表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
40/88

食い違う意見

 僕達は夏の雪辱を晴らすべく、遂に常勝聖新学院を破った。

 ロッカールームに戻ると監督は、一人一人に労いの言葉を掛けた後、皆を集めた。


「皆、今日はよく頑張った」


 そんなありきたりの言葉から始まった。


「特に鈴木、内藤、お前達はよく頑張った。次の試合も、その調子で頑張ってくれ。…………それで次の試合だが、山吹高校に決まった。私情を挟むのはアレだが、山吹高校はワシの母校だ。絶対に負けたくない。お前ら頼んだぞ。ワシの言いたいことはそれだけだ。佳奈、後は頼む」


 監督はそう言うとベンチに座り込み、代わって佳奈が前に出た。


「えっと、対戦相手の山吹高校なんだけど、右腕エースの茂木(もぎ)君と、四番の鮫島(さめじま)君が要注意ね。二人共まだ一年生だけど、実力は折り紙つきよ。茂木君は、コントロールこそ悪いものの、150kmの速球を投げる豪腕投手よ。鮫島君に至っては、今大会で既に五本のホームランを放っているわ」


 佳奈がそう言うと、僕達は聖新学院戦の勝利から一気に目が覚め、現実に押し戻された。


「そう言うことだ。敵は聖新学院や寺が丘高校だけじゃない。県内でも、それだけの猛者がいるんだ。全国がどれだけ凄いかわかるだろ? わかったら、返事!」


「はい!」


 佳奈に言い添えた監督に、僕達は返事をした。


「試合は二日後。今日はゆっくり体を休めるんだ。さぁ、マイクロバスに乗り込め」


 監督が話し終えると、僕達は荷物を纏めた。


「山岸、お前は残れ」


「!?」


 僕は監督に言われるがまま、身支度もほどほどにベンチに座り込んだ。

 ロッカールームが、二人だけになると監督はゆっくりと立ち上がり僕を凝視した。ただならぬ雰囲気に、一瞬目を反らす。


「山岸、なんだ今日のプレーは? 野球は一人でやるもんじゃない。わかってんのか?」


「はい、わかってるつもりです」


「わかってるつもりだぁ? お前は全然わかってない。そんなにバックを信じられないか?」


「いえ、そんなことはありません」


「だったら何故、勝手な行動を取った? お前の所為で、勝てる試合も勝てなかったかも知れないんだぞ」


 監督の言いたいことはわかる。

だが、僕は思わず反論してしまった。


「でも、結果的に勝ちましたし、抑えることが出来ました」


「何だと? 自分一人の力で勝ったと思ってんのか? 貴様――っ! 次の試合、お前をレギュラーから外す。いいな?」


「…………」


 気付けは僕は、ロッカールームを飛び出していた。僕だって頑張ったのに、あの言い方はない。

 球場を抜け、悔しさのあまり涙を流していた。涙で滲んだ繁華街をさまよいながら、あの場から逃げ出したことに後悔していた。

 何故なら、監督の言っていたことは間違っていなかったからだ。

心の奥底を見透かされたようで、何も言えなかった。





◇◇◇◇◇◇




「くそ……」


 見知らぬ街の河原で、せせらぎを聞きながら時間だけが過ぎていく。日も暮れ始め、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。


「帰ろうか……」


 重い腰を上げ、一人土手の端をトボトボと歩く。時間の経過と共に、自分の犯した過ちに気付かされた。


――勝つことより、大事なものがある――


 知らず知らずのうちに、勝利に対する拘りが増えてきて、チームワークを疎かにしてきた。帰り道、痛いほど自分を責め続ける。


――コツ、コツ――


 何者かが、背後から忍び寄る。


「はぁ……はぁ……心配させやがって。この野郎!」


――ビシッ――


 僕が振り向くと、その声の主は僕に平手打ちを喰らわした。焼けるようにジンジンと熱いが、愛情のこもった平手打ちだった。


「監督……」


 そう、声の主は監督だった。


「お前の言いたいことはわかる。でもな、ワシの言いたいこともわかってくれ……」


 監督は汗を流しながら、涙を流した。


「監督……すみませんでした」


 僕はやっと素直に、監督に謝ることが出来た。監督は『もう何も言うな』と、僕の肩を抱き締めた。


 こうしてまた一つ学び、僕は人間として成長した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ