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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第二章 甲子園への道程 二年生編
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ライバル達の雄叫び

 マウンド上には、意気揚々と須賀が笑顔で登る。恐らく以前習得したシンカーを、投げてくるのは間違いない。

 僕は一番打者である堀田に、シンカーに注意するようにサインを送る。堀田は気難しい性格だが、人一倍練習熱心で、朝練の際も誰よりも先にグランドに来るくらいだ。

 現在はショートに腰を据えているが、ピッチャーとしての素質も秘めている。中学では抑えの左だったらしく、須賀と同じく下手投げ(アンダースロー)だ。

 現にプレート2でも、その素質が表れている。


投手力A

打撃力D

守備力C

走力A

ガッツS


 現時点では、僕と須賀、そして木下さんと三人ピッチャーがいる為、活躍の場がないと思うが、将来的には明秋のエースとして背負ってもらいたいと思っていた。


 堀田は左打席に入り、丁寧にお辞儀をする。一条にしてもそうだが、今年の一年生は礼儀正しい奴が多いように見受ける。

 須賀は改善したフォームで、初球を投げ込んだ。真ん中低めに直球が決まり、ワンストライク。

 下半身の強化と、フォームの改善で以前より球が伸びるように見える。球速も130km後半に乗るようになり、欠点であった体力面も強化を図ってきた。


「堀田、お前もピッチャーを目指すなら、このくらいの球を投げれるようになれよ」


 須賀は自信を持ったのか、堀田に対して強気の発言をする。堀田は律儀に『わかりました。須賀先輩』と、返す。

 いつものことだが、この須賀の調子に乗りやすい性格が、どうにかなればなと僕は思っていた。


「堀田、さぁ、行くぞ!」


 須賀はそう言うと、初球と同じコースに投げ込んだ。堀田は辛うじてバットに当てるが、惜しくも一塁線に切れファールになった。


「やるじゃねぇか。だが、やらせはせん……やらせはせんぞ」


 どうやら須賀は、昨日観たアニメのキャラになりきっているようだ。朝からずっとこの調子だ。

 そんな須賀に監督が怒号を上げる。


「須賀――っ! 真剣にやれ! 真面目にやらねぇとマウンドから引き摺り降ろすぞ!」


「すみません……」


 監督の一言で、和やかだった雰囲気が一転し、空気が凍り付いた。監督の言うことも、もっともだ。

 例え紅白戦と言えど、真剣勝負に変わりはない。僕も肝に命じ、気を引き締め直した。


 気を取り直して、須賀の三球目である。須賀は、早速シンカーを投げた。堀田は体を捻りながら、シャープなバッティングで三遊間を破った。

 須賀は納得がいかないのか、自分の指先を確かめる。僕が見た限りでは、球の変化に問題はない。となると、堀田のバッティングのセンスの良さも評価出来る。


 ノーアウト一塁。打席には、鈴木さんが入る。

 今まで、数々の突破口を開いてきた鈴木さんだ。この打席には、期待が掛かる。


「鈴木さん、お願いします」


 僕がそう言うと鈴木さんは『おう!』と答える。しかし、返事とは裏腹に、鈴木さんはバントの構えを見せる。公式戦を想定すると送りバントが正攻法だが、ここは打ちにいってもいいのではと考えた。

 須賀は一塁ランナーの堀田を確認した後、高速スライダーを放った。鈴木さんはすかさずバントの構えを解き、ヒッティングに変える。一塁ランナーの堀田もいいスタートダッシュを見せた。





――キャィィン――




 鈴木さんは上手くバットの芯に当て、打球はセンター前に転がった。

 浅い当たりにも拘わらず、堀田は既に三塁をものにしていた。見事なヒットエンドランである。

 ノーアウト一、三塁。初回から僕達赤チームに、チャンスが巡って来た。

 この最大のチャンスを活かすべく、僕は打席に立った。久しぶりの上位である。


「山岸、俺はこのピンチを乗り切るからな」


「望むところだ」


 須賀との真剣勝負は、これが初めてだ。マウンド上に須賀がいると、何だか不思議な気分に陥る。

 須賀は、一塁の鈴木さんと三塁の堀田をしきりに警戒する。


――シュパァァ――


 早いモーションで、三塁に牽制する。


「堀田、戻れ!」


 僕がそう言った時には既に遅く、堀田は中間位置まで飛び出していた。


「残念だったな」


 内藤は三塁へと駆け出し、ホームへの道を遮る。木下さんは、ボールを持ったまま堀田を追い掛け、内藤に送球した。


「アウト――っ!」


 堀田は内藤と木下さんに挟まれ、成す術なくタッチアウトになった。

 その間に、鈴木さんは二塁を目指す。内藤がそれを見逃す筈もなく、急いで二塁の松田に送球する。

 松田はがっちりと二塁をガードし、スライディングする鈴木さんにタッチした。タイミング的には、微妙な感じである。


「アウト――っ!」


 スライディングした鈴木さんの右足が僅かにベースに届いておらず、鈴木さんまでもがアウトになってしまった。

 ノーアウト、一、三塁のチャンスが一気になくなり、ベース上に静寂が訪れた。ツーアウトランナーなし。天国から地獄とは、正にこのことだ。

 僕はこのハイレベルな戦いに、言葉を失った。


「ツーアウト!」


 打席に立つ僕の後ろで、内藤が誇らしげに声を上げる。味方としては心強いが、敵にすると恐ろしい。

 それだけ明秋のレベルが上がり、高い完成度を誇ってきていたのである。敵チームとの対戦より前に、味方どうしのレギュラー争いは、激化することは間違いない。

 そんなことを思いながら、僕はバットを握る。ランナーがいなくなったとは言え、モチベーションが下がる訳でもない。

 須賀は振りかぶり、スローカーブを放つ。僕はわかっていても手を出し、空振りをした。

 この緩急の差が須賀の持ち味であり、最大の武器だ。

 MAX138kmのストレートと、100kmを切るスローカーブ。その差は約40km。

 この球速の差に、打者は翻弄されるのであろう。


――絶対に打ってやる――


 僕はバットを短めに持ち、須賀の放つ球を待った。




――スパァァン――



 今度は、高速スライダーだ。僕は振り遅れ、またもやバットは空を切った。

 続く三球目、須賀はシンカーを放った。先程、堀田に放ったシンカーより切れがある。



――キィン……ズバン――




 辛うじてバットに当たったものの、球はそのまま内藤のミットに納まった。


「ストライク、バッターアウト――っ!」


 最大のチャンスを作った赤チームだったが、終わってみれば打者三人だけの攻撃だった。


 一回を終えた時点で両者一歩も譲らず、ハイレベルな戦いは続いていく。

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