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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
3/88

プレート

◇◇◇◇◇◇



 記念すべき高校生活の一日目が終わり、身支度をしていると聞き覚えのある声が僕を呼び止める。


「蓮ちゃん、一緒に帰ろう」


 幼馴染みの『島貫(しまぬき) 千秋(ちあき)だ。


「おう、いいよ」


 唯一僕が心を開ける異性で、態度も大きく出せる子だ。


 ポニーテールがチャームポイントで、日替わりで変わるシュシュに拘りがあるらしい。僕としては髪を下ろした方が好きなのだが、そこまで言う権利はない。

 そこに、身支度を整えた内藤が駆け寄る。


「山岸、誰だよこの子。紹介してくれよ」


 若干頬を紅に染め、照れくさそうに内藤は言った。


「ん? あぁ、幼馴染みの島貫 千秋」


「初めまして、一組の島貫です」


「あ、俺……内藤。一組だったら、隣のクラスじゃね?」


 男臭い内藤が終始笑顔だったのには参ったが、僕達は三人で下校することにした。

 下校途中話していると、内藤の家も同じ方角だとわかり、桜並木の下を肩を並べて歩く。


「そう言えば、蓮ちゃん知ってる?」


 突発的に千秋が、話を切り出す。


 こう言った場合、他人から得た情報がほとんどで、宛にならない『蘊蓄(うんちく)』を並べるのが常だ。

 僕はまたかと言わんばかりに、面倒くさそうに『何が?』と答えた。


「蓮ちゃん、何も知らないのね」


「だから、何が? もったいぶらず話せよ」


「あのね……今日、『プレート』の発売日なんだって。一緒に買いに行かない?」


「プレート?」


 テレビか新聞で、聞いたことはある。確かそのプレートを人に向け翳すと、備え持ったスキルやステータスが一目でわかるシロモノだ。

 興味はあったが、今日が発売日だとは知らなかった。


「面白ろそうじゃん。三人で買いに行こうぜ」


「ほら、内藤君もこう言ってるし、行こうよ」


「そうだな……どうせ、今日は暇だし行くか?」


「やった~」


 千秋は制服のスカートをヒラヒラとさせ、両手を挙げ喜んだ。




◇◇◇◇◇◇



 帰宅後、制服を脱ぎ捨て待ち合わせの駅へと足を運ぶ。プレートの発売日の所為か、駅周辺は大勢の人でごった返す。

 その大勢の人混みの中に、一際大きい男が佇む。


――内藤だ。


 その横にはマスコットのように、ちょこんと座る小柄な千秋がいた。


「山岸、遅ぇぞ!」


「ごめん、ごめん。あまりに人が多かったもんだから……」


 苦しい言い訳をしながらも、僕は二人に合流し、お目当てのプレートを購入するべく百貨店へと赴いた。


「押さないで、下さい。数量は十分にありますから」


 店員が必死に客に呼び掛けるも、売り場は大混雑に見舞われた。

人混みの中を縫うようにして、ようやくレジに辿り着くとプレートは残り一個だった。


「すみません、十分在庫を確保したのですが、思ったより反響が大きくて……」


 店員に苛立ちを覚えたが、とりあえず最後の一個を三人で買うことにした。


「凄い人気ね」


「マジ凄ぇよ。とりあえず一個は買えたからいいか」


 結果的に、一番乗り気じゃなかった僕が一番はしゃいでいた。

 途中でそのことに気付き、恥ずかしさを誤魔化す為に二人を喫茶店へと誘った。

 喫茶店でプレート購入までのアレコレを話した後、いよいよ開封してみることにした。

 個人の物ではなく、三人の物という位置付けに多少なりの問題はあったが、まずは中身を見たい。それが、三人の本音であった。

 シックなデザインの外装箱を開けると、思ったよりシンプルなデザインだ。手のひらサイズなので、持ち運びも便利そうだと思ったのが第一印象である。

 僕は抑えきれず、真っ先にプレートに手を伸ばした。僕の気持ちを知ってか知らずか、千秋も内藤も手を伸ばそうとはしなかった。


 前面に液晶画面があり、横には小さなボタンがあるだけ。説明書を読むと、スキルとステータスを見たい人物に向け、カメラのようにシャッターを押すだけと書いてある。

 僕は手始めに、千秋にプレートを向けてみた。


『カシャッ』というカメラのような音と共に、液晶にはスキルとステータスが写し出される。


甘えん坊A

人見知りD

千里眼A

計算能力A


『人を見る能力が長けているようです。

サポートする業務に向いています』


 液晶画面にそう写し出されると、オートセーブされプレートに記録された。


「何だこれ? 千秋甘えん坊だったのか?」


「もう……蓮ちゃん、笑わないでよ。次は、内藤君よ」


「了解、了解~」


僕は慣れた手つきで、内藤にプレートを向ける。


強肩A

走力D

守備力B

打撃力A

ガッツS


『野球においてバランスが良く、攻守共に期待が出来ます。尚、野球以外はあまり期待が持てません』


「ふはははっ! 野球以外期待が持てませんだって。お前、根っからの野球バカだな」


「うるせぇよ。おい、貸してみろ。今度はお前の番だぞ」


 内藤は僕からプレートを取り上げ、構える。

恐らく僕の予想は、陸上選手としてのセンスが抜群。

そんなことが、液晶に浮かび上がると信じていた。


「な……なんだ……これ。お、お前……」


 内藤は体を仰け反らせながら慌て水を飲み干し、僕にプレートを渡した。



投手力A

守備力A

走力S

打撃力D

ガッツS


『野球をするのに、非常に素晴らしいステータスです。更に、秘めた能力がありそうです』


 液晶画面を見た僕は、一瞬で凍り付いた。


――何故、野球……。


 少しはかじっていたが、僕が中学三年間打ち込んできたのは、他でもない陸上だ。

 あまりのショックに僕は、言葉を失った。



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