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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第二章 甲子園への道程 二年生編
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決勝の相手は何処だ

 試合後、心地好い疲れを伴いながら、僕達はマイクロバスに揺られていた。僕と内藤を除く部員達は、試合で疲れたのか皆寝息を立てている。

 僕は気持ちが高ぶり眠ることが出来ず、ぼんやりと景色を眺めていた。すると何かを思い出したように内藤が、携帯を取り出し、


「寺が丘高校と東誠義塾(とうせいぎじゅく)の試合、どうなったか見てみようぜ」


 と、切り出した。

 当然、僕は寺が岡が対戦相手になるだろうと予想し、


「どうせ、寺が丘が相手だろ?」


 と、内藤に言い添えた。

 しかし、内藤は首を横に振り、携帯の画面を僕に見せた。携帯のワンセグには、守備につく東誠義塾の姿が見える。



――さぁ、寺が丘高校最後の粘りを見せるか? 九回表ツーアウトランナーなし。6-1、聖新学院と共に常勝と言われた名門です。最後まで諦めて欲しくないものですね。ピッチャーの鮫島(さめじま)君、振りかぶって第一球投げた。対する寺が丘高校の斎藤君これを引っ掛けピッチャーゴロ。鮫島君、これをしっかりキャッチし一塁に送る。斎藤君ヘッドスライディングを見せるも、アウトになりました。残念ながらここで試合終了です。いや~番狂わせですね。優勝候補の寺が丘高校が、敗戦するとは誰が予想したでしょうか? あっ、たった今、聖新学院と明秋高校との試合結果が入りました。2-1で明秋高校が勝利を飾ったようです。世代交代の象徴でしょうか? 明日の決勝は東誠義塾と明秋高校のようです。共に勝てば初の甲子園のようですね。それではまた明日お会いしましょう。以上、県営スタジアムからの中継を終わります――


 内藤はワンセグを切り、


「寺が丘が負けた……」


 と、溜め息混じりに言った。

 僕も順当に寺が丘が勝ち進み、決勝の相手になると予想していた。


「寺が丘……負けたな。でも、相手が何処だろうと僕達はやるだけだろ?」


 僕がそう言うと内藤は、


「そうだな。俺達は聖新学院と寺が丘高校に勝つためにここまで来た訳じゃないしな」


 と、語った。




◇◇◇◇◇◇




 翌日、昨日の天候と打って代わり、清々しい程の快晴が広がった。蝉の鳴き声も耳にすることが出来、夏本番と言った所だ。

 僕達は昨日、寺が丘高校と東誠義塾の試合が行われた県営スタジアムに、早々と入っていた。県営スタジアムは、プロの試合も行われる本格的な球場で、外野は青々と芝生が広がっている。

 僕達は、試合前の練習で程よく汗をながし、その時を待った。観客は、外野までびっしり埋まる程の盛況ぶりだ。さすが、県大会決勝ともなると話が違う。

 後攻である東誠義塾の練習が終わると、いよいよ試合開始だ。


「お願いします」


 お互い元気よく挨拶すると、東誠義塾メンバーはグラウンドに駆け出し守備位置につく。

 東誠義塾の注目すべき選手は三人。ここまで全試合投げ抜いてきた右腕二年生エースの鮫島(さめじま)。打たせて取るタイプのピッチャーだが、そのスタミナは尋常じゃない。


投手力85

打撃力55

守備力75

走力65

ガッツ95


 そしてその女房役で不動の四番、二年生の羽田(はねだ)


強肩90

打撃力90

守備力70

走力40

ガッツ70


 更には、チームの要であるキャプテン、三年生でセカンドの立花(たちばな)。千秋の話では、この立花が要注意だそうだ。鈴木さんに似たタイプで、守備力に評定がありバッティングもミート率が高く、走力もある。正に、三拍子揃った選手らしい。聖新学院の本庄と同様に、プロも注目している逸材だ。その証拠に、スカウトマンらしい人達が先程から双眼鏡で、立花の動きを追っていた。


強肩89

打撃力80

守備力92

走力92

ガッツ90


 そんな三本柱を抱える東誠義塾だが、甲子園はもとより県大会決勝は初めてだ。つまり、条件は僕達と何ら変わらないと言うことだ。どちらが勝っても甲子園初出場……尚更負けられない試合だ。


――ウォォォン――



試合開始のサイレンが、けたたましく響き渡る。




――キィィン――




 そのサイレンが鳴りやまないうちに、鈴木さんは初球を叩く。

打球は三遊間を割って、レフト前に転がった。さすが鈴木さんだ。甘い球は逃さず、初球でも躊躇なく振ってくる。チームナンバーワンの出塁率は、伊達じゃない。

 マウンド上の鮫島は、肩をぐるぐると回し、首を傾げる。そして、黒いストライプの入ったユニフォームの袖を引っ張る仕草を見せる。

 打席に入る広野は、バットを横に構える。ここは当然、送りバントの場面だ。

 鮫島は一塁の鈴木さんに背中を向けるが、しきりに警戒する。鈴木さんは鮫島のあまりの神経質ぶりに、リードは浅めだ。

 鮫島は、セットポジションから直球を投げる。なんとセットポジションからの投球は、サイドスローだった。

 クイックモーションで、広野もこれには対応が遅れてしまった。当たり損ねた打球は、逆回転しながら力なく一塁側にフワリと上がる。


「切れろ――っ!」


 思わずネクストバッターサークルにいた内藤が叫ぶ。しかしそれは、既にファーストが捕球した後だった。

 自軍の一塁側ベンチに飛び込むように捕球したファーストは、笑顔で白球を鮫島に返す。敵ながら天晴れだ。危険を省みず、打球を追い掛けるそのガッツ。寺が丘を打ち破った秘密はそこにあったと、僕はこのファーストのプレーで思った。 ワンアウト一塁。ここは頼りになる内藤のバットに、期待したい。


「内藤――っ! 頼んだぞ」


「任しておけ!」


 内藤は意気揚々と、がに股で打席へと向かった。


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