本庄という男
今回は聖新学院の試合後の様子です。
本編と関係ないので、読むか読まないかは、読者の方に任せます。
◇◇◇◇◇◇
こちらは聖新学院側のロッカールーム。歓喜を上げる明秋高校側と対照的に、咽び泣く声だけが響き渡っていた。
常勝と呼ばれた聖新学院が、二年連続夏を逃したことは屈辱以外の何物でもない。周囲の期待が大きいだけに、格下とも言える明秋高校に負けたことはエリート達のプライドを傷付けた。
聖新学院の監督である中野は、全国的にも鬼で呼ばれることで有名だ。そんな彼が、準決勝で敗退した部員に言葉を掛ける。
「我が聖新学院に取って、この敗退は許されることじゃない。お前ら、それはわかっているよな? 秋季大会でもそうだが、やる気あるか? 本庄! 言ってみろ!」
「あります」
「なら、何故負けた? 相手は格下の明秋だぞ!」
「監督! でも、明秋は弱くありません」
三年間野球をしてきて、初めての中野に対する口答えだった。
「貴様、それでも聖新のエースか? そんなことだからウチは負けたんだ……」
本庄は自分の言ったことに、後悔はしていなかった。山岸と出会って、彼は変わったのであろう。
中野は期待していたエースの陥落に、失望した。本庄は、そんな中野に真っ直ぐな目で、
「コイツらが……コイツらが来年、仇を取ってくれます」
と、話した。
中野は本庄に近付き、ギロリと睨み付け頭を鷲掴みした。
「本庄……三年間、ありがとな……」
「監督……」
中野は本庄を引き寄せ、目一杯抱き締めた。その目には、うっすらと涙が溢れていた。
聖新学院の夏は終わった。そして本庄の夏も。
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その後本庄は、進学かプロを目指すか散々悩み、最終的にプロの道を選ぶことを望んだ。
甲子園に出場しないで、ドラフトで選出されることはかなり難しい。だが、僅かな望みを賭け、更なる肉体改造に明け暮れた。
ドラフトを目前にしたある日、地元のテレビ番組のインタビューに答える本庄の姿があった。
「それではプロを目指す、本庄君にお聞きします。プロを目指そうと思ったきっかけは何ですか?」
「一番の要因は、明秋高校の山岸君に負けたことです」
「あの試合は、どちらが勝ってもおかしくない投手戦でしたね」
「ええ。しかし、負けは負けです。あの試合投げ終わって、このままでは終わりたくないと思ったんです」
堂々とインタビューに答える本庄の姿は、県民に勇気を与えた。だが一方で、愚行だと嘲笑う者もいたのも確かだ。それを払拭するかのように、本庄はプロに近いメニューで自主トレに励んだ。
そして迎えたドラフトの日、奇跡は起きた。
「六順目……万神タイガーズ。六位指名聖新学院……本庄 学……」
その日の夕方、地元のテレビ番組のニュースで、歓喜に沸く本庄の姿があった。それを部室で見ていた明秋高校野球部は、皆口々に『おめでとう』と言ったのであった。