表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
6/88

思いを伝えて

 雨が降りしきる日でも、風が吹き荒ぶ時でも、欠かさずやってきた草むしり。風邪で寝込みながらも、グラウンドのことが気になっていた。

 その夜、熱も下がり、夜風に当たるついでにグランドに赴いた。すると誰もいない筈のグラウンドに、人影があった。

 薄暗い月明かりの下、遠くから見てもわかるゴツい体型――僕がよく知る人物……内藤だ。

 こちらに視線が向けられたので、僕は内藤に歩み寄った。

 泥と汗にまみれた内藤は、笑顔で言った。


「お前、風邪治ったのか?」


「ん? あぁ、だいぶ良くなったよ。明日は学校も行くよ。とこで、何で内藤が草むしりしてんだ?」


「お前が休んだら、俺がやるしかないだろう?」


 それ以上、内藤は何も語らなかった。


 家の手伝いもあったのに、僕の代わりに草むしりをしてくれてたことに感動した。


「内藤……ありがとな」


 その言葉には、色々な意味が含まれていた。陸上じゃなく、野球を選んだ甲斐がある。そんな一コマだった。


 次の日から内藤も練習後、一緒に草むしりを手伝ってくれた。


――家の手伝いもあるだろうに……。


 内藤に済まないと思いつつも、僕はその好意に甘えることにした。




◇◇◇◇◇◇



 それから一ヶ月が過ぎ、桜の花弁はすっかり舞い散り、青々とした青葉が顔を出し始めた頃に、ある話が野球部に舞い込んで来た。

 我が明秋高校にほど近い、成南高校と練習試合が決まったのだ。


 簡単に練習試合というが、明秋高校野球部にとっては快挙だった。何しろ今までは、試合すら出来なかったのだから。


 僕と内藤は、胸を踊らせた。


 野球に必要な人数は、九人。ウチの野球部は、僕達二人を合わせて九人。つまり、『補欠はいない』と言うことだ。


 予想通り僕と内藤は、スターティングメンバーに選ばれた。僕はサードで、内藤は経験を買われキャッチャーに起用された。

 スタンドには千秋も応援に駆け付け、僕達はいいところを見せようと張り切っていた。


「皆、集まってくれ」


 キャプテンの住田さんが、ベンチ前に僕達を集める。


「わかっての通り、相手は格上だ。試合の感覚を掴んで欲しい」


――試合の感覚を掴む?


 僕は住田さんのその言葉に、違和感を覚えた。その言い方だと、勝利に拘らず試合に慣れればいい……そんな意味にも取れたからだ。

 案の定、先輩達は開き直ったかのような守備や打撃を見せる。キャプテンの住田さんも、例外ではない。

 思わず僕はスコアラーを務めていた佳奈さんに、こっそり囁くように愚痴った。


「佳奈さん、先輩達やる気なくないですか?」


「そうね……個々の能力は低くないと思うんだけどね……」


――能力? そう言えば、前日買ったプレートがあったな。


 僕はプレートを思い出し、スタンドにいた千秋を呼び寄せた。


「なぁ、千秋。この前買ったプレート持ってるか?」


「うん、あるよ」


「ちょっと貸してくれないか?」


「いいけど、何に使うの?」


「まぁ、見てろ」


 プレートを構え、住田さんに標準を合わせる。そして、液晶に住田さんのステータスが表示された。



強肩B

守備力B

打撃力A

走力A

ガッツF



『能力的には、バランスが良いのですが、やる気が不足しています』


 その結果を見て、僕も千秋も唖然とした。佳奈さんが言っていた通り、確かに個々の能力は高い。しかし、人並み以下にやる気がない。

 野球は個人技ではないのは、素人でもわかる。これでは、勝てるものも勝てない。一番必要な、チームワークが欠如しているのだ。


 何の見せ場もなく、試合は11-2の5回コールドで終焉を迎えた。


 ロッカールームで先輩達は、当たり前のように涼しい顔をしてスポーツドリンクで喉を潤していた。悔しがるどころか、白い歯を見せ笑顔さえ見せる。

 そんな様子に僕は腹立たしさを覚えた。その横では、握り拳を作りグッと堪える内藤の姿があった。

 僕は目で『抑えるんだ、内藤……』と、訴えかけたがそれは叶わなかった。


「先輩達は悔しくないんですか? それで、いいんですか?」


 三年の先輩の胸ぐらを掴み、内藤は叫んだ。


「内藤! 誰にものを言ってるんだ!」


 二年の先輩が止めに入る。その場は、それで丸く収まったが、それ以来内藤は練習に来ることはなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ