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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
14/88

マウンド上の重圧

 投球練習を終え、試合は再開された。ウォーミングアップの時間があまりなかったわりには、肩の調子はいい感じがする。


――肩が振れてる。練習の時にはなかった手応えだ。そうか、プレートに追加されたスキル『逆境に強い』とはこのことだったのか? ――


 僕は左腕を回しながら、プレートに追加されたスキルのことを思い出していた。

 そしてバッターボックスには、今まで一度もバットを振ることをしなかった藤堂が入る。相変わらずの威圧感だ。

 内藤は外角低めにミットを構える。一塁ランナーを睨み付けた後、セットポジションから一球目を放り込む。




――ズバン――




 内藤のミットに到着したボールの音が鳴り響くと、球場に静寂が訪れた。


「ス、ストライク!」


 審判も言葉を失い、判定するまでに時間が掛かった。


「な、何だ、アイツ! 凄げぇぞ! あんな速い球を投げる奴が明秋にいたのか?」


「や、山岸……す、凄げぇ……」


 審判が判定をした後、両チームからは僕の投球に驚く声が飛び交った。


「何て心地好いんだろう……」


 僕は普段通りに投げただけだ。だが、その投球に皆が驚いて心地好さに酔いしれたのだ。

 皆が驚く中、微動だにしない人物が一人いた。


――藤堂だ。


 藤堂はニヤリと笑みを浮かべ、今まで以上の威圧感を見せる。


「藤堂! 僕と勝負しろ!」


 思わず僕は宣戦布告とも取れる言葉を、藤堂にぶつけていた。


「いいだろう……」


 藤堂は僕に一言、そう返した。

 その間にも僕は、一塁ランナーに目を光らせていた。進塁を狙っているのか、比較的リードは広い。

 藤堂との勝負を前に僕は、一塁に牽制球を投げた。


「なっ……」


 油断したランナーは、飛び出し帰塁することが出来ず、鈴木さんにタッチされた。


「アウト――っ!」


 内野陣からは、歓喜が沸いた。僕はアウトを取ったことより、これで心おきなく藤堂と勝負出来ることに喜びを感じた。

 内藤は両手を広げた後、ミットを構える。つまり、制球は僕に任せるという合図だ。

 僕は、内角低めに投げようと決めた。意を決し、大きく振りかぶる。


――ヒュン――


 振り抜く腕が、空を切る。

 藤堂は不敵な笑みを浮かべ、左足でタイミングを取る。


「ふん……」




――キィィィン――




 藤堂はフルスイングし、甘めに浮いてしまった球を捉えた。痛烈な当たりは、僅かに三塁線を越え、ファールになった。


「危ない、危ない……」


 やはり藤堂は、恐ろしい男だった。僅かに甘い球を投げただけで、あれほどの破壊力。


「なるほど……やっぱりプレートのステータスに間違いはなかったわけだ……」


 何故だろうか? 相手が凄ければ、凄いほど燃えてくる。それは、陸上をしている時も同じだった。しかし今は、それ以上の興奮がある。


「取って置きを見せるか……」


 決め球として、唯一練習していた『スプリット』を。スプリットとは、簡単に言うと『落ちるボール』である。

 他の変化球と違い手首や腕の振りが直球と同じ為、見極めは難しいだろう。尚且つ、直前で急激に落下する軌道は、直球にしか見えない。言わば、消える魔球とも言えるのである。

 僕は決め球に、スプリットを投げる意思を内藤に伝えると、グローブの中でボールを握りしめた。


「藤堂……行くぞ!」


 僕は渾身の力を込め、そのボールに全てを託した。

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