋はそう言うと、泣きながら踞った。

わかっていた。

こんなことしても、何もならないことぐらい。

 握り締めた拳が、自然と緩んでいく。

残されたものは、後悔だけだ。

 キャプテンとしてチームを纏めることが出来ず、市原に言われたことが当たっていただけに、腹が立ったのだ。


「市原……ごめん。言い過ぎた」


「いいんだ。俺の方こそ、ごめん……」


 僕と市原は互いの非を認め、まるく収まった。

かのように思えたが、一部始終を監督に見られていたのだ。


「お前ら、自分達が何をやったのか、わかってんのか? この大事な時期に、停学だけじゃ済まされんぞ」


 僕の背筋は、凍り付いた。

何もかも、終わってしまう。

甲子園に行くことも、プロに行くことも。

 僕は膝を落とし、自らの行為を恥じた。


「監督……僕にはキャプテンをやる資格がありません。キャプテン辞めます」


 監督はいつものように腕を組んで、やれやれと言う表情を見せる。


「お前、何言ってんだ! 東海林がどれだけの思いで、お前を選んだかわかってんのか? お前なら出来る――やり遂げられるって思って選んだんだぞ。お前に取って、キャプテンとはそんなもんだったのか? 東海林だってな、キャプテンとしての器があった訳じゃない。だけどアイツは、苦悩しながらも皆を纏めたんだ。住田だって、東海林だって、ただの一度キャプテンを辞めたいなんて言わなかったぞ!」


「東海林さんが……」


 僕は、そこまで東海林さんがそこまで苦労していたとは知らなかった。

淡々とこなす姿は、気を抜いているようにも思えた。

しかし、実際は違った。


――僕はなんて臆病で、なんて情けないんだ――


「山岸、キャプテンはお前だけだ」


「監督……」


 監督は僕の手を引いた。


「今回のことは、ワシの胸に秘めておく。皆を纏められるな?」


「はい!」


 僕がそう返事をすると、内藤と市原が頭を叩いてきた。


「頼むぜ、キャプテン」


「内藤……」


「まぁ、なんだ。俺も受験のことで、いっぱいいっぱいだった。キャプテンはお前が相応しい……」


「市原……皆……僕について来てくれるか?」


「うぃぃっす」


 総勢百人以上の部員達が、僕の問いにそう返す。


「皆、ありがとう……これからもよろしく」


 ようやく、チームを一つに纏め上げた瞬間だった。


――住田さん、東海林さん、僕頑張ります。きっと今までにない強いチームに纏めあげますから――


 僕は決意を新たに、キャプテンとして動き出した。


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