表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
29/88

驚愕! 聖新学院

 ベンチ入りすると、あまりの大観衆に圧倒された。

東城高専戦も観客は多かったが、今回はその比ではない。

 内野から外野までまんべんなく埋めつくされたスタンドは、色とりどりの模様を描いていた。


「ビビるなよ。甲子園に行ったらこんなもんじゃない。お前らは、いつも通りにやればいい」


 多少言葉にトゲがあるが、監督のその一言で僕達は冷静になれた。

 今回は一塁側で、運よく後攻を獲得できた。

あとは、僕達が聖新学院を相手に何処までやれるかだ。


「よし、円陣を組むぞ!」


 住田さんを中心に、恒例の儀式とも言える円陣を組む。

やはり、住田さんがいるとチームも引き締まる。


「整列――っ!」


 整列の号令が掛かるとグランドに駆け出す。


「お願いします!」


 皆が守備位置につくのを見届けると、僕はベンチに引っ込んだ。

投げたいのは山々だが、今の僕には応援することしか出来なかった。悔しさを抱えて声を出すと、僕の気持ちを察してか監督が言う。


「応援も立派な仕事だ。試合は、十人目の選手の良し悪しで決まる」


 最もな意見だ。確かに応援があるのとないのでは、出てくるパワーも違う。監督も、たまには『まともなこと』も言うのだと思った。




◇◇◇◇◇◇




 初回、木下さんは先頭打者にヒットを許すと、続く二番打者にも連打を浴び、ノーアウト一、二塁のピンチを招いた。もともとスロースターターの木下さんだが、見ていて投球内容は悪くない。決して甘いコースにボールが入った訳でもないのに、聖新学院の二人は意図も簡単に打ち返した。

 早くも内野陣はざわつきを見せ、木下さんの元へ集まる。横目で監督を見るが、腕組みをしたまま微動だにしない。仕方なく僕は、引き続き戦況を見守った。

 内野陣が引くと木下さんは、苦しい表情を見せながら投球を続ける。

 三番打者をセカンドゴロに打ち取り、ようやくワンアウト。しかし、続く四番に左中間を破るタイムリーツーベスを浴び、二点を先制された。


 さすが、強豪聖新学院である。


『僕が投げていたら、どうなっていただろう?』


 相手チーム打者を見ながら、僕はそんなことを思っていた。


 その後は木下さんの踏ん張りと、内藤の好リードもあり追加点は与えなかった。

 一回を投げ終えただけだというのに、木下さんはヘトヘトでベンチに戻ってくる。『お疲れ様です』と僕が労いの言葉を掛けると、木下さんはこう返した。


「山岸、奴らヤバいぞ。俺では、全く歯が立たない」


 一見、弱気に見える発言であったが、聖新学院の破壊力を体感したからこそ、言える言葉だった。ベンチから見ていてもわかった。

聖新学院は、本庄だけじゃない……と。




◇◇◇◇◇◇




 そしていよいよ本庄がマウンドに登り、投球練習を始める。




――ズバァァン――




 投球練習からして、凄まじいキレだ。高速スライダー以前に、直球の球威も見上げたものである。

 先頭打者である鈴木さんは、本庄の投球練習を見て、翻弄されていた。本来、切り込み隊長と言うべき一番打者が塁に出て、突破口を開くのが野球としてのセオリーだが、鈴木さんは何も出来ず内野ゴロに倒れた。

 続く住田さんも凡打で倒れ、選球眼に優れている内藤でさえボール球に手を出し、ピッチャーゴロに打ち取られた。

 気付けば僅か六球で、明秋高校の攻撃は終了していた。

 ストライクからボールに、又はボールからストライクに移行すその高速スライダーは、確実にバットの芯を外してきた。三振を取るようなピッチャーではないが、本庄を攻略するには高速スライダーを見極めることが、必要不可欠だということを、改めて感じ取った。


――本庄……アイツは本物だ……――


 僕は現実を受け止めた後、マウンドを降りる本庄にプレートを向けた。



投手力S

打撃力C

守備力C

走力B

ガッツD



『投球術に関しては、類い稀な才能があります。メンタル面の弱さを補えば、より一層飛躍することでしょう』


スキル『対強打者』



「投手力S?」


 その他のステータスは至って平凡だったが、投手力に関しては桁違いだった。しかし、そのステータスより、本庄の弱点でもあるメンタル面に着目した。

 投手力に関しては想定内であり、打ち崩すにはメンタル面を叩くしかないと、確信したのである。

 監督の言っていた『足で掻き回す』意味がようやく理解出来た。

それはエリート故に、ピンチや挫折を味わったことがない本庄ならではの弱さだった。

 僕は、早速住田さん達にプレートの内容を伝えたが、だからと言って攻略することも出来ず、時間だけが流れていった。




◇◇◇◇◇◇




 三回にも一点追加され、0-3。これ以上点差を広げられると、後半厳しい展開を強いられる。

 四回裏、未だに明秋高校はノーヒットのままだ。

打順は一巡し、一番の鈴木さんから。

 ここまで腕組みをしていた監督がようやく口を開く。


「山岸……肩を温めておけ!」


「はい!」


 ようやくこの時が来たのだ。僕は、投げたくて投げたくてウズウズしていた。こんなことは初めてだ。




――キィィン――




 僕の気持ちと同調するかのように、内野安打ながら鈴木さんは出塁した。たった一本の内野安打だったが、明秋ベンチは大いに沸いた。


「よし、ここから反撃するぞ!」


 住田さんは、声を張り上げた。

二階堂語録

『応援も立派な仕事だ。試合は、十人目の選手の良し悪しで決まる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ