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あの夏を忘れない  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第一章 陸上と野球 一年生編
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まずは、一勝

 夕食も終わり、メンバーは談話室で寛いでいた。


 僕は体の痛みを庇いながら、集会所の外に出た。今日の練習で打撃練習があまり出来なかったので、それを補う為に素振りをしようとしたのだ。

 人目を避ける為、唯一ひっそりと佇む街灯の下へと向かうと、何やら話し声が聞こえてくる。立ち聞きするつもりはなかったが、ついつい聞き耳を立ててしまった。


「佳奈……この大会が終わったら、俺と……」


「キャプテン、その話は前にも言ったはずです……」


「でも、俺……」


 見てはいけない場面に遭遇したのだと悟った。住田さんが佳奈さんに、告白をしていたのである。

 その光景を目の当たりにした僕は、ふと我を忘れバットを落とした。




――カラン、カラーン――




 静寂の中、虚しくその音は響き渡った。


「山岸? 山岸なのか?」


 僕に気付いた住田さんは、僕に駆け寄ってきた。心の整理がつかない僕は、二人から逃げるようにその場から立ち去った。


――どのくらい走っただろうか?


 夢中で走り続け、気が付くと河川敷に辿り着いていた。


「そうだよな……佳奈さんが、僕のこと好きなわけないよな……」


 そう口にすると、さっきまでの疲れがどっと出た。

 確かに野球を始めたきっかけは、佳奈さんだったかも知れない。

しかし、これだけは言える……『今の僕は、本当に野球が好きなんだ』と。

 言い訳にも似た感情をさらけ出していると、千秋がやって来た。


「はぁ……はぁ……やっぱり、ここにいたのね。探したんだから」


 汗だくになりながら、千秋はそう言った。


「ごめん……」


「皆、待ってるよ。帰ろう……」


 何処まで話を知っているのかわからないが、千秋はそれ以上何も話さなかった。申し訳ない気持ちはあったが、僕はただただ歩みを進めた。



 こうして波乱ずくめの強化合宿は、幕を閉じたのである。




◇◇◇◇◇◇




 そして、遂に待ちに待った地区予選の幕が開けようとしていた。

負ければ、後がない。つまり、一勝も出来なければ、住田さん達三年生の夏は終わるのだ。それが高校野球の掟だ。


 迎えた一回戦の相手――運命の悪戯か、以前大敗を喫した宿敵成南高校だ。

 空は雲一つない晴天――。それはこれから始まるドラマを、祝福しているかのように思えた。


 僕は、しばらく封印していたプレートを持ち出した。

 土壇場でステータスを見るのには、訳がある。すぐに見てしまったら、凹む可能性があったからだ。

 だからステータスの確認は、試合当日に見ようと決めていた。無論、内藤も同じである。


「千秋、プレートを頼む」


 千秋は待っていたと言わんばかりに、プレートを僕に向けた。



投手力A

守備力AA

走力S

打撃力D

ガッツS


スキル『逆境に強い』


『確実に野球選手としての、能力が向上しています』



 ステータスには、新たにスキルが付加されていた。守備力が向上していたのは嬉しかったが、この世界がシビアなのも同時に知った。


「次は、俺も見てくれよ」


 内藤も待ちきれないといった様子だ。すかさず、千秋は内藤にもプレートを向ける。




強肩A

走力D

守備力B

打撃力A

ガッツSS


スキル『ボールの見極め』


『努力の結果が出てきているようです。自分らしさで、プレイしましょう』


「ちくしょ~。あれだけ頑張って、ガッツだけかよ……」


「そう嘆くなって。最高ランクじゃん」


 内藤の結果に、吹き出しそうになったが、誰よりも努力していることを僕は知っている。


 内藤は頼りになる男だ。きっと試合でも、活躍してくれるに違いない。




「皆、集まってくれ。相手は練習試合で大敗を喫した、成南高校だ。合宿での経験を無駄にしない為にも、全力で行くぞ!」


 住田さんを中心に、円陣を組む。明秋高校野球部が、今、本当の意味で一つになった――。


「まずは、一勝!」


「オォ――っ!」


 ホームベースに両チーム集まり、いよいよ試合開始だ。




「お願いしま~す!」




 両チームの清々しい声が響き渡る。

 後攻めの僕達は、それぞれの守備位置についた。心臓の音が聞こえるほど高鳴る。




「プレイボール!」



 その声で、僕達の夏は始まった。



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